例え勝てはしない勝負でも

バネ屋

#01 出会い


 電車を1本乗り遅れ、遅刻確定。



 めんどくせーけど走るか



 駅から走って高校へ向かう途中、座り込んでいる女の子に遭遇した。

 同じ制服を着ているが、顔も名前も知らない。



 走りながら無言で通り過ぎるが気になってしまい、数歩で立ち止まり振り返って声を掛ける。


『大丈夫ですか?』


「・・・・・」


 顔色が非常に悪い。真っ青。


 彼女の傍にしゃがみもう一度声を掛ける。


『顔色悪いけど、体調悪いんです?』


 彼女は辛そうな顔を上げて無言で頷く。


『すみません、失礼しますね』

 そういって彼女のオデコに手を当てる。


『熱ありますね』


 ここから学校まで徒歩で5分程度。


『一度学校に行きましょう。 おんぶしますので荷物貸して下さい』


 強引に彼女のカバンを預かり、彼女に背を向けてしゃがむ。


「で、でも・・・」


『ココにいても体調もっと悪くなるだけですよ。 保健室まで連れて行きますので、行きましょう』


「すみません・・・」

 彼女は消え入りそうな声でそう言うと、僕の背中に体重を乗せた。




 学校まで無言で歩いた。


 学校に到着すると、昇降口には行かずに直接保健室へ行き、保健室の外から中にいる養護教諭へ声を掛ける。


『すみませーん!』


「どうしたの!」


『登校中に体調崩したみたいで、熱もあるみたいなんです』


「わかった。直ぐに中に入って」


 彼女をおんぶしたまま保健室に入り、彼女をベッドに寝かせた。


 養護教諭に彼女のカバンを預け、自分のクラスと名前を伝えて保健室を後にする。




 その日は担任に『体調不良の子を保健室に連れて行った為、遅刻した』と報告すると、見逃して貰えてラッキーっと思っただけだった。








 それから三日後、朝登校して教室に向かう途中の廊下で、クラスメイトらしき人とお喋りをしている彼女を見かけた。


 体調、良くなったんだな

 同じ学年の子だったのか


 こんなことを思いながら、素通りした。





 その日の昼休憩に教室で友達と弁当を食べていると


「クリヤマー、呼んでるよ~」と廊下に居たクラスの女子の桑原に呼ばれ、顔を向けると三日前に助けた子が立っていた。


 僕と目が合うと会釈をされたので、食べかけの弁当をそのままにして、廊下に出た。



「栗山さん! あの時はありがとうございました!」


『気にしないでください。体調良くなったみたいだね。良かった良かった。それじゃぁ』と言ってさっさと教室に戻ろうとすると、腕を掴まれた。


「あ、あの! お礼がしたいんですけど!」


『あーそういうのいいですから。ホント気にしないでください。じゃぁ』

 再び教室に戻ろうとしたけど、腕を離してくれない。


『ごめん、悪いけど、まだ弁当食べ終わってないんだよね。離して』


「す、すみません・・・・」


 ようやく腕を離してくれたので、席に戻って食事を再開した。

 一緒に食べてた友達は、既に食べ終わったのか、教室から姿を消していた為、一人で弁当を食べ始めた。



 一人無言で弁当を食べていると、横に人が立つ気配が。


『ん?』と顔を向けると、さっきの彼女が立っていた。


 口をモグモグさせながら『まだなにか?』という意味を込めて首を傾げると


「スマホの連絡先教えて下さい!」とデカイ声で言われた。


 めんどくせーな、と彼女のしつこさに辟易しながら、スマホを取り出す。

 連絡先を表示させて『はいどうぞ』と言って彼女にスマホを渡して、食事を再開する。


 彼女は一瞬「え?」って顔をしつつもスマホを受け取ると、自分のスマホに打ち込み始めた。


 終わると「ありがとうございました」と今度は普通の声で言い、スマホを返してくれた。


 口をモグモグさせながら『うん』と返事をすると、彼女は頭を一度下げて教室から出て行った。



 弁当を食べ終えて片付けていると、最初に僕を呼んだ桑原がやってきて

「カンナちゃんと知り合いだったの?」と声を掛けてきた。


『いや、クラスも名前も知らないよ。 三日前に学校来る途中でしんどそうにしてたから助けただけ』


「ふ~ん。 あの子、可愛いでしょ? もしかしたらワンチャンあるかもよ?」


『興味ないかなぁ・・・』


「マジで言ってるの? あの子、凄いモテるんだよ???」


『へーそうなんだー』



 そんな会話をしていると、スマホのメール着信音が


(3組の八木カンナと言います。先日はありがとうございました。 先ほどは食事中にすみませんでした。 良ければ、またメールしてもいいですか?)


 早速送ってきやがった。


 スマホの画面を覗き込んだ桑原が

「え?カンナちゃん? 積極的だねー!」と何故か嬉しそうだ。


『知らない子とメールのやり取りとか、メンドクサイんだけど』


「ひっど! なんか返事してあげないと、かわいそうだよ!」


『う~ん・・・桑原代わりに代筆してよ』


「流石にそれはないわ。なんでもいいから返事しなよ」


『わかった』


 コイツ使えねーな


(1組の栗山と言います。 先日のことは気にしないで下さい。 メールはお手柔らかに)


 そう返事を送信すると、直ぐにまた来た。


(ありがとうございます! LINEのがいいですか?)


 やっぱ、メンドクサイな


(LINEはやってませんので、メールしか出来ません)と送信してスマホをポケットに仕舞い、寝た。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る