第9話 選択肢
「もう来週で2か月経つけど、次来た時に私は何日で帰れると思う?」
そうライザーに聞く。
「以前よりさらに召喚に魔力を使わなくなっているからな。次は4日目の滞在になる覚悟をした方が良いかも知れない」
「分かったわ。でも本当に何で急にこんな変化になったんだろう」
あちらの仕事は週3日に減らしているので問題はない、あとはみゆちゃんに一言伝えておけば良いだろう。それにしても今まで3年間なんともなかったのに、なんでこの数ヶ月でいきなり変化しているのだろう。
「もしかしたら浄化の進み具合のせいかも知れないな。南の領土が全て終わり、西の1番邪気の範囲が大きかった湖もこの前浄化出来た。残りの北と東の地域はそんなに大規模な邪気は発生していないはずだから、浄化も今までに比べたら楽なはずだ」
私は今まで王宮を出発し、まずは1番住民への被害が深刻な南の領土から浄化していった。最初は慣れない浄化にかなり時間がかかってしまっていたのだが、なんとか無事に浄化し終えて今は西の領土を回っている。
「北と東を回るのはそんなに時間も掛からないのよね」
「あぁ。今までに比べたら半分くらいだろう。浄化された場所が増え、メイの魔力がいろんな土地に染み渡りこの世界から逃さないようにしてるのかも知れないな」
そう言うものなのか……この世界の仕組みがいまいちよく分からない。この世界に必要な存在は、重力のようにこっちの世界へ引き留められる力が働くそうだ。基本生まれた世界からの引っ張られる力が1番強く働くので、私は週2日経つと元の世界に引っ張っられる力に負けて帰っていたそうなのだが、その引力のバランスが逆転してきているそうだ。
「それで、お前は今後どうするのか決めたのか? 一応王にも状況を説明したが、次の浄化が終われば一度王宮に戻って王と話す機会をもらえることになった」
「王様に会うのも久しぶりね」
なにせ浄化に忙しくここ3年王都に一度も寄っていない。
「あぁ。そこで今後について話せば良い。もうメインどころの浄化は終わっているし、浄化しにくる頻度を落としてこちらにいる時間を減らせばまた元に戻る可能性もある」
「そういう方法もあるのね」
「あぁ。もともとはこの世界の問題なんだ。お前はお前のしたいようにしろ。お前を無理に引き止めようとは誰も思っては居ない。最悪このまま帰ってこないって選択肢もあるんだ」
「それは出来ないわ。まだ浄化も終わってないのに!」
「お前ならそう言うと思った。とりあえず来週の王との謁見まで何を話すか考えておけ」
そう話していると浄化場所の近くまで来たらしい。馬車が止まり、アーノルドがエスコートして降ろしてくれる。
この日の浄化は結構良いところまで行ったのだが、翌日繰越になってしまった。
近くに宿屋がないので今日は野宿コースだ。
野宿の日は私用のテントにマーサと一緒に泊まる。入口は騎士が交代で見張ってくれているのだが、今日の担当はアーノルドだった。
色々考えて眠れない私は外に出てアーノルドの隣に座る。
「眠れないのですか」
「うん、来週の王様との話をどうするか色々考えちゃって」
どうすれば良いのだろう。来る頻度を減らしてこの世界から距離を置くか、この世界に留まる覚悟をして今のペースで浄化していくか。
「ライザーから聞いたよ。浄化のペースを落とせばまた元通りになる可能性もあるんだって? ならそれで良いんじゃないか?」
「でもそうしたら浄化が全て終わるまでまた長い時間が掛かってしまうわ。みんな浄化が終わるまでこの旅を続けなきゃ行けないんでしょう?」
この旅のメンバーは3年間変わらない。国の最重要事項だから、信用出来るメンバーが選ばれており、そう簡単に代わりが居ないのだ。
「アーノルドだって、早く旅を終えて結婚したい人が居たりするんじゃないの?……婚約者とか」
いつもより少し踏み込んだ質問をしてしまう。公爵家の次男と聞いて、決まった相手が居るのじゃないかと不安に駆られたのだ。
「俺に婚約者は居ないよ。元々聖女の浄化部隊を希望していたからそういった人は作らないと決めていたんだ」
「そうなんだ……。でもザッカリーみたく家族や子供を置いて旅に着いてきてくれている人もいるのよね。そう考えるとこの生活を早く終わらせてあげたいの」
ザッカリーは騎士で、王都に奥さんと10歳の子供を残して旅についてきてくれている。移動ばかりで手紙のやり取りもままならないまま、もう3年も部隊にいてくれているのだ。
「メイ様は優しいからね。でも本当に自分のことだけを考えて。確かにこの生活をより長く続けるのは大変かも知れない。でもそれで元の世界に戻れるか変わってきてしまうんだよ」
「それはそうなんだけど……」
アーノルドの言っていることは正しいのだが、モヤモヤしてしまう。まるで私の居場所はここではないと言われているみたいで寂しい。私はアーノルドさえ居ればそこが私の居場所になるのに。彼がこの世界にいて欲しいと一言言ってくれれば、私は迷いなくこの世界に留まることを選ぶのに。
……でもこの想いもこの旅が終わったら、封印しなければならないのかも知れない。彼が誰かのモノになってしまえば、私と彼の接点など簡単になくなってしまうということに今気づいた。今まで彼が隣にいて守ってくれることが当たり前過ぎたのだ。
「……メイ様は元の世界に大切な人は居ないのかい?」
「大切な人なら居るけど、その人は私の考えを尊重してくれるわ。それに私は親が居ない孤児なの。だから家族はその大切な人くらいだから問題ないわ」
「……そうなんだ。でもこの生活が長く続くとメイもなかなか結婚出来ないよね。やっぱり向こうで落ち着いた生活した方が良いと思う。もう大きな場所の浄化はほとんど終えているし、残りの箇所は浄化しなくても、俺たちが魔物を倒し続ければなんとかなる」
そうアーノルドに言われてしまい、私は何も言うことが出来ない。
「……もし、もし私がこの世界に残るって選択をしたらアーノルドは私に着いてきてくれる?」
「はい、俺は聖女様の騎士なのでメイ様に一生ついて行きますよ。結婚もしばらくは考えていませんので安心して下さい」
彼はそうハッキリと告げてくれたのだが、私は嬉しくなかった。やっぱり彼は私のことを聖女としか見てくれていないのだ。泣きそうになってしまうのを必死に抑えて、おやすみを告げてテントに戻った。
私はこっちの世界に居たい、人の役に立ちたいという気持ちが強いが、もし私がこの世界に留まったらアーノルドは宣言通り一生私の側に居てくれるだろう。でもそれではアーノルドの幸せを邪魔してしまうのではないか。彼は私がいる限り、自分のことより私のこと……聖女のことを最優先に考えて動いていくに違いない。
次の日に浄化を終え、翌日の移動後は自由をもらえたのだが、私は一人部屋に籠り今後について考える。この世界に留まる決断をするか、距離を置いて元の世界に戻れるようにするか、何度も悩んだが結局結論を出すことは出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます