第38話 お兄さん
「一応俺病人なんだけどな」
「ご、ごめん。つい」
彼に平手をくらわせてしまって今は小さくなる私。椅子に座ってベットにもたれかかりながら寝ていたので腰が痛い。
「懐かしいな。初めて3日目の朝を迎えたのが昨日のように感じるよ」
「そうだね。あの時はアーノルドが急に部屋に入ってきたからびっくりしちゃった」
「今回は最初から部屋に居たのに叩かれたけどね」
そう言って悪く微笑む。うん、そんな顔もカッコいい。寝起きの少し掠れた声もちょっと色っぽい。絶対私より色気があるのはズルい。少し寝癖のついた髪も素敵に感じてしまう。
「とうとう5日目かぁ。もうそろそろかなって思ってたけど、最近が怒涛すぎてもう驚く余裕もないよ」
「そうだよな。とりあえずライザーを呼ぼうか。っとその前にメイは身だしなみを整えたいよね」
こういう所に気づいてくれるのも嬉しい。この病室に侍女を呼ぶことは出来ないので、洗面所を借りて1人で軽く身支度をする。
準備が出来たと告げると、アーノルドが魔法で小さな鳥を作ると飛ばしていく
「もう魔法を使って大丈夫なの?」
「今のはほとんど魔力を消費しないからね。さすがに伝言を任せるようなものは魔力を多く使うから怒られちゃうけど、今のは俺が呼んでるってのろしのようなものだから問題ないよ」
「私ももっと魔法を習いたいな」
「浄化の旅が終わったらライザーに教われば良いんじゃないか?」
「うん! そうする」
そう話していると、ライザーが慌ててやってきた。
「アーノルドどうした!! ってメイ!?」
「おはようライザー」
「……そうか。とうとう5日目の滞在になったか」
そう言うと少し暗い表情のライザー。私のこちらへの滞在が長くなるということは、みゆちゃんをこの世界へ引きとどめる魔法の開発までの残された期間が僅かだと言うことだ。
「恐らく今回のドラゴンの浄化が大きいのだろうな。間違いなく今までで一番大きな浄化だし、メイの魔力がこの世界にかなり浸透しているはずだ」
「うん、私もそう思った。みゆちゃんは今日もう居ないんだよね?」
「あぁ、昨日の夜元の世界に戻って行ったよ。やっぱりまだ4日が限界だな。早く方法を見つけないといけない」
「うん……。ライザーならきっと大丈夫だよ! 私に協力できる事があったらなんでも言って!!」
「あぁ、その時はよろしく頼むよ」
「うん! 任せて!!」
私が自信満々に返事をすると、やっとライザーの表情が少し柔らかくなる。しばらく話してライザーは退室していった。
「今日は邪魔しないから二人でイチャイチャしてろよ」
うん、一言余計だ。2人だけだということを変に意識してしまう。昨日はアーノルドもほぼ寝ていたし心配の方が上回っていたから何も感じなかったのだが、今日はお互いに体調は万全じゃないものの意識はちゃんとある。昨日とは状況が違うのだ。
「メイは変わったね。今まではそんな自信がなかっただろう。ドラゴンの浄化で少しは自信がついたのかな」
「それもあるかも知れないけど、アーノルドのおかげだよ。アーノルドが私のこと信じてくれてるって思うと、何でも大丈夫だって思うの。それで自分のことについても自信がついてきたんだと思う」
「なるほど、俺の愛の力か」
そう言ってからかってくる彼を小突こうと思ったらバランスを崩して彼の上に倒れこんでしまう。
「おっと、大丈夫? メイもあの浄化で3日間寝ていたんだって。昨日はそんなことにも気づけずにごめん。今は体調はどう?」
「今はもう大丈夫! まだちょっとふらつくことがあるけど、怠さとかはもうないよ」
「まだふらつくならちゃんと休まないと」
そういうと彼は私の腕を引っ張り、そのまま抱きしめられる。ベッドの上で抱きしめられ私の心臓はドキドキと早い鼓動を刻む。
「何もしないから。しばらくメイを充電させて。もう2度と触れることは出来ないと思ったんだ。メイを感じてたい」
「うん、私もアーノルドを感じてたい」
そうして私たちは病室に来客が来るまでゆったりと過ごしていた。
来客は彼のお兄さんだった。
「おお、君がアルの婚約者か! 今回はありがとうな! 君のおかげでアルが助かったと聞いている! これからも宜しく頼むよ!」
そういって豪快に笑う彼のお兄さん。アーノルドはアルと呼ばれているのか、可愛いじゃないか。私もアルと呼んでみたい。
「自己紹介を忘れていたな! アーノルドの兄のレオンだ。あいつの3つ上で、今は父上の補佐をしている」
お兄さんはアーノルドとは全く違うタイプらしい。背丈や見た目は似ているのだが、雰囲気が全く違う。アーノルドは穏やかな雰囲気を出しているのだ、お兄さんは豪快だが人を引き寄せるような魅力がある。人望があるのだろうなと一目で感じさせる何かを持っているのだ。
こんなお兄さんがいたら幼いころの彼が劣等感を持つのも分かる気がする。天性の人を引き寄せる才能があるのだろう。それに対してアーノルドはきっと努力でそれを手にしてきたタイプだ。
「兄さん、ここは病室だからもう少し静かにしてくれよ」
「お前の個室なんだから良いだろう。将来の妹との交流の方が大事だ」
「妹……」
「そうだろう? 結婚したら義理の妹になるんだ。もう家族のようなものだろう」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです」
「うん、可愛いな。聖女ってイメージにピッタリだ」
「……兄さん」
「そんな怖い顔で睨むなよ」
彼が少し不機嫌になるも、お兄さんは全然気にした様子なく流している。
「本当はもっと話したいんだが、これ以上抜けていると怒られてしまうからな。また今度ゆっくり話そう!」
そう言うと握手を求められ、手を出すとブンブン振られて転びそうになるとことを支えてくれる。そして嵐のように去って行った。
「はぁ、うるさかっただろう。ごめん」
「ううん、とってもパワフルな人なんだね。アーノルドとはタイプが違ってビックリした」
「だろう? 兄はとても魅力ある人なんだ。昔からいつの間にか敵対している奴まで魅了してしまうんだから、ある意味一番怖いタイプだよ」
「なんかわかる気がする。でも私はアーノルドが一番だよ?」
「本当に? 兄は俺と見た目はそっくりだろう? 同じ顔を見て兄に惹かれたりしない?」
少し不安そうに聞く彼が可愛く思えてしまう。
「確かに顔はそっくりだったけど、前にも言ったでしょう? 私はアーノルドの見た目だけに惚れたんじゃないもの。アーノルドだから好きなの」
「ごめん、冗談だよ。ありがとう」
そう謝るとキスを送ってくれる。
「……前まで全然キスしてくれなかったのに。いきなり変わりすぎじゃない?」
「あんな経験したらそうなるよ。意地張って触れないまま死んでしまったら成仏出来ない。それにメイは俺の特別だからね。メイのキスで元気になるのも俺の特権だと思うことにした。他の奴には絶対させないから、俺だけが知っているんだから良いかなって」
「なんかアーノルドも変わったね。少しライザーに似てきたんじゃない」
「……それは嫌だ」
そう言う彼の姿が本当に嫌そうで笑ってしまった。
そうやって5日目を二人で過ごして私は元の世界に帰っていった。そしてそこから1か月間はこちらの世界に来てはアーノルドのリハビリに付き合う日々を過ごした。彼が回復するまでは浄化の旅もお休みなのである。そうして彼が元の状態に戻り、いよいよ来週からは旅のスタートだ。
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