第26章 ファーストピース

 電龍刀は世界最強の片手剣とは言ったものの、それは横に並ぶものが無いということではない。完全な数値としてのステータスが出ていない時点で、すべての剣の序列を確定できる訳もないからである。電龍刀に並ぶ程の片手剣は俺の思いつく限りだと三本存在する。

 そのうち一つは言わずもがな、聖剣エクスカリバーである。武器専用スキルが2つあるのはもちろんの事、『マルチマテリアル』は、更にその属性それぞれの大技を保有している。そもそもの剣としてのみの性能もかなり水準が高い。流石は王道の『最強の剣』である。

 もう一つは勇者剣ガルバリオン。この剣に至っては、その特異性が強力すぎる。2本あるグリップの片方はレバーになっており、それを押し込む事で未知の力場を発生させる。それによってバリアを生成したことはあるが、実はアレ、バリア以外にも使う用途が存在する。かなり汎用性の高い能力である。更に言うと、あの剣は無属性。属性が無いわけではなく、本来ブランカーのみが持つ無属性を扱える、俺の知る限り唯一の武器だ。無属性は他のすべての属性に対して相対的に相性がいい。簡単に言うと両方が『効果バツグン!』なのである。


 そして、世界最強と言われる最後の一本。それが、青と銀の鍔に赤の柄を持つ片手剣。



 神龍剣は龍と龍と龍の三属性持ちという特殊な武器だ。何を言っているのか分からないだろうが、俺も最近までは分かっていなかった。

 武器に付与される龍属性の一部は、実はそれ以上に細かく区分できるものがある。大まかに分けると三つに分ける事ができ、それぞれ『龍炎』『龍氷』『龍雷』と呼ばれる。


 『龍炎』はその名の通り、ドラゴンが吹き出す火炎をイメージすれば分かりやすい。ただ、普通の火炎と違うのはそこには『龍命力』が込められていることである。そのため、これによって作られた炎は周囲の魔力等を取り込みながらその場に漂い続ける。水なんかでは消せない炎が周囲に広がっていくのは相手からすれば恐怖だろう。

 『龍氷』は冷気を操るのだが、これによって生成された冷気は特殊な力を持つ。発動者の意志によって、この冷気に触れた物体を同じように氷漬けにすることができ、炎や熱で溶かされない。これも例の『龍命力』の影響によるものだ。

 『龍雷』に関しては、まず真っ先に挙げられるのが空気への通電時の挙動である。龍雷を利用して空気に通電することで範囲や距離、威力までもを調整しながら雷撃を放つことができる。通常の物理干渉ならば確実に不可能であるが、『龍雷』であれば話は別だ。

 そしてこの中でも、特に後者の『龍氷』と『龍雷』が強力で、相手の動きを止めながら攻撃できる性能は他の通常の属性とは桁違いで、雷と氷の属性が下に見られているのはこれのせいでもある。火はまぁ、パワーがあるから…。


 話は見えてきただろうか。つまり、神龍剣はこの『龍炎』『龍氷』『龍雷』の三つともを扱えるという武器なのである。その分、剣としてのみの性能は他より少し劣るが、この武器を完全に操れば敵を寄せ付けずに圧倒することも可能である。正直、デメリットは無いに等しい。


 そして同時に、武器の特性が働く。神龍剣の特性は「強制魔力操作」である。自分以外が放った魔力でも操作して、移動させたり無力化できる強力な特性だ。



 つまり単純な武器性能では無く、異質的過ぎる能力がこの剣を世界最強へと至らめしているのである。




 神龍剣は実質的にはライズから預かっているものだ。その為、俺は世界最強の剣を同時に2本持つ剣士となる。他の2本は金の騎士とライズの所有となる。"剣士の高み"などには特に興味など無いが、剣オタクとしてはこの2本を所持していることが誇り高い。



 その説明を何故ここでしたのか。それは、現在の状況のせいである。




「……なにこれ」


 俺の困惑しきった声にライズが答える。

 

「さぁ……」


「さぁって……お前」


 現在地は遺跡の出入り口だ。帰り道でも戦闘は起こるため、オブジェクトコントロールを使っていたところ、飛び回る剣の中に神龍剣を見つけたのである。ライズが一本握っている状態で。


 最強の剣が増えた。なんで?


