第34話 負け犬ジジイの遠吠え

マスメット卿が顔を赤くしたり青くしたりしている隙?にカンペ孫が叫んだ。


「そうですよお爺様!出来の悪い領民なんて要らないですよね?」


「ブッ…ゴホンゴホン」


思わず吹き出しそうになった。流石カンペ孫、ナイスパス!良い仕事をするなぁ。


「お…ま…そ…っ」


マスメットジジイが何かフガフガ言っているが、気にしちゃいられん。すると私が声を掛ける前に、テルリアン叔父様がテーブルの上に何かの書類を差し出してきた。


「領地返還申請書になります」


ラブリィィー仕事早えぇぇ!!


あ、もしかしていつでも書けるように持ち歩いてたんじゃないかな?


マスメットジジイは机の上の書類をチラ見してから勢いよく書類を叩き落した。


おいおいおいっ!


「そんなもの誰が書くか!」


「書かなければ領地を強制没収ですわよ?」


私の追撃にもマスメットジジイは不敵に笑い返した。


「そんなことにはならんっ!」


「どうして?」


「私にはリエラレット妃の…」


「先程も申しましたが、リエラレット妃は卿のお力にはならないわ。今までは上手くやり過ごしていたようですが、もう領地返還を了承しなければ後が無い状態なのをご理解しているの?領地を持たない他の貴族方のように事業をお輿したり、投資などを初めてみては如何かしら?」


のほほん貴族からいきなり領地を取り上げては可哀相かな?と思ったので、一応の救済策を伝えてみた。


私の横に座るテルリアン叔父様から、じっとりとした目を向けられている気がする。


余計な知恵を与えるなっ!…というところだろうか?まあこうした方が良いよ?とかのアドバイスなんてこの人達がまともに受け取る訳ないと思うけど?


するとまたも、カンペ孫がナイスパスを打ち込んで来た。


「そうだよっお爺様!面倒な領地運営なんて止めてしまって、これからは事業だよっ投資だよ!アドヴル侯爵やヒギル侯爵みたいに事業で大儲け出来るじゃないか!」


「ブッ…」


つい吹き出してしまったが、このカンペ孫は本当に貴族子息なのか?アドヴル侯爵は私の母の実家…現在の当主はヨヒア叔父様だ。おまけに実姉の嫁ぎ先のヒギル侯爵まで引き合いに出している…申し訳ないけど両方とも私の親戚だよ。


この二つの侯爵家は私が異世界の知識(金儲け)が詰まった虎の巻を元に事業を興してもらったんだもん。私がアドバイザーだから儲かってるんだからね?


「うるさいわっ!そんなものせずとも妃殿下に頼めばなんとかなるんだ!」


カンペ孫の浮かれた発言にマスメットジジイが怒鳴り返している。


「孫に渡した不穏な手紙とナノシアーナ殿下に送った手紙の筆跡鑑定。ジョナの証言…これらを司法省に提出します」


テルリアン叔父様は冷ややかにそう言ってマスメットジジイとカンペ孫を見た。


司法省…これは異世界でいうところの国税局と警察庁がチームを組んでいるような省だ。国王陛下直結の省という位置づけで、国王妃でも手を出せない省だと思う。因みに“イガモノ”のお頭達も厳密にいうとこの省の職員?みたいで警察(こちらでは軍や王立騎士団)よりも上に存在しているらしい。


マスメットジジイはまた、ぐぬぬ…小僧めっ!みたいな目でテルリアン叔父を睨みつけている。


「覚えておれよ!!」


そう叫んでマスメットジジイは申請書も書かずに孫を連れて帰ってしまった。


ジジイは馬鹿だな~返還申請して許可がでれば、取り敢えずは国から補償金貰えるのに~強制返還されたら土地は取られて何も貰えないよ?馬鹿なの?それとも急いで王城に行ってあのうるさい国王妃に泣きつくつもり?


まあ無駄だけど…


私はテルリアン叔父様が書いてくれたジジイをぐぬぬにしてやるぜ!な提出書類と一緒に例の手紙とカンペ孫のメモを纏めて私の一筆を付けてお頭に渡した。


「直接、国王陛下に渡して」


「御意」


お父様にはこれで十分伝わるはずだ。


書類を手にお頭が部屋を出て行った。そしてテルリアン叔父様を見ると満足げに頷いているのが見えた。


どうもひっかかっていたことがあるので、思い切ってテルリアン叔父様に聞いてみた。


「そもそもなのですが、カイフェザール公爵家に私が降嫁して来たのはテルリアン叔様の思惑通りなのですか?」


私がそう聞くと、テルリアン叔父様は目を丸くした。


「思惑なんてとんでもない!陛下からナノシアーナ殿下の降嫁を打診頂いたのも、本当にたまたまですし、こうやって殿下が私達にご協力頂けるのも…たまたまですよね?」


「……」


胡散臭い…なんだかテルリアン叔父様の掌の上で転がされている気がするよ。私の性格を読んでるっぽい発言するし、これにお父様も一枚噛んでないか?


疑い出したらきりがない…

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