第二十二章 希望

 そらに響く音は翼に撃たれるからの音。

 ローグ王国の上空で滞空しながら、僕はその付近の遺跡の場所をマッピングしていく。ローグ王国は全王が統治している王が全ての主権を持つ国だ。この王の元には近衛として八色の騎士という存在がおり、それぞれが様々な部隊を下に持っている。また、それぞれの騎士が一国と渡り合えるほどの強さを持っているという噂も耳にするほどだ。

 そんな強者が集まる国、ローグ王国は、その周囲をすべて城壁で囲っており、アルヴァーンとは違い出入国に厳粛な手続きが必要となる。もちろんのことながら僕もその手続きは済ませてある。過去の仕事のせいで簡略化はされたが。


「……どれだろう…わかんないなぁ…」


 僕が今ここにいるのには大きな理由がある。

 氷河さんから得た情報により、とある人物に接触して協力関係になるためだ。


 その者の名は、ガルスタ。ガルスタ・ディストロイヤー。


 太陽の三戦士の一人。





 時間属性をもつ、人類唯一の男である。






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 レナが濡れた服を着替えに行っている間、俺は一人、魔法研究室の端っこで呆然と立ち尽くしながら考え込んでいた。俺のこれからについて。いわば覚悟の揺らぎ。目標の揺らぎ。



 俺の望みはなんだ。それを最近強く考えるようになってきた。


 すべてを取り返すために、俺は女神の聖杯を手に入れたい。あれを手に入れることで今までの俺の最悪の運命を書き換えることが出来るかもしれない。


 そうやって、俺は手を伸ばしてきた。届くかどうか、その微妙なラインをずっとさまよって、辛うじて生きてきた。何とか息をしている。叶うならば、どうか俺の手をどこまでも伸びるようにしてほしい。でも、そんなのはただの願望で、夢物語。


 俺の手はその長さにしか伸びないし、それ以上離れた誰かの腕はつかめない。それなら俺は、守りたい人を、近くにつなぎとめる事でしか守れないのだろうか。そう、その誰かの進みたい道を塞いででも。



 おそらくそうじゃない。



 誰もが戦う術を持っている。彼らは皆、守られるだけの存在じゃない。そして、彼らは皆が、逃げる事を知っている。



 逃げるというのは大事なことだ。何かを失うという大きな代償を払うぐらいなら、背中を見せて逃げるほうがよっぽどマシだ。


 俺は常にどこに向かうか迷っている。




 レナを巻き込んだまま、それでもこの道を進んでいいのか。




「………着替えてきたよー」


「…おう」


 俺は、彼女の人生を預かることになる。責任は重い。失敗なんて一度たりとも許されない。俺が今までやってきたどんな挑戦よりも過酷かもしれない。



 でも、それでも俺には他に道がない。

 彼女はその道を信じてくれている。

 俺は彼女の率直なその想いを、踏みにじる事はできない。




 そう、思っていた。


 しかし、それと同時に、俺は知っている。動機のわからない、いくつもの行動。それを俺に隠している事も。倉庫に向かって、カトラスの剣を回収しようとしていた事も、そもそも、なぜあの日に俺たちよりも先に倉庫にいて、相対していたのか。まだわからない事の多い王宮防衛戦では執拗に俺と共に行動しようとしていた。



「…聞かせてくれ」


「……何、改まって」


「レナ、……お前は一体何を企んでる」

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