好きと言えるうちに

俺氏の友氏は蘇我氏のたかしのお菓子好き

好きと言えるうちに

好きだ。


そう伝える相手はもういない――――







俺は恋をした。

一目惚れというやつだった。


高校の入学式。

皆んなの前で緊張の色を見せず、淡々と挨拶をする彼女に惹かれてしまった。


奇跡的に同じクラスに、さらには隣の席になった。


物理的距離は精神的距離に相関する。


そんな研究結果があるように、俺たちは仲良くなった。

同性の友達よりも多くの時間を過ごした。


彼女がどうかは知らないが、俺はずっと彼女を愛していた。


でも、この関係が壊れるのが怖くて直接言えずに居た。


いつかは言えると思っていた。

このまま青春を二人で駆け抜け、卒業する頃には言えると思っていた。


なのに、彼女はその時を迎えずに逝った。


ひどく寒い冬の朝だった。


先生がいつもと違う神妙な面持ちで教室に入ってきて、一言。


「侑李が死んだ」


そういった。


死んだ。そう直接伝えるのは教育的にはいけないだろう。

でも、大人である彼でさえ、昨日まで進路を決めかねていた彼女が突然姿を消したことを理解しきれていないのだろう。

だから、ストレートな言葉で伝えた。


俺は瞬時に理解した。


小説なんかじゃ近しい人の死をいつまでも受け入れられないなんてあるが、俺はそこまで器用じゃなかった。

ずっと隣で笑っていた少女が、居なくなった。


そんな受け入れがたい事実を、俺の心はすんなり受け入れた。


葬式は質素ながらに執り行われた。


彼女の親族と、クラスメイトが数名いるだけの簡素なものだったけど、俺にはそれが大きく見えた。


遠ざかる棺を見て、俺は泣いた。

彼女の両親よりも、保育園からの親友よりも、先生よりも大きな声で泣いた。








好きだ


―――――受け取って貰える人が居なくなったその言葉は、今日も空に消えていく。


あの日と同じ、真っ青な空に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

好きと言えるうちに 俺氏の友氏は蘇我氏のたかしのお菓子好き @Ch-n

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