第2話 三ヶ月目
本来なら、人を三十人でも呼んで宴会の出来そうな広さの屋敷は、よく分からないガラクタでごちゃごちゃしていて、手狭である。
「え、これを全部片せって?」
自分でやれよ、という視線を飄々と受け流し、超能力男は前髪をかきあげた。
「そうだよ。だって使用人だろう?」
「監視員です。スーツが汚れるじゃないですか」
「監視員っていうのは、三ヶ月も人の家に上がり込んで、食っちゃ寝する人間のことを言うのか? もし君の上司に他の人間を推薦するように言われたら、ぜひ俺の名前をあげといてくれ。俺も監視員になりたい」
食費は別にこの男から出ているわけではなく、上から出ているのだが、特に言及はしない。
確かになにもしていない。気がついたら三ヶ月経っていた。楽しい時間は過ぎるのが早いと言うが、それはあまりにあっという間だった。なんでだろう。
しぶしぶ役人は口を開いた。
「別途料金をいただきますが」
「公僕だろ、君」
「友人間ならアリかと」
「ナシだよ。なれなれしいな。いつから俺と君は友人になったんだ。……あ、ため息ついた」
このままでは心臓も取られるし、とりあえず役人は言われたことをすることにした。
手始めに、居間のガラクタから、いるものといらないものの選別から始める。
「これは?」
指差したものは、大きな液晶のテレビだった。
ただしコードに繋がれておらず、液晶には大きなヒビが入っている。
普段使いしているのとは、別のものだ。
いくつあるんだか分からないソファのうちの一つに、でんと乗っかり、幅を利かせている。
「だめ! これはせっかく拾ってきたんだから! 直せばまだ使える!」
超能力男は悲鳴をあげて、テレビに抱きついた。
「え、拾ってきたんですか?」
役人の冷え冷えとした視線を感じたのか、男はますますテレビに抱きついた。
「そうだよ。こんな大きい液晶見たことないだろ。廃品回収の業者が持ってちゃう前に、持ち主に話をつけたんだ」
「その大きな液晶、壊れてますけど」
「いつか直すからいいんだよ!」
「いつ?」
「そのうち!」
釈然としない思いをしながらも、役人は今度は別のガラクタを指差した。
「この中身が腐っている、崩れかけた本棚は、」
「だめ! 祖父の代から受け継がれている本棚なんだ」
「最近じゃないですか。ていうか家族がいたんですね」
「当たり前じゃないか。俺のことなんだと思ってるんだよ」
「木の股から生まれたのかと」
超能力男の親族を探せば人質になるかもしれない。
役人の脳内チャックリストに項目が一つ増えかけたところで、男が口を挟んだ。
「言っとくけど、みんな天寿を全うして、一人も残ってないから」
「ええ……」
ちっ、役人は舌を鳴らす。
すかさず超能力男が騒ぎ立てた。
「あ、いけないんだ! 行儀悪っ!」
「うるさいです」
「君に家族は?」
「……弟が二人」
「へー、そうなんだ」
わりとどうでも良さそうに返事をする。
「君はさぞかし弟たちのいい見本なんだろうな」
「……大事な人の心臓ってだれのものなんです?」
「二ヶ月間なにも聞いてこないから、てっきり忘れたのかと思ったよ」
「私、仕事はちゃんとするタイプなんで」
「…………ちゃんと?」
超能力男が目を点にする。
「まあいいや」
「教えてくれないんですか?」
「さあ。だれでしょう」
「いくら恋人にフラれたからって、人の魂とっちゃダメですよ」
「元カノじゃないから」
「じゃあ元カレ?」
「ちがうわ」
「彼女いたことあるんですね」
超能力男が瞳を輝かせる。
こういう話題が好きなのだ。
「気になる? ヤキモチ?」
役人は心を込めて頷いた。
「貴方のような方でも、人を愛することができるのだと思えば、この世界も案外捨てたもんではないと感心しました」
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