第4話 当時の桜刃組について話すね
この頃は、薬師神子在さんと
在さんが組長になった四年前の二十一年は三ツ矢焔がほぼ組員と化していた。物理的な暴力が必要な場面は主に焔と時也さんで切り抜けられていた。しかし、その翌年の春から焔が組と距離を置くようになった。その頃には他の組との関係も安定していて荒事自体が随分と減ったが、主力が時也さんだけでは不安があった。というか、明らか足りない時に在さんが自分を駒にするから――二代目の時に実戦経験を重ねていたから抵抗がなさすぎるんだと思う――、優作さんの胃痛が加速していた。
武器売買等の取引を行える人間も少ないのも問題だった。時也さんと奈央子ちゃんはできることが少ないから、優作さんと在さんが主にやっていた。二人の才覚のお蔭で仕事は増え続けた。それなりにセーブはしているようだったけれど、優作さんも在さんもタフ過ぎて客観的に見るとひく量を扱っていた。過労で倒れないのが不思議だ。それに、組長の在さんを一人で動かす訳にはいかないので、彼のボディーガードが必要になる。それが組員だけでは賄えない時が少なからずあった。結果、危険が少ない場合は在さんの恋人の三ツ矢
空気を良くする人がいないっていうのも困る。在さんも優作さんも良く言えば落ち着いている、悪く言えば暗い。時也さんは明るいが、趣味が悪いのでまわりが嫌な気持ちになる発言が多い。創ちゃんは在さんと同じタイプ。焔は根が真っ暗なのでどうしようもない。奈央子ちゃんは明るいけど、無駄に空気を読んじゃう子だ。他の問題点と違って桜刃組の誰もこれを気にしていない。在さんに言ったら不思議そうにされたので、きっと認識すらされていない。
こういう事を二十四年の初冬に焔に言ったら、突き放したように宥められた。
「何だかんだ言っても今の形でどうにかなっているんだからいいじゃないか。そもそも、外部の人間のお前が口出すことじゃないよね」
俺もだけど、と続いたが、焔の言葉が桜刃組の共通認識である気がした。何だか悔しくなったので、焔が道場を継ぐ道を止めて桜刃組に正式に入ることを勧めた。怒られたので、しつこく続けていたら泣かれた。可哀想になって止めた。
優作さんに話を持っていったら、彼は唸った。それから、在さんの代になってすぐ、まだ僕が桜刃組に接触していなかった頃に大勢に声をかけていたことを教えてくれた。その大勢というのが、初代の時代を知っていると同時に二代目の時に桜刃組を抜けた人達だった。
「その条件なら信頼できるし、勝手も分かっていると思ったんだ。でも、皆、駄目だったよ。二代目組長の時に負った心の傷が大きくてね……」
優作さんの悲しげな言葉に、反射的にその人達の子どもが思い浮かんだ。
彼等ならば程よく初代を知っていて、二代目をよくは知らないんじゃないかな。それにきっとアイデンティティを喪失している子もいるだろうし、扱いやすいかもしれない。
僕の考えを述べると、優作さんは沈んだ。納得いかなくて在さんに話したら押し黙られた。はっきりとは言葉にされなかったが、態度から生理的嫌悪を抱いたことが伝わった。その時はそれで止めにした。でも、在さんにちょっと不満を持った。
在さんが根本的に人間不信を持っているっていうことも組員が少ない理由だ。その原因は父親――つまりは二代目組長――に負わされた暗い過去だ。彼を接する時、誰もがそれを意識せずにはいられない。だから、誰もがある程度彼を壊れ物みたいに扱う。僕自身そうしてしまう部分はあるけれど、この時ばかりはいけない気がした。
ただ僕の行動とは関係ない所で、在さんが変わってきている兆候が二十五年の初めに見られた。平穏に年を越しちゃったのだ。挙句、創ちゃんと付き合うことになっていた。
二十一年一月八日に恋人と家族を一気に失ってから、毎冬調子を崩していたのに。毎年甲斐甲斐しく世話を焼いていた焔も驚いていた。僕も一月中は戸惑う他無かった。
でも、二月になる頃には冷静になってきて、このチャンスを逃す訳にはいかないと思った。以前考えた条件に合う人間をリストアップし、ざっくりと経歴を調べた。それで桜刃組に欲しい順に並べた。温かくなった頃に桜刃組にそれを見せた。引き入れるのは自分でして、組員の負担を増やさないことも提案した。
賛成したのは、単純に仲間がほしい奈央子ちゃんだけだった。時也さんは二代目組長の狂信者だから、初代組長を知っていることを嫌がった。在さんは別の理由で嫌がった。
「桜刃組に関わらないで生きていられているんでしょう? そのままでいた方がいいよ」
組長が言っちゃいけないことじゃないの。挙句に、若頭の優作さんもその意見に賛同した。この組はどうなっちゃってるんだ。
それでもめげずに必死に食らいついた結果、許しが出た。もう少し調べて、本人の様子を窺い、本当に適合すると思ったなら接触し、丁寧に話を出して、入ると確信したら誘うことという面倒な手順を約束させられた。
その後、足止めのように在さんに仕事をよく頼まれた。あからさまでちょっと苛立ったけど、仕事が多いのは純粋に嬉しいので許してあげちゃった。在さんに手綱握られるのも嫌いじゃないし。
そうして、秋になって漸くリストの一番上に躍り出ていた清美君のもとに来れた。
まさか軟化しているとは思わなかったけど。
それでも、腕っぷしよし、頭よし――文系なのに理系の成績も同じくらい良かったんだから偉いよね――、ついでに僕の目の保養にもなる清美君を逃す訳なかった。
話しかける機会が訪れたら、さっさとステップを踏んで強引にでも連れていくつもりだった。
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