第13話  お呼びで無いよ?

執事長のチャベルに準備が出来ました…と声をかけられて、カイフェザール公爵が優雅に私をエスコートしてくれたので廊下に出たのだが…


この閣下の反応はおかしいぞ?私の想像では、もっと素っ気無く


「そうですか!では、離れでおひとり様をヨロシク!」


とか言われると思ってたのに、どうやら私が無事に離れに入るまでお見送りまでしてくれるのか…優しいねぇ。


そうしてエスコートをされたまま中庭の回廊を通り、離れと呼ばれる建物の前に来たのにカイフェザール公爵が帰らない。


なんだろう?私が建物の中に入るまでしっかり見届けるつもりなんだろうか?


閣下は私と共に建物の中に入ろうとしたので、私は制するつもりで閣下に声をかけた。


「カイフェザール公爵かっ…」


「ラナイスとお呼びください」


「!?」


ラナイスって閣下の名前じゃない?!な…名前?え?呼べってか?


只々驚いて固まっている私を放置して、閣下は離れの建物の中に私の腰を支えたまま入って行ってしまった。


いやいや?待て待て待てー-っ!!


私の心の中の制止の声は届かず、そのままリビングの様な広々とした部屋に連れて行かれて閣下と対面で座らされてしまった。


終始、笑顔の閣下に何を言われるのか…


「それにしてもよかったです、いつお伝えしようかと思っていましたので…」


「はぁ…」


何をお伝えしようと思ってたのだ?


「実は…殿下には私と共に離れでお住まい頂こうと思っておりましたので」


「ふぁっ!?」


「ええっ!?」


私の珍妙な叫び声は、メイド長の驚きの声に上手く掻き消されたようだった。


そんな珍妙な叫び声を華麗にスルーしたままで、閣下…ラナイスとお呼び!様は


「殿下も私と同じ思いでおられたとは…」


と、うっとりするような微笑みを浮かべている。


ちっ……違いまーーすぅ!?何故そうなったどうしてそうなった!?


そんな私の心の叫びをメイド長が代弁してくれた。


「そ…そんなお話は聞いておりませんがっ?」


そーだっ!そうだぁー!!


「公爵家の当主が離れにお住まいになるなんて前代未聞ですよ!」


そーだっ!そうだぁー!!


「テルリアン様にお伝えしますよっ!」


そーだっ!言いつけてしまえー!!


「叔父上には了承を得ているよ」


「…え?」


勢いよく口撃を繰り出していたメイド長の勢いが、ラナイス様の了承ですよ発言で一瞬で止まってしまった。しかしだ、いつの間に叔父様のテルリアン=カイフェザール候に了承を得ていたのだ?


私が胡乱な目で見ていたことに気が付いたのだろう、ラナイス様がひとつ頷くと、侍従長のチャベルに手を挙げて見せた。


「人払いを…」


「!」


この状況で二人きりですと?


ラナイス様(一応旦那様)は人払いが済んだ後に、何故だが立ち上がり床に膝を突いた。


「メイド長…ジョナが使用人にあるまじき不敬な物言いを致しましたことをお詫び申し上げます」


これは…!


私は慌ててラナイス様に声をかけた。


「大丈夫ですわ!どうぞお掛けになって下さいなっ」


変な受け答えをしてしまったが、慌てているので勘弁して欲しい。


いやいや…私はラナイス様を侮っていたよ。


国の隠密機構、イガモノ(←勝手に命名)に調べさせた限りでは、ラナイス様はほぼ一年中魔獣討伐で公爵家を留守にしていて、公爵家の内情には疎いとの報告を受けていたのだ。


ラナイス様はメイド長と私の先程のやり取りを見て、慌てず騒がず対処をしていた。つまりはと予想していたのかもしれない。


私がそう思いながら見詰めていると、ラナイス様はニッコリと笑みを浮かべた。


「私が叔父上との仲が良い事はご存じで?」


「…はい」


ラナイス様の叔父のテルリアン卿は、公爵家の実務全般を請け負ってはいるが、決して出しゃばらずに裏方に徹している。


社交も必要最低限しか行わず、今だ独身を通し、領民の評判も良く、そしてラナイス様との仲も良好。


非常に理想的な公爵家の補佐であり、叔父だと思う。


「ただ…それでも私と叔父に仲良くなってもらいたくない者達もいるようでして…」


ラナイス様の引っ掛かる物言いに首を傾げていると、ラナイス様は爽やかな笑顔を引っ込めてニヤリと笑ってみせた。


「派閥…というものをご存じでしょうか?」


あ……懐かしいわ、多分私の異世界語のヒヤリングが間違って無ければ、派閥だよね?ああ…懐かしい、この世界にも派閥ってあるの?


そりゃあるか~身分制度があり、人が集まれば上下関係が生まれ、徒党を組んで練り歩く…どこの世界でもある光景だ。


「どうやら公爵家内で“ラナイス派”と“テルリアン派”があるそうですよ?」


ラナイス様の言葉に白目をむきそうになった。

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