【34幕】緊急会議は汚点を消す炎

 『第三試合』は、レイニア研究室のラインとラックス、ハマー研究室のヘキサとベータの対決であった。レイニア研究室は剣技を専門とし、ハマー研究室は召喚魔術学を専門としている。結果は、惨憺さんたんたるものであった。


 やはり、体術のみの制約があると、剣技に研鑽を積んだ者に歩があるとゼオンは感じる。動きのキレに雲泥の差があった。勝負を決めたのは、ラインとラックス。木剣による、タコ殴りである。見ているだれもが、可哀想にと思っていたに違いない。ゼオンも、見ていて可哀想であった。


 『第四試合』は、オルト研究室のメータとパーラ、ザックーシャ研究室のナーザンとノージュ。オルト研究室は魔銃ゲヴェーアを扱う銃技を専門とし、ザックーシャ研究室は魔導防衛を専門としている。


 勝負を決めたのは、メータとパーラ。銃を型どっているが、木製の棒。誰がどう見ても、もはや棒。これをひたすら振り回していた。荷重訓練用だろうか。長さも、重さもありそうだ。試合の流れは『第三試合』同様、一方的なタコ殴りである。ゼオンは、何を見させられているのか、わからなくなっていた。


「なあ、ロイド。マルスは、いったい何かしたかったんだろうな」

 

「何だったんでしょうね……。ゼオンさん、そういえばさっきマルス教授が、誰かに連れていかれましたよ。何だか、えらく怒られてましたけど」


 よく分からないが、この一戦目について怒られているのだろう。責任問題になっているのかもしれない。


 ――兎にも角にも、一戦目は無事に終わった。



◇◇◇◇◇◇◇



「皆! 二戦目が始まるわよ! マルス教授とカリフ教授は、緊急会議で不在なので、ここからは私が担当します! 会場準備まで、ちょっと待ってね! 」


 二戦目の試合が始まる前に、カレンが場内に連絡している。マルスとカリフは、緊急会議で不在という。会議ではなく、査問委員会による事情聴取の類ではないだろうか。天網恢恢てんもうかいかい疎にして漏らさず。カリフの悪事がバレたのであれば、後で笑ってやろうと、ゼオンは考えた。


 会場準備を待っていると、目を疑う光景が広がった。。周りには、カレンを始めとする教授が、数名立っている。火炎魔術を放った様だ。汚点を無かったことにするわけか。


「哀れだな、マルスも……」


「キャンプファイヤーだと思いましょうか。ある意味、競技会も祭りですし」


 炎は静かに揺らめいている。見ている者の心を、柔らかくし落ち着かせる。誰一人、口を開かない。ゼオンも静かに、炎を見つめていた。一戦目の記憶は、ゆらぎながら消えていく。


 ――リングは、真っ白に、燃え尽きた。そこには何もなくなっていた。



◇◇◇◇◇◇◇



 『準決勝第一試合』は、カレン研究室のマーキーとスービー、ゼオンとロイドが対戦する。準決勝は、魔術対決で、体術は禁止。ゼオンにとっては、ストレスの溜まる試合である。


「ロイド。俺はこの試合、一回しか攻撃しないからな。後は、頼んだぞ」


「分かりました……って、うぇぇえ!! 無理ですってば! 」


 成約は、一撃必殺。不可能ではないが、逃げられたらお終いだ。ロイドは、必死に抵抗してくるが、約束は約束。守るのが、ゼオンの矜持である。


 マーキーとスービーが、何やら支度をしている。魔導具だろうか。魔術の使用に関わる道具、武具の使用を禁止してはいなかったと、ゼオンは思い出す。布がかかっている為、何かは分からないが。意外と大きい。女性二人で運ぶには、厳しいのだろう。カレンも手伝ている。


「準決勝第一試合! はじめっ!!」


 準備が終わり、カレンの合図が響きわたる。合図に合わせ、マーキーとスービーが布を引く。ゼオンは、目の前に現れたモノに驚いた。巨大なガトリングガン。マーキーとスービーの背丈程はある。


「ゼオンさん。何か、凄いですね……。流石に、弾は出て来ないですよね」


 ロイドは、若干、戦意喪失している。期待しない方が、良いのかもしれない。素質はあるが、性格が向いていない。変貌してしまうと、いささか面倒ではあるが。上手くいかないものだ、ゼオンはため息をついていた。


 動いても、始まらない。むしろ終わってしまう。いつもと反対だな。ゼオンは、最善、最適な行動を考えることにした。

 

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