第14話 希望

 俺はオババのいうスイートルームとやらに期待に胸を膨らませ、宿屋の階段を登り切ったがそこには目を疑う光景が広がっていた。



「おいおいなんじゃこりゃ!」


 スイートルームの扉を金色のカギで開けると、そこには初めて来た時の部屋より少し大きく、ベッドが3つ並んでいるだけの素朴な部屋だった。


「これのどこがスイートルームなんだよ! もっとシャンデリアとか、なんか果物の乗ったバスケットみたいなんが置いてあるのを想像したわ!」


「そう? あたしからするとめちゃめちゃ豪華なんだけど」


「京谷さん、文句はダメですよ」


 一泊1000ぺリスも取られた割に普通の部屋に案内された俺は少しだけ腹が立った。


 オババにしてやられたと思う俺だったが、二人は満足しているようだしこれ以上声を荒げることはしなかった。


 リリアは部屋に入るや否や、すぐさま風呂場の方へと向かっていった。お風呂が好きなのだろうか。





「そういえばさ、なんであんたレベル低いくせにオークを倒せたの? あたしはレベル20だっていうのに」


 ベッドに腰掛けながら思い出したかのように俺に聞くカーヤ。

 そういえばカーヤにも俺の隠しているスキルを教えておかなければならないと思った。


「実は、ユニークスキルの未来予知を持ってるんだ」


「みらいよち? なにそれ?」


「数秒先の未来を見ることができる」


「え? どういうこと?」


 察しが良い時と悪い時の差が凄いカーヤは、全く理解していない様子で目と耳をぱちくりさせながらこちらを凝視していた。


(これで伝わらないならどうすりゃいいんだ!?)


 何か手っ取り早い解決策は無いかと考えた俺は、実際にその奇跡を見せつけてやればいいと判断した。



「じゃあそうだな、今から二十秒後にリリアは風呂場から出てくる。その時バスタオルを頭に巻いて、まるでソフトクリームみたいになって出てくるぞ」


「あっはっはっは! なにそれ! 超おもしろいですけど!」


 全く信用していない様子でふとももをバシバシと叩きながら大笑いするカーヤに俺は少しムカついた。

 だが二十秒後にこいつは驚くことになるだろう、と心の中でニヤニヤしていた。




「お風呂あがりましたよ~。カーヤちゃんもお次どうですか~?」


 二十秒ほどだった頃に風呂場のドアをガチャリと開けた、頭に白いバスタオルを巻いて茶色いバスローブを羽織ったリリアの姿は、まさにソフトクリームだった。


「え、えぇぇぇ! ソフトクリームだ! 美味しそう!」


 カーヤはリリアを見てたいそう驚いている。


「これで分かってもらえたか? 俺は数秒先の未来を見ることができる」


「な、なるほど! わかりやすいわ!」


 フンフンと頷くカーヤを見て、ようやく納得した様子に俺は安堵した。

 一方でリリアは自分を何かの実験材料に利用されたのを察すると、頬を膨らませていた。




「俺はこのスキルでオークの動きを全て直前に読み切っていた」


「どのくらいまで見れるの? あたしの未来も見てよ!」


「そんなに先の事は見れん。今だと大体二十秒くらいかなぁ……魔力を上げていくと段々見れる秒数も増えるみたいなんだ」


「え、使えな……あたしの晴れやかな未来見れないじゃん」


 ガックシとする肩を落とすカーヤを見た俺は、カーヤに不幸な未来が迫っても絶対に教えてやらんと心に誓った。


「なんで晴れやか前提なんだ……」


 カーヤはベッドから反動をつけて飛び降りると、リリアに続いて風呂場へと向かった。

 俺もカーヤが入った後に風呂へ行き、今日の疲れを水と共に洗い流した。



  ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼



 全員がさっぱりとしたところで、俺は本題へと入ることにした。

 全員がそれぞれのベッドに座り、俺の話を聞く準備は万端だ。


「カーヤ、聞いてくれ。実は俺たちは、ギャンブル闘技場トーナメントに参加しようと思ってるんだ」


 そう切り出す俺の話に、カーヤは驚いていた。


「え、あんたあれに出場すんの!? まさか、あたしの話を聞いて……」


「いや、それもあるが……俺がこの街に来た時から決めていたことだ。俺はこの世界で一番のギャンブラーを目指している」


 私の為にそんな……といった表情で目をウルウルさせていたが、俺がそういうとプイッとそっぽを向いてしまった。



「だけど、もうカーヤは俺たちの仲間だ。ついでに両親の事も一緒に探ってやるさ」


「ほ、ほんと!? 二人とも、まだ生きてるといいけど……」


「きっと生きてますよ~!」


 カーヤは嬉しそうな顔をしたり心配そうな顔をしたり、はたまた不安そうな顔をしたりと十二面相のような目まぐるしい表情の変化をしていた。



「だからトーナメントに挑戦する前に、豪邸を立てて拠点を作る。その為にも俺たち三人でギャンブルをして稼ごう」


「お、またギャンブルやるの!? 京谷のスキルがあれば何でも余裕なんじゃない?」


 カーヤは三人と言わず、京谷一人で稼いでくればいいじゃないという態度でそう言った。さっき仲間だと言ったことをもう忘れたのだろうか。

 

「まぁ純粋な運勝負だと余裕っちゃ余裕なんだが、二人の協力があればもっと効率よく稼ぐことが出来ると思う。ちなみにカーヤはどんなスキルが使えるんだ?」


「あ、じゃああたしのステータス見る?」


 そう言うとカーヤは自分の魔法用紙をポーチから取り出すと、俺に差し出してきた。



【カーヤ・スカーレット:レベル20 力12 持久力40 魔力70 運気65 スキル 『魔法消火フェイル魔法障壁マジックシールド魔法反射マジックリフレクター』】



「本当に防御系魔法しかないんだな。どうやって勝つつもりだったんだ?」


「いや~ノリで倒せるかなって……」


「お前な……」


 カーヤは頭をポリポリと掻きながら苦笑した。

 しかしこれは味方にするとかなり強力かもしれない。そう思う俺は自分の魔法用紙を取り出し、今後使えそうな新しいスキルを習得しておいた。






 すっかり話し込んでしまった俺たちはふとベッドの方を見ると、疲れてぐっすりと寝てしまっている獣化状態のリリアがいた。


「え、近くで見ると超かわいいんですけど!」


「分かってると思うがリリアのスキルは獣化だ。獣化状態なら多少の攻撃魔法は使えるらしい」


 カーヤは寝ているモフモフな獣化リリアを抱きしめると、リリアはうざそうに押し付けられるデカい胸を手で押しのけていた。




「じゃ、明日からまた新しいギャンブルで稼ごうぜ」


「そうね! こんなに気分のいい夜は久々だよ! おやすみ京谷、リリアちゃん!」


「あぁ。おやすみ」


 俺たちは三人仲良くそれぞれのベッドで夢の中へと意識を集中させていった。


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