第6話 未来予知
朝、鳥とリリアの心地よい鼻唄ハーモニーに加えさわやかな風が窓から入り込み、俺は目覚めた。既にリリアは起きていたようだ。昨日着ていたオンボロローブを風呂場で洗い、干している最中だった。
「
「あぁ、おはよう。よく眠れたか?」
「おかげさまで、ぐっすりと」
洗濯物を干しながらにこやかに笑うリリアは、昨日とは違いすっきりとした顔をしていた。よく眠れたかは聞かなくてもわかるくらいには元気そうだった。
「それで、昨日寝る前に行っていたあの話って…」
昨夜のことが気になり、俺は正直あまり眠れなった。一体何を話されるのだろうか。
「……はい。私、
ふんすっ! と勢いよくそう言った。
(あれ? 俺国一番目指すことになっちゃった? まぁトーナメントで優勝するっていうことはそういうことなのか!?)
しかしこの世界の人が仲間になってくれるのはありがたい。俺はもちろん快諾した。
なんといってもこんなにかわいい少女なんだからな。俺の異世界ライフもハッピーになること間違いなしの展開だ、と心の中でガッツポーズをした。
「本当か。それは助かる。是非よろしく頼んだぜ」
「よろしく頼まれました」
小さな胸をドンっと小さな手の平で叩く。助けてもらったのがよほど嬉しいのか、昨日の寝る前の言葉が正解だったのかはわからないが、昨日の宿屋に入る前とはえらい違いだ。まるで別人のように元気になっている。
「それで、私のスキルのことについても知っておいてほしいんです」
洗濯物を干し終わったリリアはベッドに腰掛けそう切り出した。そういえばステータスの所にスキルの欄があったことを思い出した。俺は自分にも新しいスキルを覚えられるのかどうかが気になり始めた。
「リリアはスキルを持っているのか?」
「えっへん。凄いでしょう。後で
自分でも覚えられる、そう確信を得た俺はどんな魔法を覚えてやろうかとまたしても心の中でガッツボーズをした。
「それで、リリアのスキルは一体何なんだ?」
「言うよりも見てもらった方が早いと思いますよ」
そう言うや否や、小さな煙をまき散らしながら、ぽんっとリリアの姿はウサギよりも少し大きい小動物に変化した。現世で言うところのチンチラ……だろうか? 黄緑色の毛に白色のメッシュが入った体毛をしている。その艶やかな毛並みは撫でまわしたくなるものだった。
「おわっ! 突然リリアが消えちまったぞ!」
「驚きましたか? そうです、私のスキルは"獣化"です。動物に変化したり、動物とお話することができます」
こりゃ驚いた。目の前のチンチラが口をモゴモゴさせながら言葉を発している。しかし見れば見るほど愛くるしい見た目をしていた。
「そりゃあ驚くさ。目の前で人間が小動物になっちまったんだからな」
「これが私のスキルなんです。ちなみに小動物状態だとちょっとした攻撃魔法も使えますよ」
「そりゃあ何かと便利そうだな」
こんなものを魅せられちゃ俺もスキルが欲しくなるってもんよ。どんなスキルを覚えられるんだろかとニヤけていた。
「……スキルの覚え方、教えましょうか?」
(おっと、表情を読まれてしまった。プロのギャンブラー失格だな)
俺は自分の中で自称プロを名乗っておくことにした。
俺のニヤケ顔を見て心境を察したのか、次のステップへ進めようと促してくる。
「悪いね、俺もスキルとやらを覚えてみたい。頼めるか?」
「お任せあれ!」
再びポンっという音を立てながら少女リリアの姿に戻った。
二人は布団に並んで座り、リリアのスキル習得講座が始まった。
「
「あぁこれか。ステータスを見る時に使う奴だろ?」
「はい、それの裏面を見てください」
リリアの言うとおりに裏面を見てみると、スキル表のようなものがあった。なるほど、ここで習得するのだろうか。
「そこに習得可能なスキルがあると思います。光っているものが習得できますよ」
(ふむふむなるほど……)
「ええっと……強運に透視、採取に戦闘魔法もいろいろあるな……ってどれも光ってないんだけど!?」
上から順番に見ていったが、光っているスキル名は何もない。俺やっぱり一般人なの!?
「おかしいですねぇ……一番下までスクロールしてみてください」
なぜ光っているものが無いのか理解に苦しむような顔でそう言った。
言う通りに下にスクロールしていくと、バフ魔法一覧の所に光っているものを見つけた。
「エンチャント付与、幸運に氷に炎……今のところこれだけか」
「攻撃魔法とかじゃなくてエンチャント付与魔法は凄く珍しいですね……今まで様々な人を観察してきましたが、こんな方は初めてです」
「えぇ……こんなんで俺やっていけんのかな……」
さっきまでのニヤケ顔が嘘のようにしょぼくれていった。リリアもそれをみて悲しそうな顔をしている。
(すまんね、一般人で。期待するほどの勇者でも英雄でもなさそうだよ、俺は)
「で、でも未来予知ってスキルをもう持ってるじゃないですか!」
リリアは俺を励まそうと、既に持っていたスキルを褒めてくれた。
「そういえば、なんでこんなの覚えてるんだろう」
「私も始めてみました。ユニークスキルでしょうか」
「なんか地味だなぁ……もっと異世界っぽくド派手なの覚えたかったぜ」
「いせかい?」
「あ、あぁいやなんでもない」
リリアが聞いたことのない言葉をたどたどしく復唱するのを見て、慌ててごまかした。
「そうだ! そのスキルで私の未来でも見てくださいよ! きっとナイスバディなお姉さんになってるはずです!」
ワクワクした表情で俺を見つめるが、発動方法がいまいちわからなかった。
「み、未来予知ぃ!……特に何も見えんな」
「そんなぁ」
落胆するリリアを見ながら、俺もガッカリしていた。いかにも魔法! というようなモノを覚えたかった俺にとってこれはとても残念、それ以外の言葉が見当たらない。クヨクヨしていても仕方がないポジティブ思考の俺はベッドから立ち上がり、日銭を稼ぎに再び酒場へ行くことにした。
まさかこの未来予知とエンチャント付与の能力がとてつもない力をもっていることを、俺はまだ知る由もなかった。
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