第25話 あなたは太っ……禁句です

これはもう思い切って避けてきた話題を出すしかない。カヒラが絶世の美女ですよね?って聞いてみよう。


「あの……カヒラってとても美しいと思いません?」


意を決した私の発言の後、朝食の席に静寂が訪れた。


給仕してくれていた、ジリアンが小さく飛び上がったのが見えた。


皆の反応が怖い…!


そう思いながら恐る恐るラナイス様の顔を見上げると、ラナイス様は見事なポカン顔をしていた。


「失礼……カヒラ殿下ですか?」


ラナイス様が妙に引っ掛かる言い方で聞き返してきた。 


何言ってんの?


「ええ…カヒラですわ。カヒラは世界一美しい王女です…よ…ね?」


私の声は段々と小さくなっていった。だってラナイス様以下、ミツルちゃんやいつも無表情のカレンまでがポカンとした顔をしていることに気が付いたからだ。


そして暫く呆けた後、ラナイス様は大きな息を吐き出した。


「そうか…いや、そういう噂は聞いていたしまさか真に受けているとは…」


ラナイス様は俯いて何かブツブツと呟いていたが、顔を上げると


「良いですか?今からお伝えするのは真実ですからね」


と、告げた後にゆっくりと話し始めた。


「念の為に先に申し上げますと、私の審美眼は普通だと思いますので」


「はぁ…」


この言葉と先程からのラナイス様の言葉で、流石に私も気が付き始めていた。


「カヒラ殿下を美しいと賛美していたのはカヒラ殿下のご生母の国王妃と国王妃付の使用人や貴族達ですよね?違いますか?」


「はい…そうですね」


「それはですね…え~と大人が子供に対して可愛いねとか、褒めてあげる感じに似ていると言いますか…はっきり申してしまえば王族に対する忖度と申しますか…」


「!」


ちょっと待てよ…分かったよ、分かってきましたよ?何か?つまり大人がカヒラに、よっ!カヒラ美人だね!可愛いね!と、上辺の褒め言葉を言っていることを、私は真に受けてカヒラって美人なんだ~つまりその反対で私は不細工なんだ~と思い込んだということ?


「え?でしたら…太っているのは…好まれない?」


「そうですね、そういう趣向の方もいますが、一般的には好まれる傾向ではありませんね」


な…なんてことだーーーー!!!!小さな頃から大人達の会話を聞いていてすっかり美醜逆転の世界だと思い込んでいたよぉ!


ラナイス様は何度も頷きながら更に、驚きの真実を教えてくれた。


「王城内は一種異様な空間とでも申しますかね…叔父上からお聞きした話では、登城した時には国王妃とカヒラ殿下に対して、体型その他容姿への不敬発言をしないように気を使っていたそうですよ。何でも見つかれば投獄されたりとかもあったとか…自然とカヒラ殿下の周りにはふくよかな体型の使用人で固められていて、カヒラ殿下に真実を知られないようにしているようですね」


「真実?」


「カヒラ殿下が……お太…という真実です。それは決して美しいと賛美されるものではないということです」


やっぱりぃぃぃ!!!それじゃ…私ってば滅茶苦茶勘違いしてたってだけじゃないかぁぁ!


「周りがそう言うので…思い込んでいました」


「しかし、どうしてそう思い込まれたのでしょうね?聞けば済むことですよね?」


ふあああっ…それは私が元異世界人だからですっ!変なファンタジー小説の知識を持っていたせいで中二病が発動して、やっぱり異世界と言えば美醜逆転の世界だったんだ!という気持ちが膨れ上がってしまって思い込んだんですぅぅ!


……なんてことを叫べるわけもなく、ラナイス様とミツルちゃん…おまけにラナイス様の副官のリガーダさんにまで色々と世の常識とは…みたいなお小言を頂いてしまったのだった。


結果…カヒラって白饅頭なうえに、性格も悪いのでひっそりと周りから嫌われてるっぽかった。カヒラの周りにお太り様が多かったのも、カヒラへのヨイショ要員だったとかで、他の貴族の皆さんにお太り様が多いのも、私達はカヒラ殿下と国王妃のお味方ですとも!というアピールでわざわざ太っているとかで…オツカレ。


そしてどうやらカヒラは自分のようなお太り様=美女だと思い込んでいる(思い込まされている)のだということも分かった。


他国の王族から婚姻を拒否られているのも、容姿云々の前にカヒラ殿下は性格に難アリ…というのが近隣諸国に知れ渡っていることが原因らしい。


さて、これからどうなることか…

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