第27章 ライトニング
夢は夢じゃ終われない。
どこか諦め気味な俺でも、その信念だけはずっと持ち続けていた。
だが、俺以上に、夢を追い続ける仲間がいる。仲間はみんなそうだ。
一族の悲願を果たす為。
愛する者の仇を討つ為。
父の言う勇者になる為。
ある感情を取り戻す為。
そんな壮大な夢を持つ彼らの人生は、今、俺の手に託されている。何故俺なのかは分からない。だが、俺に託してもいいと、そう思ってくれた仲間に、返せるものがあるのなら戦い続けるしかない。
ただ、ただひとつ。自身の望みのために。
剣を握れ。叶えたい夢があるなら。
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全剣天皇。剣の頂にいる彼は、何を思い、なんのために戦うのか。常に飄々として何事も軽くこなす癖して、感性は一般人のソレを持つ。もともと謎が多い男ではあるが、最近になって謎がいくつか増えた。
1つは剣術大会で見せたソードスキル。
金色のソードスキルは、誰も見たことがない剣筋と効果を持っていた。斬撃の判定内に押し留める効果など、存在するとは思っていなかった。しかし、こちらのスキルはあまり注目されていない。何度も見返さなくてはその異質さに気付かないという部分と、それとは別にもっと派手な異変があったからである。
青い突き技である。
あれは恐らく片手剣用スキルのメテオドライブか細剣用スキルのアルビレオであるが、アルビレオのスキル色は青では無いし、両スキルともあれ程の大きさの光は伴わない。まさか、空中から轟音を発しながらこの国の騎士長を地面に叩きつけ、一撃でコアブレイクするとは誰が考えただろう。
「とんでもねぇ野郎だな…つくづく」
そうつぶやき、少し離れた場所で椅子に座る男を見る。
「どうだった、人類最強は」
「強い。普通では考えられんほどにな」
なるほど確かにありえないと言っていいだろう。今のこの男は戦闘技能においてあの全剣天皇と同等レベルまでに成長している。しかし、それでも一方的に逃げ帰る事しかできなかった。人類最強とは存在があり得ないほどの理不尽な強さを持っているということだ。
「全剣天皇よりも強いって噂は本物だったか…」
そうつぶやくと、座る男が吐き捨てるように応える。
「あの世代は化け物揃いだ。そろそろ取りに行くべきだ」
「何をだ…?」
「宝石の石」
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「ソードブレイカーって、結局何が狙いなんだろうな」
自室のベッドで寝転びながら、レナに向かってつぶやく。
「知らんよそんなん。剣に恨みでもあるんじゃない?剣嫌いとか」
「剣使ってんのに…?」
「突っ込むのそこなんだ。……まぁ、そうだよね、謎」
「目的がわからんのよ、何がしたいのアイツ」
「国の戦力削りたいとか?」
「犯罪者も折られてるぞ。しかも戦力なら剣以外も削る」
「確かに」
そこで、レナがプカプカ浮かびながら考え込んで、大声を出す。
「わかった!!!!!!!!!!!!!!!!!(音割れ)」
「うるさ」
俺のセリフを完全無視してレナが続ける。ひどい。
「俺が本物の全剣天皇や! ってことでしょ」
「なんで関西弁やねん」
俺の渾身ツッコミもスルーするレナ。なんやこいつ。
「……本物の全剣天皇」
その言葉に、どこか意味がありそうな気がして、俺は深い思考の闇に落ちていく。
「あ、そういえば、」
と、ギリギリのタイミングでもう一つ用事を思い出した俺は、レナに声をかける。
「なにー?」
気の抜けた返事をするレナに真剣な顔で向き合う。俺の表情を見て察したらしく、レナは地面に降りて近くの椅子に腰掛ける。
「昨日、帰ったら話をしようって言ってたけど、できなかったから」
「……あ、そうだね。うん」
「レナにいくつか質問があるんだ」
「ゼクルも、極力隠すのはやめてね」
「…………善処する」
ため息をつきながら、レナが続きを促す。
