友へ

第三十章 風 ~前編~

 黒龍が扱う龍属性を込めた龍玉が何者かに持ち去られていることが発覚した事で、これの争奪戦が始まることを知覚した俺達は、騎士団本部の騎士長室の中で暗い雰囲気に包まれる。


「龍玉が使われると、通常の属性使いじゃ太刀打ちできなくなる。そうなれば、ゼクル。お前のアレを使うしかない」


 ドラゴンの発言に、レナが静かに顔をしかめて、ライトが聞き返す。


「アレ……って?」

「秘密兵器があるんだ。ったく、カトラスに使った以来だな」


 それを聞いていたレナは少し考える仕草を見せてから、思い出したのであろう。小さく溜息をこぼしながらこちらをやんわりと睨んでくる。いかにも『そういや説明受けてないけど?』と言わんばかりの顔だ。無視しよ。


「ドラゴン、あれは知られると良くない。だから黙ってたんだろ」

「む、すまん。失念していた」

「ま、ゼクルの秘密兵器でカトラス戦で使ったて事は……アレか」


「は?」


 ライトはアルヴァーン戦争時代に見ている。自分だけ知らないとわかった途端に乙女が決して出してはいけない類の声を出すレナだが、無視する。


「でも、出来る限り使いたくない技なんだよなぁ。ともかく今は使わせない事に意識しないと」


「はぁ……。そういえば、真の龍属性ってどんな能力?」

 ため息を隠さずに出したレナが、この場では諦めたらしく、別の質問を投げかけてくる。

「平たく言えば、龍炎、龍氷、龍雷の全部使えて、絶対の精度じゃないけど遠距離攻撃をホーミングに変えられる」

「バケモンじゃん」


 簡単な解説をしていると、ライトが左のこめかみを押さえながら発言する。

「……確か、ゼクルの部下にめっちゃ強い子居なかったっけ」

「部下って何だよ。こっち無職やぞ」

「いや、戦争で」

「あーー。……居たな。連絡取ってないけど」

「……お前さぁ」


 一緒にふざけ合ったことを思い出すが、今はもう戻らない時代の事だ。膝を軽く叩きながら立ち上がると、軽く深呼吸する。


「まぁ、行方は追ってみるよ。それと、遺跡行かないと」


 現状では、守護ボスの単独討伐が九体。パーティでの討伐数は十七体。

「もうすぐこれも終わりだ」

「遺跡の攻略数ねぇ……。それだけが条件か分からないけど」

「ま、やれるだけやってみますよ」


 そう言いながら、俺はレナと共に騎士団長室を後にした。




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 隣国、レイナスの山奥に存在するアッサ遺跡。ここで、最後のソロ討伐が始まる。辺りは完全に緑に覆われており、人の手が一切入っていない様は圧巻とも言える。今どき少ないのであろう原生林に目を向けながら、遺跡入口の前に集まるレイナス騎士団の団長へと挨拶をしておく。


「いや、しかし稀有なお願いですな。陛下にも事情があるんでしょうが」


 今回隣国の遺跡を攻略する事になったのは勿論のことながら我等が国王カリバーの交渉によるものだ。確か『急遽、守護ボスの単独撃破が出来るか、試す必要が出てきた為』とかなんとか。八割程は事実を伝えている筈だ。

 

「申し訳ございません。ご協力頂いて」

「いえいえ。中で発見されたものは全てこちらで頂くというので、助かりますよ。よもや、剣豪と共に戦えるとは思ってもいませんでしたな」

「私は2世なだけですから」

 世間話も程々に、遺跡内を深くへと侵入していく。


「しかし、ボスを単独撃破など、夢のまた夢でしょうなぁ」

「何かあったように見えても、索敵に異常がなければ突っ込まないようにお願いできますか?」

「勿論です。ですが、良いのですか?」

「はい。お願いします」


 彼らは万が一の為に守護ボスと戦う事を想定してここに来てくれている。俺が無理だと判断するか再起不能の重症を食らったら、突入する流れだ。



「では、私は前線で体を温めてきます」


 そう言い残し1人前線へと戻った俺は、リザードマンに苦戦する騎士に向かって声を張る。

「隙があったら下がっていいよ!」


「は、はい!」


 数秒後。リザードマンの大振りのナタをきれいに弾き返した騎士は、その反動を使いながら大きく後ろへと下がってきた。その隙に差し込むように一気に前に躍り出た俺は、左腰の白銀の剣を抜き放ち、向かってきたリザードマンを迎え撃つ。距離を詰めて剣を振りかぶると、左手に持つ小盾を掲げてくる。振りかぶったままスキルを発動させる。ウェポンチェンジによって得物が変わりハルバードになった俺は、そのままフルスイングでハルバードを叩きつけ、小盾もろともリザードマンの体を吹き飛ばした。

 ソードスキル・アックスディザスターを発動させ、ハルバードの重みを使っての三連撃振り下ろしを当てる。短い悲鳴を最期に消えていく身体を眺めながら、索敵スキルの反応を確認。奥に三体のスケルトン。その先、十字路に、一体のリトルデュラハン。

