第24話 聖女の会合

 絶対、全員殺される! 


 そう信じて疑わなかったエドモン一行は、全力疾走で馬車を走らせ命からがらフォール郡を出た。

 馬が弱ってここまでかと思った頃、辺境軍が追ってこないことにようやく気付いた。しかし、少しも安心できず、数日かけて王都に着くまで生きた心地がしなかった。


「なんということをしてくれたのだ」


 王都に帰ったエドモンは、国王アンセルムから厳しい叱責を受けた。


 当然だ。

 こともあろうに、国内最強の軍事力を有する辺境軍の長、トレスプーシュ辺境伯に刃を向けたのだ。

 辺境軍が王都に攻め入ってくれば、数だけは勝るとはいえ王国軍に勝ち目はない。


「しかも、あちらには、本物の第一位の聖女がいるというではないか」


 呪いが真実であることを誰よりはっきり知っているアンセルムは、聖女を有する者だけが玉座にけることも当然理解していた。

 ほかの誰かが玉座を奪ったとしても、王になった瞬間、呪われる。

 建国400年の歴史を誇るバシュラール王国が、たびたび他国の侵略を受けながらも現在まで続いてきたのは、君主になった者がことごとく呪いの影響を受けて斃れたからだ。

 生き延びるには第一の聖女の力が必要なのだ。それはマジだった……。


 そして、辺境伯は呪いの秘密を知る数少ない人物の一人だ。


(詰んだ……)


 一度受けた呪いは玉座を去っても消えない。

 王様じゃなくなって、貧乏になっても呪われるのだ。そんなの、やってられない。

 生まれながらに呪われた王太子が生きるには、正しい聖女を生涯の伴侶にするほかないのである。


「それを……、おまえというやつは! ネリーのボンキュッボンに目がくらんで、インチキをしたのだろう。この愚か者が!」


 バーンとドアが開いて王太后ベレニスが入室してきた。


「アンセルム、いったいどの口が言うのですか!」

「は、母上……!」

「あなたが正直に、自分のインチキをエドモンに話していれば、エドモンが同じ轍を踏むこともなかったでしょうに」


 自分の后セリーヌをチラリと見て、それはどうかな、ボンキュッボンはアレだからな……と思ったアンセルムだったが、ここは神妙に頭を下げた。


「こうなったからには、私が直接、アニエスに会って話すしかないでしょう」

「母上が説得してくださるのですか」

「説得するのではありません」


 もはや、王室はそんなことをしたくらいでは、どうにもならないところまで来ていると、ベレニスは重々しく言った。


「あなたがたのボンキュッボン好きは、聖女の力を以ても治しようのない悪魔の病です。未来永劫、ボンキュッボンに翻弄されるのです」

「では、どうしたら……」

「私に考えがあります」


 ベレニスは、かつてある言葉を泉の神様から聞いた。

 それを聞いた時には、とても信じられなかったが、もしも、ほかの聖女たちも聞いていたとしたら、呪われた王が生きるための、それが唯一の答えになるのではないかと考えたのだ。


「神官に命じてドゥニーズとカサンドルの居場所を掴んであります」


 南の大聖女ドゥニーズの居場所は、アニエス捜索の際にすでにフロランが調べていた。

 呪いの研究者となったアンセルム世代の第一位の聖女カサンドルは、辺境伯の持つ記録を調べるためにフォールにいることがわかった。


「ドゥニーズが王都に到着次第、私も合流してフォールに向かいます」

「フォールに行って、どうするのですか……?」

「ドゥニーズからアニエスまでの、四代に亘る第一の聖女が、それぞれ泉の神様から聞いた言葉を照らし合わせるのです」


 修行をしたことのない者には、何を言っているかわからないだろう。

 

 千段の石段を毎日登る者にだけ聞こえる言葉があるのだ。

 泉の神様は、ごく時々だが、何かいいことを言ってくれる。


 聖女は優しくなければいけないよ、とか。

 人を助けるには、自分が強くなくてはいけないよ、とか。

 肉は身体にいいよ、とか。

 野菜も食べなさい、とか。


 そして……。


「とにかく、四人の聖女で、会合を開きます。トレスプーシュ辺境伯が王都に攻めてくるようなら、もう手遅れでしょうけどね」


 アンセルムとエドモンは、今にも死にそうな顔で頷いた。

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