ゴーストは過去の記憶の夢を見る

旦開野

スート村のゴーストたち

 ゴーストとは、死んだ人間の第二の人生である。体を捨て、魂だけの姿となったゴーストは、誰もいない真夜中の森や廃墟などでひっそりとその生活を楽しんでいる。

 しかしここ、スート村の墓地に住むゴーストたちは少し違う。彼らは他のゴーストたちと比べても随分と明るい性格をした奴らばかりで、毎晩毎晩、まるでお祭りでも開いているかのようにはしゃいでいる。今日も太陽が沈み、月が顔を出すと、(今日はどうやら満月らしい)それぞれ棺桶から顔を出し始めた。

「やぁ、レベッカ。フェイスペイントを変えた?よく似合ってるよ」

「ジョン、今日のあなたのお洋服素敵ね。それどうしたの? 」

「自分で作ってみたんだ。崖から落ちたらしい鹿の毛皮を拝借してね」

「かわいそうだけど、そんな素敵な洋服にしてもらえれば、鹿さんも浮かばれるんじゃない? 」

 スート村の北側、山の麓にある墓地に住むゴーストたちは陽気なだけでなく、とても派手でおしゃれ好きだ。こんな明るくて派手な奴らが大騒ぎしているんだから、誰もゴーストの集まりだなんて思いもしない……と言っても俺らは人間からは見えないのだけれど。

 ところで、俺はこいつらが元人間であるという話をしたが、彼らの記憶は一体どうなっているのか?人間だった時の記憶は今も持っているのだろうか?答えはNoだ。彼らは自分が人間だった時のことはすっかり忘れている。

 人が死んだらゴーストになる。ゴーストになった瞬間に人間だった時の記憶がぱたっとなくなる……というわけではない。最初は誰しも人間だった時の記憶をちゃんと持ち合わせている。しかしゴーストの姿でこの世を彷徨っているうちにだんだんと記憶はうすれ、人間だった頃の記憶は無くなってしまう。楽しかった思い出も、大切な人と過ごした時間も。記憶がなくなっていく時間はそれぞれ差がある。4年5年とかけてゆっくり忘れていくものもいれば、1日2日してすぐに、自分が何者であるかを忘てしまうものもいる。いわゆる個人差というものだ。俺はどうなんだって?……まぁこの話を聞き終わる頃にはわかっているはずだ。

 今日するのは、ある一人のゴーストの話だ。彼も長い間、人として生きていた時間をすっかり忘れていた。しかし突然見るようになった夢をきっかけに記憶を取り戻して、自分には大事な人がいたことに気がつく。これはそんな彼が自分の、そして彼女の記憶を取り戻そうと奮闘する、そんなお話だ。

 そういえば俺の名前を教えていなかったな。俺はティム。このお話にもちょくちょく顔を出すから覚えておいてくれよな。

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