第39話 世界にたった1つのプレゼント

 

 来週からはいよいよ浄化の旅がスタートする。私たちはその前に2人でお出かけをすることにした。もうアーノルドの体の調子も元に戻っているから安心だ。浄化の旅が始まったらまた忙しい日々に戻ってしまうので、今日は心置きなく2人っきりを満喫する予定だ。







「本当にここで良かったの? もっと見ていないところも沢山あるのに」


「うん、ここが気に入ったの。アーノルドと婚約して初めてきた場所だしね」


 私たちが来たのは、以前一緒にデートした私が浄化した湖。私がリクエストしたのだ。芝生に持ってきたシートを広げて2人で並んで座る。


「ねぇ、どうやってあの時来てくれたの? アルペンは怪我をしてしまったんでしょ?」


「あぁ。そのブローチは、メイの危機が訪れると自動的に俺を召喚するように仕組んでいたんだ」


「このブローチが? 召喚なんて難しいのにそんなこと出来るの?」


「うん。一度キリだけどね。今は魔石に何も力が無くなっちゃってるから、ただの飾りになっちゃってるけど」


 あの時のブローチを私は今でも愛用している。魔石の色は緑色だったものが、グレーに変わってしまっている。恐らくもう使えない魔石なのだが、これはこれで味があり気に入っている。


「でも本当にドラゴンが出てきた時はもう無理だって諦めかけたよ。アーノルドが来てくれなかったら、そのまま諦めちゃってたと思う」


「だろうな。俺は転移した瞬間目の前にドラゴンが迫っていてもう考える暇もなかったから、メイを守る為に必死だった」


「本当に一人で立ち向かって行くんだから。肝が冷えたよ」


「俺だって目の前にドラゴンに引き裂かれそうなメイが居て肝が冷えたさ。その後も死に物狂いだった」


「うん、あの時のアーノルドカッコ良かったよ」


 あの時は見惚れてる余裕もなかったが、ピンチの時に登場するヒーローはやはりカッコ良すぎる。しかも見た目もヒーローのようにカッコ良いアーノルドだ。動画に残せなかったことが本当に残念だ。



 暫く2人で花畑や、周りで遊んでいる子供達を見る。こののんびりとしたひと時も好きだ。そうして過ごしていると、彼の頭に蝶が止まる。



「そういえばあの時声が聞こえたの」


「あの時って?」


「アーノルドの邪気を浄化しても、どんどん体温が低くなっていってもうダメかもって思った時に、『内側から浄化して』って声が聞こえて、その時にも蝶が近くを飛んでいたの。……あれは貴方の声だったの?」


 そう蝶に問いかけるが、もちろん何も返事はない。


「もしかしたら精霊が助けてくれたのかも知れないな」


「精霊?」


「あぁ。『昔女神様は1人の女性に特別な力を与えた。そして女神様は彼女を助ける為に精霊を近くに遣わし、精霊は鳥やリスに姿を変え、彼女を見守っている。そして彼女は様々な場所を浄化し人々を救ってきたが、困った時には精霊が姿を現し正しい道へと導いてきた』これがこの国に伝わる昔話だ」


「そっか。その精霊が助けてくれたのかも知れないね。精霊さん、ありがとう」


 そう私が蝶に声をかけるとそれに答えるかのようにヒラヒラと舞ってくれた。


 しばらく散策した後はお昼ご飯にする。今日のお昼は私の手作りお弁当だ! みゆちゃんに料理を教わり、今回は全て私の手作りである。果たして彼の反応はどうだろうか。



「じゃじゃ〜〜ん! 聖女様特製お弁当です!」


「おぉ! 美味しそうだね。メイの手作り料理が食べれるなんて贅沢だな。初めて見る料理もあって新鮮だ」


 今日のメニューはおにぎりに、定番の卵焼き、そしてアスパラのベーコン巻きに、ミートボール、ジャーマンポテトだ。大食いの彼のことを考え、お腹に溜まりそうなメニューにした。そこにトマトとブロッコリーも入れて彩りも綺麗なはずだ。おにぎりの中身は鮭と、鶏そぼろを入れた。今回は日本の味のおにぎりを楽しんでもらおうと思ったのだ。


