説教レストラン

岩田へいきち

説教レストラン

うん? なんだこの違和感、固い。


ドアが重たいというより施錠されたように固かった。


 ここは、田舎の国道沿いにある格安のファミリーレストランだ。気にはなったが、ぼくは、妻と二人、中に入った。滅多に来ないレストランだが、いつものようなメニューを頼んでランチを済ませた。


近くの席でお母さんとその娘さんと思える4歳くらいの女の子が二人で食事をしている。お母さんは、もうすっかり食べ尽くしているが、女の子の前には、まだ食べ残した物が多く プレートの上にのっている。

 そして、お母さんは、それを食べるよう促しているようだが、女の子は、ブツブツ言って子ども用のフォークとスプーンを両手でそれぞれ持ってテーブルを叩いている。


 お母さんは、しばらくそれを眺めていたが。さすがにしびれを切らし、「早く食べなさい」と叱りつけた。


「いやん、お母ちゃんなんかあっち行け」


 更に叱りつけるかと思いきや、さすがは優しそうなお母さん。「じゃ帰ろうか」とレジへ。


 女の子は、何事も無かったかのようにケロッとしてトコトコお母さんに着いて行く。支払を済ませたお母さんに、更にトコトコついて行く。


 お母さんは、ドアを開けて外へ、女の子の寸前でドアが閉じる。

 

女の子は、慌ててドアの取っ手に手を伸ばし、押すが開かない。いくら押してもビクともしない。

 お母さんは、スタスタと駐車場へ向かっている。


「いやーん、お母ちゃん」


女の子はもう一度押してみるが全然開かない。


「お母ちゃーん」


お母さんは、娘が後ろからついてきてないことに気づいてないのか? 知っててわざとなのか? どんどん車の方へ。ついに乗り込む。


 さすがは優しいお母さん、車で待つのだろうと思った瞬間、動き出した。


――ええっ! ああ、お母さん、娘さんはまだここに。


国道に出る前に一旦停止をして、行ってしまった。それをドアのガラス越しに見ていた女の子、遂に泣き叫ぶ。


『こらー、娘よ、お前のお母ちゃんは、行っちまったぞ。お前があっち行けと言ったんだろう。俺は、お母ちゃんの言うこと聞かないお前なんか出してやらないぞ』


更に泣き叫ぶ女の子。


―――   それから約10分。


 さっきの赤い車だ。お母さんが、戻って来た。開けてもらったドアから女の子が飛び出す。無事、車に乗せてもらい、帰って行った。


それから女の子は、お母さんの言うことを聞くようになったかどうかは分からない。子どもとはそういうもんだ。


 しかし、もし言う事を聞かなくなった らこのレストランがまたお灸をすえてくれるだろう。


終わり

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説教レストラン 岩田へいきち @iwatahei

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