第十六章 追憶:遊撃隊

「はい、オッケーです!ありがとうございました!」


 俺は今まで、何故か写真を撮られていた。各方面の色々な雑誌から取材のオファーが飛んできたからである。大会本部の運営との対談が入っているので、これが終われば、即座に西2区に向かわなければいけない。


「はいはい、行くよゼクルー」

 そういいながら、俺の背中を押す灰色の影。このヒトは俺のそばにいることで何かメリットがあるのだろうか。いや、俺とて別に完全に損得で動いているわけではないし、レナもそうだとは思うが、それにしてもくっつきすぎだろうとは思う。


 彼女は、いったい何を望んでいるんだろう…。

 俺は西2区に移動するためにレナの転移魔法陣へと飛び込む。その魔法陣を潜り抜けると、その先に広がっている光景は次の取材を受けるビルの目の間のものだった。そのまま2人でビルに入ると受付に取材の旨を話す。

 それから、担当が下りてくると今度は近くのカフェへと連れられ、そこでインタビューという名の対談めいた謎の雑談をする。四十分ほどのインタビューが終わると、ようやく家に帰れる。レナに転移魔法で飛ばしてもらってから、即座にソファにへたり込む。それを一瞥したのちに、レナが小さくため息を吐くとそのままキッチンへと向かった。それに対して無視を決め込むが、しばらくたっても戻ってこないので待ちかねてソファにもたれこみ、顔のみを後ろに向ける。上下逆の景色の中でかろうじて見えるのは、キッチンの入口のみである。そこからちらちらと見えるのは灰色のスカート。


 ……あまりよろしくない気がする。


 そう思った途端にレナがキッチンから出てくる。

「うわ、びっくりした」

 と、絶対びっくりしていない声でつぶやくと、そのままソファの前へと向かう。なんなんだろうと思いながら、顔を戻すとテーブルの上にアイスラテが2つ。

「あざす」

「はいよー」


 しばしの沈黙。別に気まずさはない。


 そういえば、俺は最近こうやって落ち着くこともなかった。それが幸か不幸か。いや、ほぼ間違いなく前者だ。だが、やはりこの忙しさはどうにかならんものか。そうは言ってられないのもわかる。だからこそ、このような静かな時間を大事にしたい。


「やっと一息つけるねー」

「君なにもしてないけどね」

「まぁねー」

 そう笑いながら話すレナ。続けてレナが話す。

「でも、君は疲れたでしょ」

「まぁ…ね」

 対して俺は疲れ果てた声で答える。この差が疲労度の差である。ちなみにレナの名誉のために補足しておくが、疲労度=優秀度ではない。魔法使いと剣士の戦い方の差もあるが、それ以上にこの短期間で俺一人に依存する出来事が多すぎた。


「そういえば連絡来ないね」

「なんの?」

「いや、ライトくんから」

「…あぁ、確かに」

 そういえば、ライトから連絡が来ない。奴は剣術大会の裏で何を企んでいたのか。恐らく何か、犯罪の気配を感じ取ったのだろう。

 ライトのことだから、解決すれば連絡をして来るはずだ。


「……なぁ、レナ?」

「何?」

「レナは、なんで俺の協力ばっかりしてくれるんだ?」

「うーんとね……」

 レナはそこで少し言いよどんでから話し始める。

「ゼクルって、一人で突っ走るじゃんか」

「え、いやそんなことないと思うけど」

「あー、直接的な意味じゃなくてさ。なんていうか、目標がしっかりあって、けどその計画に犠牲を出したくないからまず一人でやる。…って感じ?」

 レナは、あごに指を這わせながらゆっくりと話す。確かにその分析は的を得ているかもしれない。レナは俺のことをよく見てくれていて、そして理解してくれているんだなと今更ながらにも思う。だからこそ、面と向かっては言えない理由もあるんだろう、とも。

「……そっか」

「なーに、その腑に落ちてない感じの反応は」

 レナが俺のことを詳しく見ているのは確からしく、そしてその観察のおかげか、今回のように俺の小さな感情にもまれに気づく。だが言われた通り、確かに腑に落ちてはいない。

「まぁ、言ってない理由があるんだろうとは思ってる」

「まぁねー」


 そう、俺たちの間に無駄な誤魔化しはいらない。俺たちは相棒なんだから。隠し事はいいんだ。その線引きを、俺たちならできる。



 俺が聖杯を求める理由は一つ。

 ライズの復活。



 俺が知る限り最強の属性使い。俺よりも強いその剣士は優しさと容赦のなさを持ち合わせた不思議な剣士だった。

 ライズは特殊体質の持ち主だと言われている。が、それは一つの真実を隠すための嘘である。彼の真実は秘匿とされていて、実際に彼を知るものと国王以外に知るものはいないとされる。彼の体に秘密があるのは確かに真実だからである。が、体質なんて生易しいものではない。

 問題は彼の属性にある。


 属性は多種存在しているが、通常属性と呼ばれる炎、水、風、土と特殊属性の光、闇、龍、天、地。そして、未分類の雷と氷。基本的に未分類を除いて上下感があることは否めない。しかし、特殊属性の更に上に存在する属性区分がある。

 超属性とは、現在確認されている所持者が少ないなどの理由によって、存在は確認されてはいるが性質の詳細が不明な属性を区分したものである。その内容は突飛なものばかりだ。空間、時間、そして……