 まずはおにぎりを手に取るアーノルド。大きな口を開けてあっという間に半分口に含んでしまう。


「そんなにいきなり食べて大丈夫? 今回は向こうの味に寄せたから口に合わないかもよ?」


「もぐもぐ……大丈夫。とても美味しいよ。これはひき肉かな? 味付けが濃くてお米に合ってるね。うん、これ好きだな」


 良かった。実は鶏そぼろも自分で味付けをしたのだ。彼に美味しく食べてもらえて嬉しい。あっという間に彼はお弁当を完食していった。



「とても美味しかったよ。メイは料理が上手なんだね」


「そんなことないよ。このメニューもみゆちゃんに1ヶ月教えてもらってやっと作れたんだもん」


「そっか、俺のためにそんなに努力してくれたんだね。嬉しいよ」


 コツンと額を合わせてくる彼に真っ赤になってしまう。


「赤くなるのも可愛いけど、早く俺に慣れて欲しいな」


「慣れるなんて無理だよ……カッコ良過ぎるアーノルドが悪い」


 ついそんなことを言ってしまう。その言葉も彼を喜ばせてしまうと分かっているのに。


「少し休憩したら花畑の方に行ってみようか」


「うん!」






「わぁ! 近くでみると色んな種類の花が咲いててとっても綺麗だね! それに良い香り!」


 花畑に着くと嬉しくてついはしゃいでしまう。


「転ばないように気をつけて」


 そう言って私の後ろをついてくるアーノルド。花畑に立つ姿もドラマの一幕みたいだ。


「メイ、こっちに来て」


 そう言われて彼のそばに駆け寄ると抱きしめられる。


「メイ、本当にありがとう。メイのおかげでここに立つ事が出来ているんだ」


「アーノルド……」


「目を瞑ってくれる?」


 何をされるんだろうか。ドキドキしながら目を瞑る。


 すると左手を取られ、何かひんやりした物が薬指に通る。


「目を開けて良いよ」


 そう言われて目を開けると、私の薬指にはグリーンの石がついた可愛らしい指輪がはまっていた。


「こ、これ……」


「随分遅くなってしまったけどやっと出来たんだ。メイ、俺と今後も一生側に居て。今はまだ婚約者だけど、この旅が終わったら式をあげて結婚しよう」


「……はい」


 彼が贈ってくれたのは婚約指輪だった。普段使いも出来る様に石座の低い小ぶりなデザインとなっているが、とても可愛らしい。ダイヤモンドではなく、緑の石がついている。


「この指輪はあのドラゴンの魔石のカケラから作ったんだよ。また俺の魔力を込めてあるから、何かあったら俺にも分かるようになっている。宝石じゃなくて悪いけど、渡すなら俺の魔力を込めた物が良いと思って」


「そうなんだ。私は嬉しいよ。それって世界に1つだけの指輪ってことでしょ? とっても嬉しい」



 彼の魔力が込められた指輪なんて、いつでも彼のことを感じる事が出来る。それにあの時ドラゴンの出現に間に合ったのはあのブローチのお陰だったのだ。いつでも私を守ろうとしてくれる彼らしい指輪だと思った。


「私からもプレゼントがあるの。これなんだけど……。この前のハンカチがダメになっちゃったから今度はちゃんとしたお守りを作ったの」


そう言って手作りのお守りを渡す。緑色の布で小さな袋を作り、その表面に剣の刺繍と、裏面にはA&Mの文字を刺している。中には私の魔力を込めた魔石が入っており、アーノルドの無事を祈って一生懸命作ったのだ。


「ありがとう、とても嬉しいよ。これは……メイの魔力も感じる」


「うん、私も魔石に魔力を込めたの。アーノルドのことを守ってくれますようにって願いを込めたからね!」


「メイ、君は本当に……。どれだけ俺を喜ばせれば気が済むんだ」


 珍しく赤くなった彼の顔が近づいてきて、私もそっと眼を閉じた。


 そうして私達は翌週から改めて浄化の旅をスタートさせたのだった。

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