 デュラハンは厄介だ。なんせ物理耐性が極めて高く、感覚的には70%以上は軽減されているように思う。


 先に走り、スケルトン三体と会敵した俺はウェポンチェンジを使い右手のハルバードをクローに変える。左手にも現れたソレの感覚を確かめながらゼロ距離まで近付いたら、スキルを発動。影撃を使った俺の身体が一瞬でかき消え、スケルトンの影から飛び出す。そのまま後方からライオネルリンクを発動させる。六連撃の範囲技が三体とも刈り取り、再びウェポンチェンジを使いながら奥へと進む。その手に握られているのは、あの日砕けたものと限りなく近い黒色の剣。走りながら構えを完了させ、そのままスキルで突進する、


 細剣用重突進技・アルビレオが、轟音を響かせながらデュラハンの鎧を貫通する。物理耐性が高い敵ではあるが、ダメージが無効化される訳ではない。赤い光がその先20m程までを照らしてから、静かにデュラハンを呑み込んだまま消えていく。


 やはり、俺に出来るのは、こういう戦い方だ。後ろが追い付いてきた気配を感じ、周りをざっくりと索敵しながら合流を待つ。


「……はぁ」





 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 ボス部屋前。その重々しい扉の前で、全員が息を飲む。これまでに彼等が経験したことのない景色が、今始まろうとしているのだ。


 扉に手を付きながら後ろにいる騎士団長に声をかける。

 

「……強いですね。ここのボスは」

「やはり、感じますか」


 剣気を感じる。強い剣気はここのボスが強者であることを伝えている。だが、俺の方が強い。


「記録しても良いのですね」

「えぇ。おまかせします」


 今回のこの戦闘を、後ろから記録したいと言われた時に、カリバーは少し嫌な顔をしたが、俺が許可を出すとすんなり従った。俺の個人情報だと考えていたらしい。俺としてはここで戦果を上げて他のボス攻略に呼ばれることで、聖杯の条件に近づく事が出来るのは大きい利点だからだ。



 後ろで3名が動画を撮り始める。それを背中で感じながら、扉にかけた手に力を入れていく。


 ゆっくりと動いた扉の先に、小さな人影が見えた。人影の数は六人。強い剣気は中央の一人から。左右に二人ずつと前に一人、剣気を一切放たない五人は場所を把握するのが難しそうだ。


「んじゃ行くか」




 踏み出し、いつもと同じ様なペースで中へと入っていく。一定の距離まで入ると、前の一人が走り込んでくる。

 飛び出して来た剣を左腰から抜いた黒剣で防ぎ、鍔迫り合いへと移行する。その瞬間を見計らってから、左右の四人が動き始める。

「……動くな」

 俺が小さく呟いた瞬間に俺の背後から剣が四本飛び出し、それぞれの動きを止める。ダモクレス、クラウソテス、ティルヴィング、ガルバリオンの四本だ。


 周りの四人を封じながら、俺は自分の左手を上に掲げた。その手に現れるのは白銀の刀。とぐろを巻いた龍があたりを睨みつける。


「真龍剣、タイプバースト」


 真龍剣の属性解放状態。20秒間のみ、真龍属性の無制限仕様が可能になる。


「まずは、君からだ!」

 左手の剣を、鍔迫り合いしている目の前の剣士の脇腹へと叩きつける。龍炎がその身体を包み、消えない炎がじわじわと命を削り取る。右手に全力の力を込めて奥へと押し飛ばし、右側の敵に真龍剣でソードスキル・スラッシュハーケンを発動。まっすぐ向けた剣先から、まるで矢印のような形の斬撃が飛び、ダモクレスと斬りあっている彼(?)の足へと突き刺さった。龍氷がその身を完全に停止させ、近くに居たもう一体を巻き込む。即座に自分の背後に剣を向け、属性出力最大で雷撃を放つ。俺の背中を狙っていた4人目を性格に射抜いたその雷撃は龍雷であり、激しい閃光と共に、近くに居た5人目へと感電する。


 これで前衛を無力化、残り14秒。最後の一人にこれだけの秒数があればこと足りる。どうせ第2フェーズがあるだろうし、インターバルで属性解放が消えるのも目に見えている。


 恐ろしく長い太刀を持った剣士は、ゆっくりと何も持っていない左手を掲げる。その手に小さく光が灯った瞬間、俺のがそれを許すなと叫ぶ。



 

 だが、俺の持つ攻撃方法ではもう間に合わない。魔法転送もダメだ。ここでは人の目が多すぎる。しかもそれどころか、録画されている。黒龍の力もダメだ。前のソードブレイカー戦では使ってしまったが、極力敵に知られていない最終手段にしたい。



 

 もう、これしかない。



 

「相棒!」


 俺がそう叫ぶと、横を高速で突き抜けていく黒い影。黒い片手剣が風を裂きながら飛来し、その左手を切り落とす。オレンジ色の光を消しながら飛んでいく左手の先を見ながら、文字に出来なさそうな叫び声をあげるボス。


「オオオオオォォォォォ」


 ソードバレットを射出しながら、出たそばからコネクトしていく。約30本の剣とコネクトし、自身の左右に展開する。


「レイディアント・オーダー!!」


 幻影の刀剣が全て剣先をボスへと向ける。



 飛び出した剣が体を覆い隠すレベルで深く突き刺さり、ボスを無限の闇へと引きずり込む。



 静かになったボス部屋だが、後ろに大声で言い放つ。


「まだ終わってない! 入るな!」


 その瞬間に空間を割き、玉座が現れる。いつか見たソイツ。逃しはしない。今度こそ仕留める。大層な置土産をしてくれたこいつが相手なら、もう映像なんて気にしている場合じゃない。





「属性変換」




  

 第2フェーズが始まろうとしている。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る