第50話 嫌われてるなら堂々と

あれから時間は過ぎた。


公爵領に戻った私はというと、相変わらず離れでひっそり暮らしている。勿論ラナイス様と一緒に仲良く生活している。


しかし離れでひっそり……と言っても、本棟の方にお住まいのテルリアン叔父様にほぼ毎日呼び出されていて、公爵領と元マスメット領の領地運営の事務仕事と領地改革の素案作りのお手伝いをしている。


これじゃあ離れでひっそりしている時間が全然無いじゃないか!


まあ、当初の予定とは全然違う方向に向かってはいるが、公爵領の皆様に嫌われずに日々過ごせているので、これはこれで幸せなことだと思っている。


嫌われると言えば……ムトリアスに行ったカヒラの動向なんだけど、どうやらムトリアス側の王族、リエラレット元妃の実弟である国王陛下と初めて謁見した時に、そこに居る陛下の子供より私の方が美しいでしょ!この美しい私を敬いたまえ!褒めたたえろ!この国一番の美丈夫を連れて来い!この私が嫁に行ってやる!と、ふんぞり返って叫んでしまったらしい。(密偵として潜入しているファーガリオンのイガモノの報告より)


その発言により、ムトリアス王族方はカヒラを蛇蝎の如く嫌われてしまったらしい。


ああぁ……ヤッテモタ。溜め息しか出ないよ。あれほどお前はぽっちゃりだ!とリヴェイル殿下に言われたのにねぇ〜


私だってあの子が子供の頃は不遜な態度はやめなさいと注意していたんだけど、聞いてくれなくて諦めた。


しかし百万歩譲ったとして、そんな暴言を吐くのは心の中だけにしておけばいいんだよ。悪口を言うなとは言わないよ?人間だもの、いいたい時もあるもんさ。でも心の中だけで仕舞っておかなきゃ……特に王族なんて建前&腹黒&建前ぐらいのつもりで本音や本心なんて曝け出すのは自分の部屋に帰って叫んでりゃいいんだよ。


まあ今更言ったって仕方ないか……その暴言以外にもこっちに居た時みたいに傍若無人に振舞ってしまったカヒラは、リエラレット元妃と一緒にお城の端っこに追いやられて、細々と生活を送っているそうだ。


清貧な生活を営んで、ついでにダイエットすりゃいいんじゃない?と、遠い国から願っておいてあげた。


そんな私は、今ちょっとした変化に戸惑いつつも喜びに満ち溢れている。


はい、なんてことでしょう!懐妊致しましたっ!


先々代公爵の祖父母はそれはもう大喜びだった。国王陛下であるお父様も、地味ぃ〜に孫フィーバーが訪れたようでイガモノのお頭経由で赤ちゃんグッズや私へのプレゼントが送られてくるようになった。


テルリアン叔父様も、妊婦の私を気遣ってか、仕事を押し付ける頻度が少なくなった……ように感じる、あくまで感じるって程度だけどね。


嫌われ王女だったけれど、取り敢えず居場所を見つけられたかな〜と思ってる。


兎に角、元気な子供を産むぞ!


「殿下〜はぁいコレ!」


拳を突き上げた私の手にミツルちゃんのゴツい手で何かが握らされた。


広げてみるとピラピラピラ〜と刺繍が施された赤ちゃん用っぽい前掛けだった。


見るからにプルリンとした可愛さなんだけど……私をうっとりとした目で見詰めるミツルちゃんを見上げた。


「私が殿下の御子には可愛いぃぃお洋服作らせて頂きますね♡ああっ!?そうですぅ〜殿下と御子はお揃いのお召し物もいいですよねっ!?ああっ楽しみっっ!!」


「……」


忘れてた……うちには刺繍大好き夢見る乙女男子がいるんだった。ミツルちゃんにとっては恰好の獲物(赤ちゃん)がやって来ることになってしまってテンション爆上げ状態に突入していたのだった。


ミツルちゃんの後ろに控えているジリアンを見たが何度も頷いている。


何の頷きだ、それは?


更に隣の無表情のカレンを見たけど、首を横に振っただけだった。


分からん……でもね、これはこれでミツルちゃんの生き甲斐?が増えたみたいでいいんだけどさ〜


「そもそもだけど、男の子が産まれたらどうするのよ?そんなビラ……コホン、そんな女のコっぽい服を着せるの?」


ミツルちゃんは私と前掛けを交互に見てから


「是非とも女のコを産んでくださいぃ〜」


と、体をクネクネさせながら言った。


「無茶言うな!」


私が間髪を入れずに叫ぶと、横で聞いていたラナイス様が吹き出した。


私も同じく吹き出して笑い返した。

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悪女様のお通りだ!~嫌われてるなら見えない所へ参ります~ 浦 かすみ @tubomix

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