第30話 ブランの木
スキル『スマッホ』の資源の情報画面を見ると、俺たちが制圧した岩塩採掘地域の北東に何かの資源を示すアイコンが表示されている。
水滴のようなアイコンで、色は薄い茶色だ。
一体何の資源だろう?
(石油か? それとも食用油の原料になる作物とか?)
俺はそんなことを考えながら、『スマッホ』の画面を拡大した。
茶色の水滴アイコンが沢山増える。
資源が大量にあるということだ。
茶色の水滴アイコンに、吹き出しが表示され何の資源か説明文が書いてある。
『ブランの木 酒の実がなる』
俺は吹き出しの説明を見て、自分の目を疑った。
「えっ……?」
酒の実……?
酒の実って何だ!?
俺は木の枝から、沢山酒瓶がぶら下がっている光景を想像した。
いや……ない! ない!
「ガイア! どうした?」
アトス叔父上が呼んでいる。
何かしら資源があることは、確かなのだが……。
酒の実……信じてもらえるだろうか?
俺はアトス叔父上に質問してみた。
「アトス叔父上。酒の実を知っていますか?」
「えっ!? 何だって!?」
「酒の実です……」
「ガイアよ。酒は、職人が樽で作るのだ。木には、実らないぞ」
アトス叔父上の冷静な返しが辛い。
俺が常識を知らない子供みたいじゃないか!
俺だって、酒造りは樽で行うくらい知ってますよ!
改めてスキル『スマッホ』の画面を見ると、酒の実がなるブランの木が群生しているのは、すぐそこだ。
「アトス叔父上。隣接地域を、ちょっとのぞいてみましょう」
「おお! そうだな! 攻略する前に、どんな場所なのか確認しよう!」
ブラッディベア解体現場を大トカゲ族のロッソたちに任せて、俺たちは、偵察に向かった。
俺が先導し、後ろからアトス叔父上と俺の恋人ジェシカが続く。
ジェシカは、解体現場は人が多いからとついてきた。
森に入って十分ほど歩く。
スキル『スマッホ』の情報画面によれば、この辺りだが……。
「ガイア! あれ!」
「「あっ!」」
エルフ族のジェシカが指さす先には、大きな実をつけた木が生えていた。
背の高い木で、大きな実は、高い位置にある。
「ほう! なかなか大きな実だな! 食いでがありそうだ!」
アトス叔父上は、フルーツだと思っているようだが、あれが酒の実だ。
その証拠に酒の香りが微かに漂っている。
「アトス叔父上。あの木の実は、酒じゃないですか?」
「えっ!? 酒だと!?」
「ええ。微かに酒の香りがします」
「私にもわかる! お酒の匂いよ!」
ジェシカも酒の香りが、分かるようだ。
ジェシカが木を登り始めた。
エルフ族は樹木の上に家を作る。
木登りはお手の物だ。
ジェシカは、酒の実がなっている枝にたどり着いた。
とても手が届かない。
三メートルくらいの高さがありそうだ。
ジェシカは腰のナイフで酒の実をもぐと、ロープを使って酒の実を地上に降ろした。
「ガイアよ……。大きいな……」
「アトス叔父上。たっぷり酒が詰まっていますよ……」
酒の実は、一抱えほどの大きさで、巨大なブドウの実だ。
皮は厚いが、押すとぷよぷよしていて、中に液体が詰まっているのがわかる。
俺たちは、そっと子供を抱くようにして酒の実を持ち帰った。
*
「う、うまい!」
ブルムント族の村に戻って来た。
アトス叔父上は、さっそくブランの木からもいだ酒の実を試していた。
木樽に酒の実の中身を注ぐと、甘い香りがした。
指先でなめてみると、ブランデーに近い上品な味で、アルコール度数は、かなり高そうだ。
これ……身内で飲むのはもったいないな……。
俺は木樽の蓋をそっと閉めた。
これは売り物だな。
するとアトス叔父上が血相を変えた。
「ガ……ガイアよ! なぜ、蓋を閉めるのだ!」
「これは良い酒ですね」
「そうだ! こんなに良い酒は初めて飲んだ! 味! 香り! 酒精の強さ! 全てが素晴らしいぞ!」
「そうですよね。で、あれば、この酒は売り物にしましょう」
「なっ……!」
アトス叔父上の顔に『絶望』の二文字が刻まれた。
自領でとれる良い酒を、自分たちで飲んでしまったら、何も残らない。
だが、他国、他領に売れば、金が手に入る。
アトス叔父上も、それがわかっているから、がっかりしているのだ。
「まあ、お祝いの時は、振る舞いますから」
「絶対だな! 絶対だぞ!」
こうして俺たちは、岩塩と酒の実――ブランの木の酒を手に入れた。
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