リヴァイアサンの水上ロデオ編
第13話 カーヤの過去
俺たちはマネーショットアリーナを後にし、三人横一列になりながら賑わう夜の街を歩いていた。
「いや~! 本当にありがとね! あそこで借金なんて負わされてたらあたしの人生終わってたかもしんないよ~」
腕を頭の後ろで組みながらお気楽そうにリリアを挟む形で歩く俺たちは、傍から見れば晩御飯の買い物をする子連れの夫婦に見えるかもしれない。
「それはそうと、なんで戦闘魔法も使えないのに一人でマネーショットアリーナに参加してたんだ?」
「あ~それはね。誰もパーティを組んでくれなかったからってさっき言ったじゃん」
カーヤは笑いながら、悲しい過去を話した。
そんな質問をする俺は、そこそこ身なりが良く育ちもよさそうな彼女がお金に苦しんでいるとは到底思えなかったのだ。
「そうか、あまり聞かない方がいいのかもしれないが、なぜお金に困ってるんだ?」
「……う~ん、あんまり言いたくないんだけどなぁ。借金肩代わりしてくれたし、言っちゃうか~」
カーヤは少し悩んだ後、俺たちに悩みを打ち明けてくれた。
あまり話したくなさげな彼女に無理やり話させるのは気が進まなかったが、彼女の事を知るために俺は話を遮らなかった。
「……あたしね、元々はそれなりに裕福な家庭で育ったんだ。でも、父さんがとある事業に失敗しちゃってそれなりの負債を抱えちゃったんだ。それで父さんは一攫千金を得るためにギャンブル闘技場トーナメントに出場したんだよ」
「……そうか。それは災難だったな」
「カーヤちゃん、可哀そうです……」
歩きながら話す内容ではないと察知した俺は、近くでやっていた喫茶店のテラス席で話を聞くことにした。
「ありがとね」
砂糖をスプーン6杯入れたカフェオレを一口飲むと、カーヤは先ほどの続きを話し始めた。
(あんなにいれて甘くないんだろうか……)
「それで、父さんはトーナメントで優勝したんだ。……でも父さんは……帰ってこなかった」
カーヤは話すにつれ、だんだんと目に涙を浮かべた。頬に一粒の涙がこぼれると、リリアは紙ナプキンで涙を拭いてあげていた。
硬い紙ナプキンで目の周りを擦られるカーヤは、少し痛そうにしていた。
「……それは噂に聞く、トーナメントの優勝者は姿を消す……ってやつか」
「やっぱり本当だったんですね……」
俺とリリアも注文したコーヒーと、よくわからない緑色のジュースを飲みながら公式闘技場トーナメントの危険性を改めて再認識した。
「それで、心配した母さんが公式闘技場のオーナーに話をつけにいったんだ。でも、それっきり母さんも帰ってこなくなっちゃった」
「つまり、今は一人で生活してるのか」
「うん。家を売り払った分のお金も無くなっちゃったから、日雇いでちょこちょこ稼いでギャンブルで一発儲けられないかチャレンジしてたんだ」
カーヤの深刻な過去を聞いた俺たちは、なんとかカーヤを元気づけてやりたかった。
「今はどこで寝てるんだ?」
「馬小屋で寝てるよ。持ち主が一晩5ぺリスでいいって言うんだ」
「う、馬小屋ですかぁ!?」
驚いたリリアは馬小屋に嫌なイメージでもあるのか、席を俺の方へとずらしカーヤから距離を取った。
「う、馬小屋って言っても馬の居ないスペースで寝てるからな! 以外と牧草がふかふかしてて気持ちいいんだぞ!」
「うんちとか落ちてないんですか!?」
「落ちてるかそんなもん! いや馬が入ってる馬小屋には落ちてるけど、あたしの寝てるとこにはさすがにないよ!」
リリアはカーヤの匂いを嗅ぎ、カーヤは照れくさそうに大人しく嗅がれている。
糞の匂いがしないことを確認すると、リリアは席を元に戻した。
(俺は一体何をみせられてるんだろう)
暗い過去話だったはずなのに、カーヤはもう笑っていた。きっと彼女は強いんだろう、どうにかして彼女の両親を探し出してやりたいと俺は思った。
「よっしゃ! じゃあ残りの金をギャンブルで増やして、俺らが寝泊まりするでっかい豪邸を買おうぜ!」
「ご、豪邸ですか!?」
「……あんたっていい人ね。そういうとこ好きだぞ~!」
俺の提案に目を丸くするリリアと可愛い笑顔を見せるカーヤだった。
「じゃ、とりあえず今夜は宿屋だな。俺たち三人一緒の部屋でいいか?」
「私はもう慣れたのでいいですけど」
「あ、あんた達そういう関係だったの!?」
「ち、違うわ! 俺を誘拐犯みたいな扱いすんな!」
「ちょっと! 私も子ども扱いしないでください!」
そんな風に笑いあいながら俺は喫茶店の代金を支払いに行き、三人横一列に並び仲良く宿屋へと向かっていった。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
俺たちは最初に来たオババの宿屋に再び顔を出した。そこにはこの前と同じ風景の、退屈そうに本を読むオババと後ろでせかせかとシーツを運ぶ従業員がいた。
「あ、またあんたかい。もうギャンブルには乗らないよ。金がないなら泊めてやらんよ」
まだ俺たちに金が無いと思っているのか、チラリとこちらを見ると興味なさそうにシッシと手を手口の方へと振った。
「ふふん、今回の俺は一味違うぜぇ?」
俺は大量の金が入った茶色の袋をカウンターにどしんと置くと、オババの表情がみるみる変わり、一流ホテルかのような接客へと早変わりした。
「あ、ありゃ~! お客様、今晩の寝床をお探しで! そりゃあもうここしかありませんよ! お連れに美人さんが二人もいらっしゃるなら、スイートルームでよろしいですね? 決まりですね?」
美人と言われ満更でもない二人を差し置いて、オババは俺の許可なくチェックイン用の紙を猛スピードで書き終わると、前に見た時の薄汚い錆た鍵とは違う金色のキラキラとした鍵を渡してきた。
「前とは全然違いますねぇ?」
「おや? 前からあたしゃこんなもんですよぉ?」
不思議そうに尋ねるリリアを気持ち悪い笑顔で応対するオババだった。
「いやぁお金持ってるってこんなに気分いいんだな~!」
後ろで俺たちのやり取りをみていたカーヤは気持ちよさそうに目を細めていた。
「ま、この世は金ってこったな。じゃ、スイートルームとやらにお邪魔するよ」
「チェックアウトもないからね! ごゆっくり~!」
俺たちの姿が見えなくなるまでを振るオババなのであった。
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