「1つ目。倉庫でカトラスと戦ったとき、なんの為にあそこにいたのか」
「カスに呼ばれたから」
「え? あいつからそんなこと聞いてないぞ」
「でしょうね。断ったし」
謎が謎を呼ぶとは、まさにこの事である。
「じゃあなんでいたの」
「同じ話が政府から来てたから、やるしかなかったよね。カスと同行するのが嫌だったからそこは拒否しただけ」
「かわいそう」
「どっちが?」
「どっちも」
「そっかぁ」
頭を全く使わない会話をはさみ、少し休んだところで本題に戻る。
「2つ目。ライズのこと、どのぐらい知ってる?」
「属性使いなのかは知らない。物凄い剣士ってぐらいしか。そういうことはあんまり話さなかったから」
「そう……か」
「そもそもとしてあの時はまだ魔法使いにもなってなかったから、属性使いとか、剣士とかよくわかんなかったよね」
「あぁ、そりゃ質問しようとも思わんよな」
「そうなんだよねぇ…」
「ライズの属性は即死属性だ」
「…………は?」
「ライズが捕まった時のこと、話しただろ? あの時言った特殊体質はそういうこと」
「……即死? 相手は攻撃食らったら死ぬってこと?」
「属性出してりゃそうなる。別に通常攻撃もできる」
「ものすごい特殊ね。……そりゃ研究したくなるのもわかるわ」
そこでレナは頷きながら返事した後、もう一つ質問を投げかけてきた。
「剣の腕は? ゼクルとどっちが強いの?」
「俺って言いたい時期もあった」
「察するわ」
「やめてくれ」
そこでレナは真面目な顔に戻って続ける。
「でも、異常だよね。」
「なんで?」
「だって、ゼクルより強いとか。チートじゃん」
「そんなことはないと思うけど。師匠とか、リゲルさんとか」
「あの人達がチートでしょ」
「まぁ……うん」
なんだか言いくるめられた気がするが、実際問題俺とライズでは剣力に差がある。戦闘能力というところではほぼ互角の時期もあった。昔の俺は自分で魔法を使っていたからである。ライズはその特殊な属性の負荷のせいで魔法を使うことができないのだ。
「そもそも即死属性がチートじゃない訳ないやん」
「だからさ、さっきから何で関西弁まじるの?」
「黙れ」
「え、今の俺、どこが悪かったの?」
俺の事を完全にスルーしたレナは続けて話す。
「で? 他は?」
「ない」
「そうか、じゃあ私の番ね」
「まぁ、そうね」
俺がそう答えると、殆ど間髪入れずにレナが1つ目の質問を投げ込んできた。
「青いアルビレオは、アレ何?」
「頑張ったら青くなる」
脳死の俺の返答にレナが引きつった顔をする。
「……ゼクル?」
「……いや、アレに関してはまだ説明できない」
大きくため息をつくレナ。しかし、何かあるのだろうと考えてくれたらしく、次の質問をしてくる。
「ゼクル、最近、身体の中に変な力があるよね」
「変な力? なんだろ。変なの感じる?」
その俺の言葉に、鋭い一言が突き刺さった。
「君の中に誰がいるの?」
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アルヴァーンは比較的平和な国だ。だが、犯罪が全く無いわけではない。
さらに言うと、黒龍が住んでいるレェンセン山はアルヴァーンの領土内である。基本的には敵対してこないとはいえ、それだけ巨大な力が近くにあると、やはり不安因子にはなる。様々な危険要素がある場所で、俺が騎士になった理由。
俺は、英雄になりたかったから。
だけど、俺にはなれないんだと思った。
俺の友には、誰よりも英雄めいた男がいる。誰よりも、強い夢を持つ男がいる。彼のようにはなれない。俺には俺の戦い方と戦う理由がある。それは決して、優劣なんかじゃない。
騎士と英雄は似ていると思う。だからこそ、俺が騎士になることで、彼にも可能性を見せてやりたい。そんな思いがある。余計かもしれないが、本心だ。アイツ以上に騎士に向いている奴はいないのだから。
だから。
「だからゼクル。 ごめんな」
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