#15 八木、修羅場にワクワク



 顔の青タンも消え、杉浦事件の噂も収まりつつある中、中間試験が行われた。


 試験勉強期間は相変わらず八木に散々絡まれ、中々勉強が捗らずにフラストレーションが溜まったものだけども、試験が始まれば八木も大人しくなり、なんとか無事に中間試験を乗り越えることが出来た。


 だが、あの八木がそのまま大人しくしていろうはずが無く、試験最終日の放課後になると当たり前の様に「栗山くん!一緒に帰ろ?」とやってくる訳だ。


 クラスメイトたちはそんな八木のことを微笑ましく見ている訳で、ただ一人俺だけは市場に連れていかれる仔牛の心境で(今日は何も起きなければいいのだけど・・・)と唯々己の置かれた境遇に涙するばかり。



「栗山くん!栗山くん! せっかく試験終わったから、打ち上げしましょう!」


『断る』


「えー!?なんでなんで? 今日バイト休みでしょ?」


『人のバイトのシフトを勝手に把握するな! プライバシーの侵害だ!』


「まぁまぁ、細かいことは良いから、とりあえずマック行こう!」


『細かくねーよ! マックには行かん! 俺は帰る!』



 ハイテンションの八木を無視して電車に乗ったが、当然八木も付いてくる。


 そして電車の中で

「折角テスト終わったのに、マックのシェイク飲みたかったなぁ(チラッ)マックのポテトの塩加減が懐かしいなぁ(チラッ)あ~あぁ!栗山くんと遊びたかったのになぁ(チラッ)前は優しかったのになぁ、最近すっごく冷たいなぁ(チラッ)」と延々と独り言をやられて、挙句、八木の降りる駅で電車が停まると「エイッ!」って言って腕引っ張られて無理矢理一緒に降ろされた。


『なんてことしやがる!』


「だってー 栗山くんと遊びたかったんだもん」


じゃねーよ! あーもーサイアク』


「ここの駅にもマックあるよ? お兄さん寄ってかない?」



 ここまで強硬手段に出られて、それでも拒否したら次何されるか分からないのでココで降参した。






 そして、八木が絡んでいる以上、ただでは済まないのがこの世界での摂理。





 八木に引きずられる様に改札を出て、駅ビル内のマックに入る。


 いつもの様にシェイク2つとポテト2つを注文して、会計済ませて受け取りテーブル席へと移動。



 向かい合って座り、ニコニコ上機嫌の八木の話に適当に相槌を打つ。


(早く帰りたいな・・・ 今日の晩御飯なんだろな・・・・)とボーッと黄昏ていると


「ちょっと!栗山くん!ちゃんと聞いて下さいよ! 私は二人は欲しいと思うんです!出来れば男の子と女の子一人づつで。そしたらバランスも良いでしょ?」


『おいちょっと待て。 八木は今なんの話をしてるんだ?』


「え?だから結婚してからの家族計画ですよ。 栗山くんと結婚したあとの」


 コイツの中では、俺と結婚することが既定事項となってるらしいぞ

 流石、杉浦の幼馴染

 マジやべーな

 A町って、こんなのがゴロゴロしてるすげーデンジャラスな町なのか?

 早くココ(A町)から離れてー・・・





 そんな風に、A町の民度に一人怯えていると、今一番会いたくない人に一番会いたくないタイミングで遭遇してしまった。






 八木の妄想話に頭を抱えていると、横に立つ人の気配が。


 その人は、シェイクが乗ったトレーを持ってて、この駅の比較的近くにある女子高の制服を着ていた。


 そう、杉浦事件の時にフラれた、元カノだ。




「なんであんたがここに居るわけ?」


『いや、なんでだろ・・・・』



 さっきまで一人ハイテンションだった八木は、いきなりの登場人物に戸惑う、わけでもなく、ワクワクテカテカと興味津々な笑顔で、俺と元カノの顔を交互に見ていた。


「もしかして、この子が噂の彼女? いい度胸してるじゃない。噂の彼女見せびらかせて」


「ハイ!彼女です!」


『黙れ八木! コイツは彼女なんかじゃない。 ただの八木だ』


「はぁ?意味わかんないだけど。 だいたい何で私がこんなブスに彼氏寝取られないといけないわけ? 栗山のくせにチョーシのんな!」


『ちょっと待て。 八木はバカだけどブスではないぞ。それに俺は調子には乗ってないぞ。 調子に乗ってるのは八木一人だけだ』


「あー!またバカって言った! バカって言った方がバカなんだからね! 栗山くんのがバカなんだからね!」


『うるさい八木! 黙れ八木! 話に入って来るな八木!』



 こんな修羅場あっていいのか・・・

 八木が居るだけで、どうして俺はこんなにも不幸に巻き込まれるんだ 



「むむむむ!? ちょっと待って下さいおねーさん! おねーさんは栗山くんの彼女さんですか?」


「違うわよ。コイツが浮気したから別れた元カノよ」


 あー!

 しまったぁぁぁぁ!

 八木にバレた!?


「ほうほうほうほうほう、なるほどなるほど、そういうことですか・・・・」

「つまり、今栗山くんはフリーだと?」


 八木の眼が一瞬光ったと思ったら、舌なめずりしてやがる!?


「栗山くん、今日お家に来ませんか? 今日はウチの両親帰って来るの遅いんですよ。うふふふふ」


『怖い怖い怖い怖い怖い!』


「さぁ行きましょうか栗山くん!さぁ早く立って!」



 助けてくれ!って元カノの方見たら、目を逸らされた。

 コイツも今頃八木の恐ろしさを理解したんだな、うん。

 早くB町(地元)に帰りたいよ・・・







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る