【30幕】言葉は心を穿つ兇器
「それは、秘密っす! 」
やはりな。何があったか、カリフに聞いたが、答えは予想した通りであった。ゼオンは、交換条件に優待券を譲渡すると提示したり、また
時間の無駄だな。ゼオンも、流石に諦めることにした。何事も引き際が大切である。それはそうと、さっき事務室で渡された、競技会要項に目を通す。まず、予選会を行い、上位八組が本戦に進む。本戦は、トーナメント形式と書いてある。予選会は、一週間後。本戦は、さらに、その一週間後に開かれる。
「予選会は、何をするんですかね」
「障害物競走と書いてあるぞ」
障害物競走とは、何であろうか。ゼオンは、初耳であった。ロイドを見ても、首を振っている。知らないのであろう。
「一定の距離に、障害となるモノやイベントを用意してるっす。まあ、移動しながら課題を解決する競技っすね。笑いあり、涙あり、スリルと恐怖ありの、お祭り型エンターテイメントっす」
最後は、何を言いたいのか全く分からない。だが、面白そうである。ゼオンにとっては、面白ければ何でも構わない。祭りは、楽しまなければ損である。説明を終えたカリフが、笑いを取る必死に堪えた様な、苦悶の表情でいる。何かあったかとゼオンは考えたが、特に気にしないことにした。
初夏の日差しが強まる、午後の研究室。ゼオンは祭りだ、祭りと、騒いでいた。
◇◇◇◇◇◇◇
「ゼオンさん。いよいよ、競技会ですね! 頑張りましょう! 」
「ロイド。思い切り暴れるか! 」
ゼオンは気合を込め、行くぞと研究室を出て行こうとした時に、カリフに呼び止められた。予選会の制約を伝えてきた。
「魔術の使用、禁止っす! 」
多分、魔術を使う場面もないであろう。そんな理由から、カリフもその様に決めたのかもしれない。ロイドには、制約がないのだから、魔術が必要な場面では活躍してもらおう。ゼオンは、頼んだと、ロイドの背中を叩いた。
ロイドはロイドで、ノアからを忠告受けていた。可哀想ではあるが、ゼオンは口を出さない。こういう時は、普通はアドバイスか激励の言葉が、相場であろう。ロイドは、顔面蒼白である。ノアのことだ。きっと、脅迫と言う名の死神の鎌を、突きつけたのであろう。ロイドよ、ご愁傷様である。
◇◇◇◇◇◇◇
予選会は、二十組程の参加者であった。あまり、他の研究室と交流かあるわけでもなく、ゼオンが知っている顔は見当たらない。会場は、王都の競技場を使用している。以前、王都星祭りで開催された、
障害物競走は、1kmの直線。コースの途中に、机や壁が見える。何をやるのか、よく分からないが、早く始まらないかと、ゼオンは滾っていた。予選会を始めるにあたって、説明があると、参加者が集められる。担当教授が、参加者の前に立ち、説明をかいしする。担当教授を見て、ゼオンは目を丸くした。
「皆! おっはよー! 予選会担当のカレン・シャルマンです。はじめましての人は、よろしくね」
「どーもっす! 同じく予選会を担当する、カリフ・グランタっす。よろしくっす! 」
苦悶の表情をしていた理由は、これだったか。内容を知っているだけに、話したいのを堪えたカリフ。ゼオンは、心の中で賞賛の拍手を送った。
予選会の注意事項が説明される。他の参加者への、妨害行為は禁止。障害は、どちらか一人、又は二人でクリアする必要があるものが、それぞれ用意されている。ゴールに到着した順に、上位八組が本戦に進める。
説明が終わり、開始まであと数分となる。スタートラインまで、ゼオンは移動していた。隣を見ると、この間、事務室で見た二人がいた。向こうも気がついた様だ。
「お! お前ら、参加してんのか? ま、せいぜい頑張れよ。お荷物さん」
ケラケラと笑いながら、話しかけてきた。弱い犬ほどよく吠えるとは、よく言ったものだと、ゼオンは思う。相手にするだけ、時間と労力の無駄である。
「競技会じゃなく、遺跡のゴミ拾いでもしてろって。どうせ、負けるんだしよ」
癇に障る連中だ。少し、黙らせるか。ゼオンは、威圧しようとした。それより早く、ロイドが口を開く。温厚なロイドが、珍しく怒っているなと、ゼオンは感じた。
「これ以上、侮辱するなら、地獄を見せますよ? 」
顔は笑っている。が、目は笑っていない。笑顔でキレ気味に、注意している。魔力も溢れ出し、注意という、より威圧の様に見えるが。目の前の二人がたじろぎ、捨て台詞を吐いて、移動していく。
「なあ、ロイド。『覚えてろよ』って、本当に言うやつがいるんだな」
「ゼオンさん。僕も、初めて聞きました。絶滅危惧種かと、思ってました」
覚えてろと言われても、もう忘れた。覚えておく義理も義務もないなと、ゼオンは思う。ロイドが言うには、ニワトリ頭ですからと指摘される。
「ほらゼオンさんは、三歩進んだら、忘れるじゃないですか! 」
どういう意味だと聞いて、返ってきた答えは、ゼオンの心に突き刺さる。もう少し、言葉を選べ。ゼオンは、ロイドも敵なのではないかと感じずにはいられない。
周りは生徒が観戦できるよう、階段状の座席が用意されている。観客の声援が足元を揺らす。開始時刻が迫るに連れ、高まる熱気。スタートラインから溢れ出し、蒼天へ駆け上っていく。そして訪れる、静寂。
――スタートを告げる笛の音が、静寂を破った。
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