 即死属性とは、属性を意識し、それを伴った攻撃に当たることでその攻撃の威力に関係なく心臓を停止させる属性である。そんな天地を、常識をひっくり返すことができる属性の持ち主は一人。それがライズ。ライズ・クライム。俺の親友だ。










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 王宮に呼び出された俺は、他の政府関係者からの検問もほどほどに、慌てているかのように王の間へと通された。いや、実際に慌てているのだろう。事情はだいたいわかっている。


「ゼクル、急に済まないね」

「なんとなく用は察してる。一応聞くが、用件は?」

「……あぁ。君に遊撃隊を任せたい。辺境から進行してくるスピードが予想よりもかなり早い。君と、ライズくんに第四遊撃隊を」

「人員は、いるのか」

「え?」

 声を遮って発言した俺の言葉にカリバーが少し驚く。

「人員はいるのか?」

「あ、あぁ。2部隊ぐらいの人数なら」

「なら、第四部隊はライズだけでいい」


 固まるカリバーに向かって、俺の今後のほとんどを決定するセリフを放つ。

「俺に第五遊撃隊を任せてくれ」









 アルヴァーン戦争と呼ばれるこの内戦が始まったのは四ヶ月ほど前だ。アルヴァーン王国の辺境、特に名前のついていない地域から突如と始まった打倒政府を掲げる反政府軍が首都を目指して進軍しながら各地の主要施設を襲い始めたのがきっかけで起きたこの戦いは、ついに騎士団や憲兵団のみでは対処できないほどに実力をつけてしまう。

 しかし、反政府と言ってはいるが、その構成員はほとんど犯罪者であり、彼らの目的は国の改革などではなく、乗っ取りだった。

そんな目的を掲げられれば、対話による終戦など望めない。そのため、政府は接触できる限りの属性使いに声を駆けて周り、徴兵することで臨時的に軍を作ろうと考えた。


 が、いざその考えを発表したとき、その考え通りには行かなかった。もちろんいい意味でだ。


 もとより接触をしようと試みていた属性使いのほとんどが志願してきたのだ。政府の予想を超えるこの志願に、王宮は大混乱するとともに、一部の職員は泣きながら職務にあたったと言う。もちろん俺も、と言いたいところだが、俺は長期的な仕事のせいでそもそもアルヴァーン王国から離れていた。そのため参加したくても参加できなかったのである。もちろん国内にいたのであれば、すぐにでも志願していた。俺は別にロマンチストではないが、それでも俺に多少の力があり、その状態で住み慣れた風景が危機にさらされていれば、俺は戦うことを選ぶ。それが師匠に教わったことの1つ目であり、最も重要な教えでもある。だが、それ以前に俺がそうしたいと思ってしまうのも事実だ。


 さぁ、今から俺もその戦場の人間だ。




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 アクスウェルは海辺の街。かなり劣勢になったこの土地から、政府軍は撤退を余儀なくされるかと思われた。

「ソウル・ロードッ…」

 少年が振るった剣が黄金の輝きを灯しながら斬撃の判定を無限に拡張し、地平線まで貫き、見える限りの敵の大半を飲み込み屠る。絶大威力の専用スキルを使用した少年はそのまますぐに立ち上がると、走り出す。その右手に握った剣の名は電龍刀。世界最強の片手剣と言われるその片手剣は終末の力を秘めていて、主の敵にその力を開放し排除していくという特性がある。少年は緑色と白銀の軽装鎧に緑色のマントを羽織り、飛ぶように走る。討ち漏らした敵の排除のためである。


 一瞬で距離を詰めた少年がその剣を振るうと、自らが纏っていた剣気がその動きに呼応する。開放された剣気は一種の落ちた雷のように荒々しくと突撃したかと思うと、高速で動く体に命中しながら相手を無尽蔵に貫いて行く。


「ブレイブラッシュ…」

 少年の剣から光が迸り、目の前に躍り出た巨体に即座に接近すると、その直後に防風が発生するほどの連撃が放たれ、細切りにされた剣士を瞬時にコアブレイクする。


 剣を振るう度空を鳴らすその剣戟は、まるで天災。彼は南の龍に認められた英雄。ゼクル。







 首都からかなり離れた小さな街、ランフェルは、すでに小競り合いの舞台となっていた。

「地烈穿孔破断斬ッ!」

 少年が振るった剣が虹色の輝きを灯しながら斬撃の射程を無限に拡張し、地平線まで切り裂き見える限りの敵の大半を飲み込み屠る。絶大威力の専用スキルを使用した少年はそのまますぐに立ち上がると、走り出す。その右手に握った剣の名は神龍剣。世界最鋭の片手剣と言われるその片手剣は無限の力を秘めていて、持ち主にその力を還元し強化し続けるという特性がある。少年は水色と白銀の軽装鎧に水色のマントを羽織り、飛ぶように走る。討ち漏らした敵の殲滅のためである。


 一瞬で距離を詰めた少年がその剣を振るうと、辺りに漂っていた魔力がその動きに呼応する。濃縮された魔力は一種のつむじ風のようになめらかに飛翔したかと思うと、合鉄のはずの鎧を貫通しながら相手を無尽蔵に切り裂いて行く。


「破神・雷光一閃ッ!」

 少年の剣から雷が迸り、目の前に躍り出た数人をすべて拘束すると、その直後に大地が震えるほどの斬撃が放たれ、横薙ぎにされた剣士を瞬時にコアブレイクする。


 剣を振るう度大地を削るその剣戟は、まるで天災。彼は北の龍に認められた勇者。ライズ・クライム。

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