関西お嬢さま連合 ~『薔薇の園』の桜の姫君~ 「天はお嬢さまの上にお嬢さまを作らず、お嬢さまの下にお嬢さまを作らず。西園寺家の家訓でしてよ」
マナシロカナタ✨2巻発売✨子犬を助けた~
第1話『薔薇の園』
ここは関西某所に鎮座まします関西お嬢さま連合の本拠地――通称『薔薇の園』。
阪神甲子園球場10個分を優に越える広大な敷地に、500種近い様々な薔薇の花が一年を通して咲き誇る、世界最大の巨大温室にございます。
美しい薔薇に囲まれた優雅極まりない穏やかな園にて、関西でも選りすぐりのお嬢さま方がこれまた優雅にお茶を楽しんでおられました。
「今日のマカロンはわたくしのお気に入りのフランス三ツ星パティシエから、作り立てをプライベートコンコルドにて取り寄せましたの。皆さま、どうぞ召し上がりくださいな」
紗知子お嬢さまの言葉とともにメイドが机の上に広げた色取り取りのマカロンを見て、テーブルを囲うお嬢さま方が目をお輝かせになります。
「わぁ、なんて素敵な色合いのマカロンなのかしら。まるでパリの青空にかかる虹のようですこと」
「お味もとても素敵ですわ。まるで口の中でマカロンのラ・マルセイエーズが奏でられているようですわね」
「皆さまの仰るとおりですわ。わたくしまるで心がシャンゼリゼしているみたいですもの」
庶民の使う乱雑な日本語とはかけ離れた、どこか浮世離れした美しいお嬢さま言葉で盛り上がっておられる、薔薇の園の選ばれしお嬢さま方にございました。
ですがそこに一人のお嬢さまが息せききって走り込んでこられました。
快活さを表すようにポニーテールを揺らして駆け込んできたお嬢さまは、一目散にとある1人のお嬢さまのところへと向かわれます。
「桜子さま、大変ですの!」
「もう雅さまったら、はしたないですわよ。お嬢さまはいついかなる時でも常に優雅でたおやかでありませんと」
濡れ羽色の美しい長髪を右手でさらりとお耳におかけになりながら、桜子と呼ばれた特にお美しく優雅なお嬢さまが、走ってこられた雅と呼ばれたお嬢さまをやんわりとたしなめられました。
西園寺桜子お嬢さま。
総資産33兆円、日本を裏で操っているとまで言われる西園寺財閥総帥のご令嬢にして、この薔薇の園の主にございます。
さらには関西お嬢さま連合の筆頭お嬢さまもお務めあそばされておられる、お嬢さまの中のお嬢さまでありました。
「申し訳ありません桜子さま、ですが一大事にございますの!」
「まったく、雅さまはしょうがありませんわね」
桜子お嬢さまは苦笑しながら雅お嬢さまへと優雅に向き直られました。
「それでそのように慌ててどうなされましたの?」
「それが一大事なんですの! わたくしたち関西お嬢さま連合と協力関係にある中国お嬢さま連合が、九州お嬢さま連合との『比べ合い』にて一敗地に
「今、中国お嬢さま連合がお敗れになったと聞こえましたわ」
「あそこは西の守りを固める要衝ですわよ」
「それが『比べ合い』でお敗れになられたなんて」
「いったいどのようなことがおありになったのでしょうか」
雅お嬢さまのお話をお聞きになられたお嬢さま方が、口々に驚きの言葉を発されます。
「皆さま方、どうか落ち着いてくださいませ。お嬢さまは常にエレガントにあらねばなりませんわ」
しかし桜子お嬢さまのその一言で、突然の報に浮足立っておられたお嬢さま方は皆ハッとしたお顔をして我にお返りになられたのでした。
桜子お嬢さまは優しい笑顔でお嬢さま方を一度見渡されると、再び雅お嬢さまに問いかけられました。
「雅さま、詳しくお話ししていただけますか?」
「はいですの桜子さま! 事の始まりは九州お嬢さま連合が突然、中国お嬢さま連合に『比べ合い』を挑んできたことにありますの」
「『比べ合い』を?」
読者の皆様におかれましては改めて説明するまでもなくご存じかとは思われますが。
『比べ合い』とはお嬢さまが様々な分野で、その類まれなる力を競い合う技量比べのことにございます。
庶民であられます皆様により分かりやすく申し上げますれば、賭けマージャンや遊○戯☆王のデュエルと言ったところでしょうか。
それはさておきまして。
「中国お嬢さま連合は『お嬢さま道』に則ってそれをお受けしたものの、完膚なきまでに敗北してしまわれましたの」
「なんとそのようなことがあったのですね」
桜子お嬢さまは心痛のあまり、その言葉をお聞きになった一瞬で体重が0,1キロも軽くなられてしまいました。
「そして中国お嬢さま連合の筆頭お嬢さまであらせられました毛利元子さまは、大変お心を痛められてしまい、その地位をお退かれなされたそうですの」
「元子さまが……心中お察しいたしますわ」
桜子お嬢さまが小さく呟きながら目をお伏せになると、雅お嬢さまはじめ周囲のお嬢さま方も桜子お嬢さまと同じように、皆一様に心をお痛めになられます。
ここにおられるお嬢さまは皆、心優しき方々であらせられたのでした。
「現在、中国お嬢さま連合の筆頭お嬢さまには、九州お嬢さま連合からお越しあそばされた新しいお嬢さまがお付きになっているそうですの」
「傀儡というわけですわね。事情はよく分かりましたわ。雅さまもこのような報告をするのは大変お辛かったことでしょう。先だって英国から取り寄せました素敵なハーブティーがございますの。それをお飲みになられて、どうぞお心をお安めになってくださいませ」
「お心遣いありがとうございますの、桜子さま」
すぐに桜子お嬢さまの専属メイドが極上のハーブティを雅お嬢さまにご用意いたしました。
それを契機に『薔薇の園』では再びお嬢さま方の優雅なティータイムが始まります。
お嬢さまとは、いついかなる時も優先順位を違えてはなりません。
ここ『薔薇の園』においては優雅にお茶を飲んでお話をすることが、最もお嬢さま方に求められていることなのですから。
ですが関西お嬢さま連合をお導き遊ばす筆頭お嬢さまであるところの桜子お嬢さまだけは、事情が異なっておりました。
「九州お嬢さま連合が次にお狙いになるのは、ここ関西お嬢さま連合でしょう。お嬢さま方がこの『薔薇の園』で、変わらず優雅にお茶とお話を続けられるようにしなくてはなりませんわね」
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