捧げて得たものは劣等

 ウェンドゥの護衛が通信で呼んだ応援は、練度こそ高かったが装甲車両とそれに搭乗した人員のみであった。

 今回の襲撃で破損した車両の回収は後日行う段取りが組まれ、爆発の衝撃で打撲傷等の怪我を負っていた護衛の護送を行う為、この装甲車両は使用された。

 その為、装甲車両で駆けつけた応援要員達は車両から降り、徒歩での帰参となった。

 彼もその中に混じって周囲を警戒しつつ、ウェンドゥの乗った車両を護衛しながら、ナロス伯爵領の中枢都市、双子都市とも呼ばれる「フィリンゲン=ナロス」へと向かった。


 双子都市フィリンゲン=ナロス、元は別々の村落としてスタートし、現在は都市認定されている伯爵領の行政の中心となっている都市である。

 村落から発展する過程でそれぞれ街となり、次第に領地を広げていった。

 そして、現在の国家体制に移行する際に行われた行政整理計画の結果、元は別の貴族が納めていた二つの地域は統合されることになった。

 なぜ統合されることになったのか?

 それは二つの街が、間に二㎞程の平原を挟んだ距離しか空いていなかった事。

 それと同時に、国の行政側の思惑も重なった結果だ。それは貴族の減少と言う思惑。

 国は国民から徴収された税金によって支払われる貴族年金等に代表される、貴族に支払われる金銭を減らす名目で、ライヒ連邦共和国発足時に様々な整理にかこつけて行われた。

 勿論貴族は貴族で唯々諾々とこれにしたがった訳でないのだが、時の権力者であった当時の皇帝、カイザーライヒの権威と武力で以てこれを為した。

 斯くして二つの街は一つの行政区画として纏められ都市と認可。

 双子都市フィリンゲン=ナロスと呼ばれるようになる。

 西にフィリンゲン、東にナロス。

 今の形での統治が始まり凡そ一五〇年、当時は両街の間で確執はあったもののそれは既に過去の話、平和な時代は双子都市という形態を押し出して観光者を集めたものだ。

 だが、現在観光を安全に出来る環境ではない。

 街を一歩出ればそこはモンスターが闊歩し、それ幸いにと様々な組織が暗躍する、暴力が支配する領域が広がるばかりだ。

 そんな中でも人は生きなければならない。

 希望を捨てず、次代を育てる為の様々な方策。

 生まれながらにして神からスキルを与えられなかった子供達をどうやって育てるのか。

 様々な事が試験的に運用された。

 神の恩寵を授けられなくなった最初期の子供達は、新たな教育要綱を纏める為の実験台のような扱いとなった。

 ウェンドゥもその中の一人であった。

 特にウェンドゥの様な、長兄・長姉ではない子供達は、殊更にその傾向が強い。

 それ故に、危険を顧みずに他の都市へと向かい教育という名の実験材料にされていた。

 大人達は必死だったのだ、この暗黒時代と呼ぶに相応しい時代にどうやって生きていくのか。

 状況の厳しさは年々悪化して中で、如何にして国家を種族を存続していくのか。

 ウェンドゥ達の様な貴族女子女も又、それを感じていたからこそ自らの人生を捧げたのだ。

 だが、それは劣等感となって彼等を苛んだ。

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