第19話 婚約
翌日の朝、アーノルドの両親と一緒に朝食を頂く。昨日は挨拶しかしていなかった為とても緊張したが、和やかな雰囲気で会話をすることが出来た。
「父上、食事が終わったら少し時間をくれませんか。報告したいことがあるので」
「10分くらいしか時間が取れんが、それで構わんか」
「はい、十分です。ありがとうございます。メイと母さんも同席して下さい」
「うん、分かった」
何の話をするのだろう……?
朝食が終えると、応接間に移動しメイドがお茶を4人分用意してくれる。アーノルドの両親、そして私たちが向かい合わせで座る。話が始まる前の緊張した雰囲気に、これではまるで結婚の挨拶をするみたいだなと思っているとアーノルドが口を開く。
「お時間を取らせて申し訳ありません」
「いや、それで報告とは何だ?」
「昨日メイに思いを告げ、付き合うことになったので報告をしようと思って」
本当に交際の挨拶だったのか。自分には関係ないと覆っていたので、急に私も緊張してくる。もし反対されてしまったらどうしようと不安になる。
「聖女様とお前が……?」
「はい、そうです」
「あらまあ」
アーノルドのお母さんは驚いた様子だが笑みを浮かべており、反対はされていないようで安心する。
「メイ様、本当にこやつでいいのですか? 昔から剣にしか興味を持たず、それ以外は取り柄のない男ですが」
「いいえ、私はアーノルドが良いのです。彼以外には考えられません」
「メイ……」
暫く試すかのように私を見つめるお父様。負けじと私も見つめ返し、真剣な強い思いであることを伝える。そうしていると、ふとお父様の表情が和らぐ。その優しい顔はやっぱり彼に似ていた。
「これはこれは、余計な心配だったみたいですな。そこまで息子の事を慕ってくれているとは。我々も2人を祝福する。アーノルド、聖女様と付き合うのだ、しっかりしろよ」
「はい、もちろんです」
良かった。お父さんにも反対されずに私たちの事は認められたみたいだ。
「ところでこのことはもう王には報告したのか?」
「まだですが……」
「聖女様とのことなんだ。ちゃんと報告した方が良いだろう。今から私と一緒に登城して挨拶しよう。すぐに準備なさい」
というやり取りがあり、急遽王様にも会うことになった。こちらの展開も早すぎてついていけない。アポイントもなしに王との面会を取り付けるなんてさすが宰相様だ。
「おぉ。先週振りだな。こんな頻繁に会うとは思わなかったぞ」
私も思いませんでした、すみません。
「まぁライザーからの報告で2人に関しては聞いていたから驚いてはいない」
「任務中であるにも関わらず、メイ様とこのような関係になってしまって申し訳ありません。降格でも、部隊の離脱でもなんでも受け入れる覚悟です」
そうアーノルドが告げるので慌てる。
彼がいなくなったら浄化の旅を続けていけない。
「そう固く考えんで良い。聖女様を一番近くで支えてくれたのだ、お互いを好き合っても不思議はない。むしろ聖女様の相手を無理やり引き離したらわしが悪者扱いされてしまうわい」
そう王様が笑ってくれて安堵する。本当に話のわかる人で良かった。
「アーノルドが婚約者ならこちらも安心だ」
「婚約者ですか……?」
「俺はそのつもりだったんだけど、メイは違ったの?」
そう悲しそうな声で言われ言葉に詰まる。確かにこの世界の貴族では、付き合ってからの婚約ではなく、婚約してから付き合いが始まるのが一般的だった。
「いえ、私もそのつもりです」
アーノルド以外に結婚など考えられないのだから、今婚約しても問題ないだろう。
「では問題ないな。国王ルイ・ウィルソンの名において、公爵家次男アーノルド・ワットソンと聖女メイの婚約を許可する」
そう言うと魔法で契約書のようなものが浮かび、アーノルド様がサインをするので、それを真似て私もサインをする。
「ではこれにて婚約は結ばれた。もし万が一この婚約を解消したい場合にも私の許可がいる。まぁそのようなことはないと思うがな」
