2 シーサイド劇場

第三幕

シーサイド劇場

舞台上は華やかな宝塚レビュー


(幕前)

インテリ(ひとりごと)

「シーサイドか、三年ぶりだな。いつ来てもすばらしい劇場だ」


ノッポ

「インテリはここを良く知っているのか?」


インテリ

「ああ、むかし、知りあいがここにいたのさ」


ノッポ

「ひょっとして、それは伝説の大スター コールマンのことかい」


インテリ

「・・・・・・」


ノッポ

「おうそうだ。前から聞こう聞こうと思っていたが、

インテリ、その右目の黒い眼帯はどうした。ケンカでもしたのか」


インテリ

「ま、そんなところだ。医者は打ち所が悪かったから、1年間、これを付けておけといった。近々、医者に行ってみるつもりだ」


オヤッサン

「せっかくの美形が台無しだぜ。早く素顔が見たいものだ」


回想シーン(3年前の舞台練習中)

 妖精1 三年前、さんねんまえ、サンネンマエ。

 妖精2 戻れ 早く その時に

 妖精1 三年前、さんねんまえ、サンネンマエ。

 妖精2 戻れ 早く その時に


妖精1・2 舞台上手から下手へ消える


ビリー (ひとりごと)

「ちくしょう、コールマンがいるおかげで俺はいつまでたっても二番手だ。

いったい、いつになったらトップになれるのか」


コールマン

「ビリー!何回言ったらわかるんだ。そこは3回ターンしてワッじゃないか」

「いったいどうした今日は、いつものビリーらしくないな」


ビリー

「わかってる。わかってるよ」


コールマン

「じゃもう1回やるよ。みんなスタンバイOK!」


全員

「OK」


(悪魔のささやき)

「ビリー、スターになりたいだろ、だったらコールマンがターンをしたとき、右足を引っ掛けろ。ヤツは奈落へ落ちて一貫の終わりだ。今がチャンスだぜ」


ビリー(ひとりごと)

「いくらなんでも、そんなひどい事・・・。でも、スターになるには・・・」


コールマン

「ビリー、あぶない」


※コールマンのターンした足がビリーの膝にあたり、バランスを崩したビリーは奈落へ落ちる。同時にビリーの足から靴が脱げコールマンの右目を直撃した。


全員

「キャー」「ビリー、大丈夫か。ビリー、ビリー」


コールマン

「なんてこった」

(ライト消す)


(幕前)

オヤッサン

「幸いビリーのケガは大したことはなかった。しかし、コールマンはその日から姿を消した。たぶん、責任を感じたのじゃろう」


ノッポ

「コールマンの目は」?

オヤッサン

「失明寸前になった。とりあえず一年、眼帯で様子を見ることになった」


インテリ

「そう、ビリーは好敵手だった。ビリーが居たからこそコールマンは大スターとして存在した。

 駆け出しの頃、二人は遅くまで練習した。寄宿舎へ戻る途中、よく宝塚のお好み焼き屋で食べた。あいつは熱々のお好み焼きをホクホクしながら食べ、演劇論を熱く語った。ライバルであり一番の友でもあった。

 俺はビリーに追いつけ追い越せと必死だった。しかし、あいつには天性のものがあった。それは俺がいくら努力しても持ち得ない感性だ。

日々練習を重ねるうち、俺の中に、どうしてもビリーに勝たねばならない、という強い意思が芽生え、俺の心は次第にすさんだ。

「ビリーに勝ちたい。勝たなければならない」と。


オヤッサン

「そしてコールマンはビリーに競り勝ち大スターの座を掴んだ。

しかし彼は孤独だった。ビリーに勝ったその日に彼は一人の大切な友人を失った。

 だが、あの事故で彼はもう一度自分を取り戻した。友情の大切さを。

だから舞台を去った。そうだね、コールマン」


ノッポ

「コールマンだって!」


インテリ

「どうやらオヤッサンは俺のこと、とうにお見通しだったようだな。

そうさ、俺がコールマン。自分の出世のためなら友情も踏みにじる。冷血無常の男」


オヤッサン

「いや、ほんとうは違うよ」


ノッポ

「そのコールマンが何でロビン・クレメンテでインテリなんだい」?


幕が開く

(町の広場)ミュージカル風に紹介

スコットランド民謡 明るい音楽


インテリ

「舞台を飛び出た俺に出来ることは何もなかった。行く当てもなく町をふらついていると、ある古美術商の前に人垣があった。何だろうと俺もその中に頭をつっこんだ。

 すると、マイフェアレディのような姿の貴婦人が古美術商相手に値段交渉している。手にはごくありふれた花瓶を持っていた。

 夫人は、その花瓶を60ビートロで買うという。1ヵ月働いても30ビートロにしかならいご時世、本当にそんな高価な品か俺にはわからなかった。

古美術商は、夫人の言い値で花瓶を譲った。

 俺はみんなが去った後、古美術商に聞いた。

「オジサン、さっきの花瓶、俺が見たところ5ビートロぐらいにしか見えなかったが、本当にそんな高価なものなのか」?


古美術商

「兄さん、どこの協会のものだね。人聞きの悪いこと言っちゃあだめだよ。

こう見えてもヤマシ古美術協会の会員だぞ」


インテリ

「だから怪しいんじゃないか」


古美術商

「だったらこれを見立ててごらん。こんな珍品、めったに市場に出ないよ」

「この皿は、この水差しは」?

インテリ

「3ビートロに10ビートロ」!


古美術商

「ドキ。ドキドキ」

「こりゃ驚いた。脅威の審美眼。こんなに当てられちゃ商売、上がったりだ。

兄さん、どうだい俺と組んでみないか」


インテリ

「それから俺は古美術商と一緒にあちこちで稼いだ。右目を黒い眼帯で覆い、マスクをして、ロビン・クレメンテと名のって」


(幕が変わる)


古美術商

「さあさ、珍しいエバーグリーン王朝時代の黄金の皿、さあ見てらっしゃい」


ロビン

「奥様どうぞこちらへ。この水差しは奥様のような方がお持ちになるのにぴったりです。」「今ならお安く50ビードロでお譲りします」


貴婦人

「まあ、あなたのような方に言われては、かないませんこと。わかりました。

いただきましょう」


ロビン

「ありがとうございます」

「仕事は順調に進んだ。ところが、ある日、水差しを買った貴婦人が他の鑑定士に見せたところ『いい仕事していませんね』と告げられ、二束三文がバレちまった。というわけでオヤッサンの仲間になっちまったわけだ」


ノッポ

「インテリってのは?」


オヤッサン

「お前と違って頭の回転が早いってことよ」


(幕間)


オヤッサン

「で、インテリ、マリーをどうやってシーサイドの舞台に上げようというんだ」


インテリ

「そこで相談だ。シーサイドの支配人ヒラリーに直接マリーの歌を聞かせるんだ。

俺はヒラリー夫人に近づいて力になってもらう。二人はヒラリーの弱みを掴んでくれないか。昔から浮気性だから、その辺をよろしく」


ノッポ

「OK、そうと決まったら、さっそくヒラリー邸へお邪魔しようか」


通行人 娘A

「ねえ、明日のヒラリー邸の夜会には出席するんでしょう」

通行人 娘B

「ええ、もちろんよ、大スターのビリーも来るんだから、みんな憧れちゃうわ」


三人(オヤッサン・インテリ・ノッポ)

「明日か」

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