もしも、ある日世界が滅亡して、ツンデレ幼馴染と二人きりになったらデレるようになりますか?

藍坂いつき

問題0「もしも、この世界に女の子と二人きりだったらどうしますか?」


 




「……どうしますか、ねぇ」


 考えればいろいろな考えが浮かんでくるだろう。


 好き勝手にしたいとか、犯してやりたいだとか……他に人がいなければ法律は秩序をもたらすこともないし、俺も俺で好き勝手出来るだろう。むしろ、優しくして吊り橋効果を誘って一緒に過ごすだとか、傷心に漬け込んで二人でともに楽しい家庭を気づくだとか……まぁ、そんな、あまりにもくだらないことを考えながら、俺は深まる夜に答えを導き出そうとしていた。


 我ながら、変態である。


 まぁ、昔からモテることもなく、ただただクラスの端の方で世界を見守るのが仕事な俺を女の子が見向きもするわけもないんだし、考えてしまうのは自明の理なのだからあまり追及するのはやめてほしい。


 ほんと、だからこそ俺は今、遅刻してクラス委員長の柊詩音に叱られているというのだ。






「ねぇ、聞いてるの? ぶん殴るわよ?」


「き、聞いてますっ……」


 いやはや、この女と言ったら目つきが怖い。


 女は怒ると怖いと言うが、俺はそれが本当だとは思わない。なぜなら、例外がここにいるように、女は怒らなくても怖いからだ。


 エメラルドグリーンに輝く碧眼で睨みつけるように俺に向けて、苛烈なスタイルで叱る彼女。


 彼女こそ、公立札幌第三高校1年7組学級委員長、柊詩音ひいらぎしおんである。


 その美貌はALTとして海外からやってくる英語教師さえも虜にし、少なくとも月に10回は後輩からも先輩からも告白されているという頓珍漢な噂も経つほどに魅力的な女子高生だ。


 勉強はかなり出来るで、ただでさえ進学校の高校に入学しているというのに、最近の全国統一模試では偏差値70を叩き出し、国立大学はおろか、旧帝大の上にも手を掛けることができるほどだ。未だ偏差値52の俺からしてみれば分からない次元だが、彼女の努力は本物だろう。


 休み時間はすべて勉強に費やし、毎週来る小試験は絶対に満点を取る。極めつけには期末試験の上位トップ3には必ず入り、私立大学の指定校推薦をすべて総なめするほどに頭がいい。


 俺も俺で進学校に入ったとはいえ、塾で散々ばらしごかれて入学した俺とは成り上がり方が異常すぎて到底真似できるものではない。


 ——的な感じで、いい所を挙げればきりはない。とにかく可愛く、美しく、容姿端麗、学業優秀、極めつけには委員長もやっていて次期生徒会長候補でもある。


 全くと言って、俺とは真逆の存在だ。


 そんなハイスペックな女子高生、柊詩音は俺にだけやたらと厳しい。一応、中学生の頃からずっと同じクラスで顔なじみというか、半分幼馴染の様なものだろうけど昔っからとにかく俺にだけ厳しい。


 とにかく厳しい柊だ。安心してください、怒ってますよ。なーんてな。というかむしろ、履いてなくいいまであるな。黙ってれば美人だし。


「はぁ……これだから、若い男はっ」


「柊も若いと思うんだけど……」


「何か言った?」


 どこぞのマヤさんの様な口調で不満を言い捨てる彼女、ぼそっと言い返したがあまりにも強烈な碧眼に肩がビクッとなって視線を逸らす。


「いや、なんでも……」


「あっそ……んじゃあ、今日は居残りで掃除だからね。しっかり覚えておきなさい」


「んぇ……っ、お、俺だけ!?」


「当たり前じゃない。昨日さぼって帰ったでしょ……」


「あ、あれはサボったわけじゃ‼‼ 妹の世話をだなぁ」


「言い訳無用、何も言わないで帰ったのが悪いっ!」


「えぇ~~‼‼ なんでだよ‼‼」


「いいからっ! ちゃんとやらないと……殺すからね?」


「いっ―—い、いきます……」


「はい、よろしいっ」


 ドヤ顔で立ち去る彼女に何も言い返せるわけもなく、俺はしょんぼりと机を見つめることしか出来なくなっていた。周りからは「あそこの二人またやってるよ」だとか言われているが俺にとっては飛んだはた迷惑だ。


