第10話エナという女性



忌々しい朝がきた。



「ルファ…聖女様おはようございます。」



「…おはよう。」



私の側近侍女のエナはまだ私を聖女と呼ぶのに慣れて居ないようだ。



今日は家へ向かう予定だ。



顔を洗い鏡の前に座る。



エナが私の髪を整える。


鏡越しに彼女の顔を見ながらいった。



「エナ。貴方は聖女と呼ばなくていいわ。いつも通りルファーナお嬢様と呼んで頂戴。」



エナはパァァと表情を輝かせ


「はい!ありがとうございます。

ルファーナお嬢様!」


と嬉しそうにいった。




エナは私が5歳の時に侍女になった

者だ。他の人間とは違ってエナは唯一信頼出来る人間だった。


…が、エナはその1年後ベリルローズを追い出された。


その時は絶望を感じたが

3年前、レジーナの王宮生活が始まり

私の指揮で我が軍が勝利を得た際の

褒美をきかれ



「エナという女性を探して下さい。」



私はエナのことが忘れられなかった。

何も出来なかったあの頃のことを謝罪したかった。


この大国の中で苗字もない1人の女性を探すのは困難に思えたが

その1ヶ月後エナが見つかったと連絡がきた。



エナは家族のない身で1人で

静かに暮らしていた。

恐らくベリルローズ家を追い出された者に接すると目をつけられるからだ。



私はすぐにエナのもとに向かった



小さな家の横にある井戸端で

水を汲んでいる1人の女性がいた。



…間違いない。歳はとってるが間違いなくあの女性は…



「…エナ、…エナ!!」



私の声に気付きエナはこちらを向いた。



「…ルファーナお嬢様?」


嗚呼、私を覚えていたのか。

だがきっと憎まれているだろう。



それでもいいまた彼女に逢えたのだ。



私が優しくエナに微笑むと

エナはこちらにかけて来て私に抱きしめた。



「ルファーナお嬢様!いきなり抱きついて申し訳ございません。…またお会い出来て嬉しいです。立派に成長してエナはルファーナお嬢様の侍女だったことが誇らしいです。」



エナはそういうと泣き出してしまった。



嘘偽りのない彼女の温かさを私は感じた。


そして静かに行き場のなかった両腕を

彼女の背中にまわした。


エナが泣きやんだので私は彼女に

謝罪をした。



「エナが追い出された時。何も出来なくて済まなかったわ…。本当に申し訳ないわ…。」



…顔がみれなかった。


私にもまだ怖いものがあったのか


するとエナは優しくいった。


「ルファーナお嬢様。」


「顔をあげて下さい。エナが追い出されたのはお嬢様のせいではありません。」


私はエナにいわれ顔をあげた。


「それにエナは今お嬢様とこうしてまた逢えたことが幸せなのです。ありがとうございます。」


エナは優しく笑った。


「…ありがとう。エナ。…もし良かったら私の側近侍女にまたなってくれないか…。今度は絶対誰にもエナを追い出させない。…エナに危害を加えるようなものが居たなら私がエナを護ろう。…約束する。」


エナは私の手を取った。


「ルファーナお嬢様。お強くなられたのですね…。こんな私で良ければお嬢様の傍でお仕えします。」


エナは静かに頭を下げた。




そしてエナは再び私の侍女となった。



思い出にふけてるうちに

身支度が終わった。



エナは真剣にこちらをみて私に伝えた。


「お嬢様…。くれぐれもお気をつけて下さいませ。」


これは二重の意味での言葉だ。


「えぇ、もちろんよ。」


私はエナに微笑み、待っていた馬車の御者に手を取り


「ベリルローズ公爵家へ行って頂戴。」


と伝え馬車に乗り込んだ。

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