第7話 希のカルテ

「すみません教授。また眠ってしまって……」


「かまわんよ下道したみちくん、そろそろ時間だから起こしたがね」


 瞑想タイムが終わったあと、那生なおのぞみが通院する日下部くさかべクリニックへ行く予定だったため、教授への報告もそこそこに瞑想ルームを出て行った。

 本郷三丁目のクリニックに着くと、那生は玄関で呼び鈴を押した。


「どうぞ、お上がりください」


 透き通った女性の声が聞こえ、白衣姿の日下部先生が出迎えた。


「失礼します」

 

 那生は足元のスリッパを履くと日下部先生の案内で個室に入った。

 日下部先生の年齢は三十代後半という印象だが、那生にはもっと若々しく見えた。長いストレートの黒髪。やや釣り上がった目。整った眉毛。鼻筋が通っていて美しい。それでいて彼女からは冷たい印象は受けなかった。


「とりあえずこちらへ、どうぞお掛けになってください。いつも希さんがセッションの時に座っている椅子になります」

 

 日下部先生は那生にリクライニング機能付きのゆったりとしたパーソナルチェアを那生にすすめた。


「失礼します」

 

 那生が座ると、先生は部屋の奥にある自分のデスクに戻った。


「それでは、お話を始めましょうか」


「はい、よろしくお願いします」


 希は、自分自身になにかあったら日記を那生に見せ、日下部先生に病状の話を聞かせて欲しいと母親の神劔みつるぎ天音あまねに頼んでいた。

 本来なら患者のカルテの内容は他人に話せないのだが、本人と母親の開示許可もあり今日は特別に話を聞けることになっている。なぜ希がそこまでするのかわからないが、那生は希の日記に記されていた〝攻撃〟の意味がずっと気になっていた。


「では、希さんが体験した異世界の話をする前に、彼女のナルコレプシー、つまり睡眠障害の症状について簡単にお話しておきましょうか」


 日下部先生が話はじめたので、那生は椅子に腰を下ろした。


「希さんはレム睡眠中も筋肉が弛緩しかんしないので、そばから見ていても覚醒状態なのか睡眠状態なのかが判断がむずかしく情動脱力を伴わないナルコレプシーとレム睡眠行動障害を同時にわずらっています。しかし希さんの場合は、通常の睡眠障害の症状とは違う特別な症状というか能力があるようなのです」


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