#23 八木が語った
八木の顔に見惚れて、何も返事が出来なかった。
そんな俺を気にすることなく、八木は続けた。
「栗山くんが声かけてくれて、見ず知らずの私をおんぶまでして運んでくれて、本当は保健室でお礼言いたかったんですけど、栗山くんすぐ保健室から出て行っちゃったから」
「2~3日して体調戻ってからどうしてもお礼言いたくて、でも名前もクラスも分からなくて、保健室に行ってお願いして、やっと教えて貰ったんですよ?」
『へぇ、そうだったのか』
「そうですよ。 それでやっと名前とクラス分かって教室まで行っても緊張して声掛ける勇気なくて、なんとか振り絞って声かけても栗山くんすっごく冷たいし、そっけ無くて。 でも、恩着せがましいこととか全然言わないし、私に対しても下心とか全然見えなくて、なんかそういう栗山くんのことが気になって気になって、もっとお喋りしたくなって。二人で帰ったりマックに寄り道するのも凄く新鮮で楽しくて」
『・・・・・』
「それで杉浦くんに絶縁宣言しに行った時ですよ! もうあの時の栗山くんがホントーに格好良すぎて、完全に惚れちゃいました。 あの時、栗山くんが私の前に立って私のこと守ってくれてたアノ後ろ姿は、きっと一生忘れられませんよ?」
『俺は、そんな大したことしてないよ。 あれは八木が頑張ったから、俺も助けたくなっただけだし』
俺がそう言うと、八木は黙って俺の横に座り直して、もたれ掛かって肩に頭を乗せてきた。
おかしい・・・
八木に甘えられてドキドキしてるぞ、俺・・・
なんかこの空気に流されそうな、なんとも言えない不安が襲ってきた俺は
『とりあえず布団に入って寝ようか』と逃げた。
俺がベットで八木は床にひいた来客用の布団に入ると、直ぐに「栗山くん、わたしもそっちに行っていいですか?」と聞いてきた。
『・・・・・ダメに決まってるだろ』
なぜか、いつもみたいな即答が出来なかった。
でも八木は、黙ってベッドの方にモゾモゾと入って来て、背中を向けている俺にピッタり密着してきた。
静かになった部屋に、八木の息遣いが聞こえる。
さっきからずっとドキドキしっぱなしだ。
八木相手にこんなことは初めてだった。
八木が静かに話し始めた。
「栗山くんに振り向いてもらいたくて、栗山くんに彼女が居てもせめて傍に居たくてとにかく必死でした。 アカネちゃん(桑原)にもいっぱい相談に乗って貰って、とにかく押せ押せでずっとガムシャラだったんですから」
「でも、本当は分かってるんです。 栗山くんが私に興味無いことも、ウザがられてることも。 最初から私には勝てない勝負だって分かってたんです。 でも・・・傍に居たいんです」
八木の最後の言葉は、声が震えていた。
俺は八木になんて言葉をかければいいんだろうか?
俺は八木のことを嫌いなのか?
いや、嫌いでは無いな。見てる分には面白いし。
それに俺にこんなに構ってくれる奴、他に居ないしな。
なんだかんだと八木のお陰で、学校では寂しい思いをせずに済んでる。
彼女と別れた後も、八木が居たから吹っ切れるのも結構早かったし。
それに、ちゃんと「頂きます」言える女の子は、無条件に好感持てるしな。
『八木、俺は八木のこと興味が無いわけじゃないぞ。 お前ほど破天荒で面白い女の子、そうは居ないからな。 まぁあれだ、友達としてなら今まで通りで良いんじゃないか? 実際のところ、俺も八木が居てくれたお陰で助かってた部分は否定出来ないしな。 ただ、恋愛としては・・・』
あれ?
八木の反応が全くない・・・これは・・・
やっぱり寝てやがった!
自分だけ言いたいこと言って、さっさと寝やがった!
八木の声が震えてたの、泣いてると思ったけど、多分欠伸ガマンしてたんだな。
俺のドキドキ、返せ!
スヤスヤと眠る八木の寝顔は、どこかスッキリとしているようで、今まで見た中で一番綺麗だと思った。
顔に掛かってた髪をそっと耳に掛けてあげて、八木の寝顔を見ながら俺も眠りについた。
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