 好きでもないって言うのに、謎のカップリングだってされてるし、なんなら俺が女子から声を掛けられないのはそう言うことなんじゃないかまで思ってる。


「はぁ……とりあえず、適当にゲームでもしてるか」








 なんだかんだ授業も終わり、今日も今日とて何にも聞かずゲームだけしていたわけだがバレずになんとかなった。しかし、ここからは一筋縄ではいかない。


 とにかく足音を殺して帰る準備を……


「何してるのかしら、小鳥遊くん?」


「————っ」


 教室を出ようとした俺に突き刺さった透き通る高めの声。良い声のはずなのだが、どす黒くて声音の色が真っ赤に燃え上がっていた。


「……な、な……なんで、しょうか……?」


「今、何をしようとしていたのかな?」


「べ、べ……別に……トイレに行くだけ……」


 俺がボソッと言うと、彼女はニヤリと口角をあげて言い返す。


「へぇ……トイレに行くのにリュックまで持って行く人がいるんだぁ……別に、帰るってわけでもないのに……ねぇ?」


「うぐっ……は、はいっ‼‼ すみません、帰ろうとしてました!! やりますから許してください‼‼」


「……それでよしと」


 さすがに声音で気づいた俺は潔く謝ることにした。

 そこからは30分ほど、誰もいなくなった教室をただただ掃除していく。廊下からは本を読みながらチラチラとこちらを見て監視してくる柊。


 ほんと、どこまで俺を見続ければいなくなってくれるのやら。別に監視しなくともいいって言うのに。


「小鳥遊君が帰るからに決まってるでしょ?」


「お、きゅ、急になんだよ……」


「いや、今物凄く帰ってほしそうな顔してたからね」


「っち……ばれてたか」


「何?」


「な、なんでもありませんっ」


「んじゃ、終わらせてね」


 まさに殺人鬼の様な凶器の笑みを俺に見せつけると彼女はまたしても手に持つ本に視線を落とした。


 





 ほうきで集めた埃やごみを集めていると、廊下に立っていたはずの柊がいつの間にか教室の中に入ってきていた。


「なんだよ……」


「ん? いやぁ、そろそろ終わるかなって」


「あぁ、終わるよ。これ捨てたらな」


 俺の惨めな姿を見ながらニヤニヤしやがって。少々頭にきたが何も言い返せないのが辛い。


「はぁ……」


 溜息をつき、俺は無心で塵取りを取り出した。



 しかし、そんな時だった。


「————ねぇ」


 先程まで嫌味たらたらの声で話していたはずの柊が驚いたようにそう言った。適当に「何」と言い捨てると、もう一つ。


「……あれ」


「何が」


「窓」


 どうせカラスかなんだろうとため息交じりに顔をあげると——


「え」


 絶句した。


 赤光りする閃光が一面を覆いつくし、赤黒い炎と真っ黒な煙の大群——のような何かが物凄い勢いでこちらに近づいてきていた。


 山を切り、大地を張って突き進む真黒な何か。


 隣の柊も、そして俺も唖然と立っていることしか出来なかった。


 そして——気づけば、すぐそこにその何かは来ていた。


「——柊っ‼‼」


「——ぇ」



 耳元で鳴り響く感嘆の声と、恐怖の叫びをかき消すようにして


 ドガアアアアアアアアアアアアアアアンッッ‼‼‼‼‼‼‼‼‼


 と音がして、俺の記憶はここでなくなっていた。





 ——————俺は死ぬのか?





 あとがき


 こんばんは、ふぁなおです。

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