第16話 オレンジスライムの好み
水色の愛くるしい表情のスライムと違い、男前という言葉が似合いそうなオレンジスライムは早く果物を食べさせろと言わんばかりにカウンターの上でぷるぷると揺れていた。
「よし! じゃあ二人の掛け金はどうする?」
「う~んそうだな、3000ぺリス賭けよう」
「お!? 気前良いねぇ!」
店主の問いかけに、俺はかなりの大金をかけた。
悪いがこの勝負は勝たせてもらう、そう思う俺は未来予知を使っていくことに決めた。
このやり取りをしている間カーヤは、店内をうろつきグッズを見たり他のスライムと遊んだりしていた。
「よっし! じゃあ俺からだな! ほ~らオレンジスライムちゃん、ご飯でちゅよ~」
「その口調はどうにかならんのか?」
俺のツッコミを無視しながら店主は太い腕でカゴの中にあるオレンジ色の果物を掴み、オレンジスライムに差し出した。ちなみにカゴの中にはそれぞれ一種類につき一つずつの果物しか入っていない。
スライムは待ちくたびれたのか、店主の手ごと飲み込みそうな勢いで食いついた。
「おおっと危ねぇ。かなり腹を空かせてるみたいだから、割と食えるんじゃねぇかぁ?」
駆け引きのつもりか、店主はカゴの中にある中で一番大きな果物を俺の方へと動かしてきた。
だが俺にはその果物を上げてもまだ爆発する未来は見えない。
「そうだな。俺にもこいつはかなり腹を空かせてるように見える。俺はそのデカいやつを食べさせるぞ」
店主の挑発に乗り、俺はその黒い線が縦に何本も入ったデカい果物をオレンジスライムの前へと持って行った。
すると自分と同じくらいの大きさもあるその果物を、ペロリと包み込み消化を始めていった。
「透明だから消化するところが見えて面白いですね~」
興味津々にスライムを覗き込むリリアは、スライムを観察していた。
「チャレンジャーだねぇ。じゃあこれはどうかな?」
そう言う店主は、カゴからあまり見たことのない果物を手に取った。濃い紫色の果実で、店主が半分にそれを割ると中は真っ白の実がパンパンに詰まっていた。かなり独特なにおいが部屋中に広まった。
その匂いを嗅ぐや否や、オレンジスライムのキリリとした目つきが変わりさらに男前になったかと思うと、凄い吸引力でその果物を店主の手から奪い取った。
その果実を食べ消化を始めたスライムは驚くことに、風船のようにみるみる大きくなっていった。
「な、なんですかこれぇ!?」
「で、デカすぎるだろ!」
店主は得意げな表情で説明を始めた。どうやらオレンジスライムに大好物を上げると、風船のように大きくなるらしい。
「さぁこれでさっきの水色とはケタ違いに大きくなったわけだ。読みづらくなったろう? ……さて、この果物以外にもこいつの大好物はあるぞ。それを上げちまったら最後、ドカーンだ!」
両手を頭上にあげ、今日一番のテンションで大はしゃぎする店主を見たカーヤは何事かとこちらへと戻ってきた。
「な、何このスライム! あたしの時とは全然大きさが違うじゃない! ……超かわいいんですけど!」
カーヤの来た方を見ると、もてあそばれた色鮮やかなスライムたちがぐったりとしていた。
「……お前、あいつらに何してきたんだ……」
「え? 一緒に遊んでただけだけど」
ただ遊んだだけの様には見えない疲れようのスライムを横目に、リリアの番がやってきた。
「ど、どれが大好物なんでしょうか……」
「とりあえずその黄色いのは大丈夫なんじゃないか?」
俺は黄色く細長い果物を勧めた。なぜなら水色のスライムの時も大丈夫だったからだ。
まだ上げたことのない果物を上げるのは少々リスキーだ。
でも大丈夫。リリアが果物を口元へ近づいて行っても、爆発する未来は見えない。
「ほ~う見る目があるねぇ。もしかして君たち、スライム好き? 俺の運営するスライム同好会に入会したいって言うなら入れてやってもいいぜ?」
店主が果物を上げながら指を刺す方向を見ると、スライム同好会募集! と書かれたボードがつるされていた。
メンバーはここの店主一人だけらしい。
「……また今度な」
店主の誘いをうまく断ると、俺たちは続々とフルーツを上げていった。
「兄ちゃん、なかなかやるねぇ……。ここまで試合が長引いたのは久々だよ」
俺は未来予知を使いながら、オレンジスライムの好物を避け続けていった。
既にスライムは天井に着くまで大きくなっている。
しかしもうカゴの中には二種類の果物しか残っておらず、順番はリリアの番だった。
つまりここで好物を引き当てなければ、俺らの勝ちが確定する。
「ど、どうしましょう……! 京谷さん、力を貸してください~!」
この試合には割と金がかかっている。
俺は頷きながらリリアがハズレの方に手を伸ばそうとしたら足でつついてやることにした。
「ど、どっちだろう京谷……全くわかんないね……」
カーヤは俺の未来予知のスキルの事をもう忘れているのか、両手に握りこぶしを作りながらドキドキしている様子だった。
「こ、こっちでしょうかね~……?」
リリアはゆっくりと果実の方に手を伸ばし、俺の未来予知スキルの発動を待っていた。
手に取る寸前、見えた未来にはオレンジスライムが目を輝かせ、果物を吸い込み店内を埋め尽くさんばかりの膨張を見せた後、破裂する未来が見えた。
「……」
俺はリリアの足首をコツンとつつくと、その果物を取るのをやめて奥の果物を取りスライムに上げた。
じゅるりと果物を吸い込んだオレンジスライムは爆発することなく。じゅわじゅわと果物を消化させた。
「やったぁ! 成功です~!」
「ぐあああぁ! やるなぁ!」
オレンジスライムは爆発させることなくギャンブルを成功させた。
そして店主は残された最後のフルーツを手に取ると、オレンジスライムへと食べさせた。
大喜びしながらようやく来ましたかという表情で食べたオレンジスライムは、みるみる大きくなり店内にあるグッズや果物を押しのけながら膨張していく。
「ちょ、ちょっとこれどこまで大きくなんのよ……!」
「おいオヤジ! 大丈夫なのかこれ!」
「はぁ……幸せ……」
俺たちの問いかけが聞こえていないのか、店主はスライムに押しつぶされながらうっとりとしていた。
――パァァァァァァン!
窓ガラス事吹っ飛ばすほどの破裂は店の外にも響き渡った。
何事かと見に来る野次馬たちに見守られながら、俺は掛け金の倍の6000ぺリスを貰い店を後にした。
「いやぁ今日も良い調子でしたね!」
「しかし、もっと一気に稼げる方法がいいな。これだと地道すぎる気がする」
「あたしは楽しいからこれでもいいけどな~」
まだ豪邸を買うには全然お金が足りていない。
俺たちは次にどんなギャンブルをするかを話し合いながら少し贅沢な昼食をとることにした。
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