王様にも祝福してもらい、王宮を後にする。
その後アーノルドの馬でライザーの家に寄ってもらい、みゆちゃんと再会した。
「みゆちゃん、なんだか眠たそうだけどどうしたの?」
「うん? 眠らせてもらえなかったのよ。ほら、寝ると元の世界に戻っちゃうから。めいはちゃんと眠れたの?」
「うん、公爵家のベットはふかふかですぐに寝ちゃった!」
「……そう。良かったわね」
みゆちゃんは今日もこの世界に留まれているらしい。ライザーも嬉しそうにしていて良かった。
その後みゆちゃんと2人きりにしてもらって今後のことを話し合う。
「みゆちゃん今後どうするの? 本当にこっちに来てこちらの世界に住むの?」
「えぇ、めいと同様に元の世界に未練もないもの。めいが居ないならあっちにいても仕方ないわ。だったらめいもいて、ライザーさんがいるこっちの世界の方がよっぽど良いわよ」
「でも仕事も頑張っていたのに……」
みゆちゃんはずっとデザイナーの仕事をしたくて、専門学校を出て就職した。今の会社ではその夢であった子供服のデザインの仕事につけて、やり甲斐を持って働いてたはずだ。私と違って仕事に責任を持っていたのに。
「確かにずっとやりたかった仕事だけど、こっちで出来ないこともないかなって。私はメイと違って力もないから、一から頑張るしかないけど新しいことに挑戦するのも楽しそうじゃない。それにね、会社なんて所詮代わりがいくらでもいるのよ」
「そんなことないよ。みゆちゃんは色々仕事任されていたし、実績だって1番で社内表彰されていたじゃない」
「まあ今は私が売り上げトップだしね。でも次から次へ新しい人は入ってくるし、私が抜けてその一瞬は大変かもしれないけど、結局いずれ他の誰かが私の穴を埋めるようになるの。私じゃなきゃダメなんていう仕事は結局ないのよ。だったら私を必要だと言ってくれる人のそばに居たいじゃない。めいならその気持ちわかるでしょう?」
そう言うみゆちゃんはもう心を決めているようだった。本人がこう言っているのだから、私がとやかく言うことじゃないのだろう。それに私もみゆちゃんと離れなくて良いと思うと心強い。
「じゃあみゆちゃんもライザーと婚約するの?」
「いえ、私達は婚約出来ないわ」
「え? どうして?」
「ライザーさんは侯爵家の方よ。かたや私は異世界から来たどこの骨かもわからない女。私が実績を残すまで婚約は認められないでしょうね」
「そんな……」
確かにみゆちゃんは私と違ってこちらの世界に来ても何も生活の保障がないのだ。それなのにこんな大きな決断を出来るなど私では考えられない。
「別にそこはそんなに気にしてないの。元々結婚願望もそんなになかったし。今はどうやって異世界で生活するかの方が重要よ」
「……うん。そうだね」
「魔法を使える世界なんて夢みたいじゃない。色んな可能性が溢れていると思うわ。とてもわくわくしてるの」
みゆちゃんが目をキラキラと輝かせている。それは仕事のことを楽しそうに話してくれる時の表情と同じだった。きっと心から楽しみに思っているのだろう。その表情をみて、みゆちゃんの決めたことを私も応援しようと決めた。あっちの世界で助けてもらった分何かあったら次は私がみゆちゃんのことを助ける番だ。
それからアーノルド達も含め今後のことを話あった。
今回みゆちゃんがどれくらいこの世界にいられるか調べ、次回からは私の召喚と一緒にみゆちゃんも来てこの世界に少しずつ馴染むようにしていく作戦らしい。それと同時並行でライザーがこちらに引き留める手段を探すという事だ。
私が浄化に行っている間はみゆちゃんは宿やテントでお留守番する予定だ。いつも荷物などの留守番として部隊から1人置いて行くので、何かトラブルに巻き込まれる心配もないだろう。
その日の晩にみゆちゃんは元の世界に戻っていたと、翌日屋敷にきたライザーが悲しそうに教えてくれた。
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