「2本目いる?」

 と、ライズ。

「帰って考えよう。頭痛くなってきた……」


 そんな俺を指差してレナが笑う。


「あはは、頭痛薬いる?」

「……いる」


 レナに手の上に頭痛薬を出してもらいながら、そういえば飲む水が無いことにきづく。


「コンバートして水出すか」

 と、レナが真顔で言う。

「秘術をそんなしょうもないことに使うなよ……」


 俺がツッコミを入れている間に、レナがどこからか取り出した水のペットボトルを受け取り、錠剤2錠と共に飲む。


「それにしても、さっきのあの技一体どういうことだ?」

 氷河に問いかけられる。

「例のアレみたいに言うな。なんだよさっきのアレって」

「ヴァリアントエスパーダだよ。前見た時はあんな威力じゃなかった」

 その言葉の真意になんとなく気付きながら、肩をすくめて答える。

「氷河くん、ボクも進化するのだよ」

「うざ」


 ひどい。なんでそんなこと言うんや。

「あぁ、すごい。頭が頭痛で痛い」


「黙れカス」

 

 氷河が無慈悲に放った言葉を無視しながら、本当の頭痛に頭を押さえながら帰路を辿るのであった。





 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 カリバーから来いと言われたため、俺はいま王宮に来ている。


「ゼクル、先日起きた街中での戦闘、詳細は知ってるかい?」


 挨拶も無く話し始めたからには、かなり重要な案件なのだろう。

 

「悪いが、俺の耳には届いていない。そんな事件があったことすら知らないな」


 そもそも街中で戦闘というのも、たまーにあることだ。それら全ての詳細を知り尽くすなど不可能だし、出来たとしてもほぼほぼ無意味になりそうな気がする。



「……ソードブレイカーらしい」

「奴が……」


 ソードブレイカー。次の標的は誰なのか。そもそもとして、前回俺を襲ってからというもの、全くもってこちらに姿を見せない。諦めたのか、とも思ったが、恐らくヤツはそんなタマじゃない。


「ヤツが今度狙ったのは誰だ…?」


 その問いに、カリバーは一瞬ふっと笑う。


「やっぱり君もそう思うか」

「どういう意味だ」


「狙われたのはソードブレイカーの方だよ」

「……は? うせやん」

「マ」


 おおよそ国王との会話では聞かないようなクソみたいな単語が飛び交っているのだが、それはともかく。

 今回、ソードブレイカーが襲われる側になり、街中で戦闘があった。ということらしい。

 誰が、なんの為に? と言っても、ヤツに恨みを持つものは大量に居る(愛剣を破壊された剣士達は確実に恨みを持っているはず)だろうし、おそらく彼らだと見て間違い無さそうだ。


「ソードブレイカーはかなり苦戦しながら逃げていったらしい」


「ソードブレイカーが苦戦、ねえ……相手は?」

 


 そう聞くと、カリバーは今までの不敵な笑みではなく、困惑仕切った笑みをその顔に浮かべる。


 

「……それが分かれば苦労してないんだよなぁ」

「まぁ。そうだと思った」


 そこでカリバーは真剣な面持ちで話し始める。

「ソードブレイカーは、ゼクルでも苦戦する相手だ。それを一方的に倒したはずなんだ」


「その根拠は?」

「血だ」

「なるほど」

 現場には全く血が飛んでいなかった、ということだろう。

「ってなってくると、その容疑者はトップレベルの戦闘能力を持っていることになる」


 その言葉を聞きながら、ふと思い出したことを呟く。

 

「……おそらく」

「どうした、ゼクル」

「撃滅剣は、やつは人間に興味がない。」

「…人間に興味がない……?」


「……奴は剣にしか興味がない。剣士以外から戦闘をふっかけられても、無視してその場を離れる可能性が高そうだ」

「なるほどね……。それは一理あるかもしれない。なんたって"ソードブレイカー"だし」

 

 そこまでカリバーがつぶやき、思案顔に戻る。


「でも、ゼクルくん以上の剣士なんているのかな」


「普通に師匠とかリゲルさんとかな気もするけど。ともかくあの人達に聞いてみるしかないな」


「……そうだね」




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




『お前、何だその力は? その力はお前が持つには大き過ぎる』




 その光景を思い浮かべた僕は、瞬時に飛び起きる。はやる鼓動との脈動を右手で押さえつけながら、ゆっくりと息を吐く。


 この言葉はかの覇剣、ガルスタ・ディストロイヤーに言われた言葉だ。ローグ王国で出会った彼は、錆びた大剣を壁に立て掛けたまま、ゆっくりと僕の方を見ながらそう言い放った。彼の言葉には一片の迷いもなく、なにか僕自身すら知らない僕の力の根源を見通したであろう説得力があった。



「……僕の力」


 ずっと欲しかったもの。

 地平線に沈む夕焼けの光のように。

 自分だけの力。勇者になりたい。

 子供じみた夢を本気で追いかけ続けてきた。

 だが…。


「……なんだろう、この感覚」


 僕には、その"力"とやらを素直に喜べる気持ちがなかった。

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