第37話 迷子捜索 ―前編―

 ヒカリが魔法で小石を動かせるようになった時、エドのスマートフォンが鳴った。


「ん? メール?」


 エドはスマートフォンを取り出して確認すると、急に険しい表情を見せた。


「仕事だ! すぐ行くぞ!」


 エドはそう言ってほうきにまたがった。


「えっ! うん!」


 ヒカリは慌ててほうきを取り出しまたがる。そして、ヒカリはエドと一緒に会社へ向かった。




 会社に入るとROSEの皆がローブ姿で集まっていた。マリーはヒカリとエドが来たことに気づくと、椅子から立ち上がった。


「さて、全員揃ったので緊急案件の説明を始める! 対応できる人は対応してくれ! 何があったかと言うと、近くの森の中で小学生が一人迷子になったそうだ! 日が暮れる前に見つけださないと大変なことになる! その子の写真と情報は、メールで送ってあるから確認してくれ! 以上だ、必ず見つけ出せ!」


 マリーが真剣な表情で説明を行うと、ROSEの皆は慌ただしく会社を出ていった。


「俺は行くけど、ヒカリはどうする?」


 エドはヒカリに問いかけた。


「私も行く!」


 ヒカリは真剣な表情で言う。


「わかった! それならついてこい!」


 エドはそう言うと急いで走り出す。ヒカリもエドを追いかけるようにして会社を後にした。ヒカリはエドの後を追いながらほうきで飛んでいく。




 しばらくすると、エドは何かを見つけたようだ。


「いったん、そこに降りるぞ!」

「うん!」


 ヒカリとエドは地上に向かって降下していく。すると、降りていく地上にはたくさんの人が集まっていた。おそらく彼らは迷子の捜索隊なのだろう。地上に降りるとすごく騒がしかった。


「ちょっと情報を集めてくる。ヒカリはここで待ってな」

「わかった」


 エドは捜索隊のところへ走っていった。


 その後、大声が聞こえてきたので、ヒカリは声のする方を見た。どうやら、一般人らしき二人と捜索隊がもめているようだ。


「娘を助けに行くんだよ! 邪魔するな!」

「助けに行かせてください!」


 一般人の二人は迷子の両親のようだ。


「ダメですよ! あなたたちまで遭難してしまうかもしれません!」


 捜索隊は必死に迷子の両親を止めていた。


「自分の命なんてどうでもいい! 娘さえ、娘さえ無事ならそれでいいんだ!」


 迷子の両親は死に物狂いで捜索隊を払いのけ、森に入ろうとしていた。


 ヒカリは心が震えた。本気で自分の子供を助けたいという親の気持ちに、胸を打たれたのはもちろんだが、こんなにも大切に思ってくれる両親と子供が会えなくなってしまうというのは、どうしても受け入れられなかったからだ。自分のように辛い人生を送って欲しくない。だからこそ、絶対に迷子を見つけだしてやると、ヒカリは強く決意した。


「……絶対に見つけてみせる」


 ヒカリは全身力んだ状態で、熱い気持ちが声になり漏れてしまう。すると、エドが戻ってきたようだ。


「向こうの崖の方で急にいなくなったらしい! 崖から落ちてるかもしんねえ! これは早く見つけなきゃやばいかも!」


 エドは焦りながらそう言った。


「行こう!」


 ヒカリは力強く言った。すぐにエドとヒカリはほうきに乗り出発した。ヒカリはとにかく崖の方に向かおうと思い、全力でほうきを飛ばす。そして、崖がある地点にたどり着いたヒカリは焦った。なぜなら、この山には崖がたくさんあったからだ。さらに、生い茂る木々で木の下の様子までは見渡せないこともあり、どこの崖を探せばいいのかも見当がつかなかった。


「くそ! どうすれば!」


 ヒカリはいら立ってしまう。その時、風が話しかけてきたのが分かった。前方の少し左側の崖から森に入るといいということだった。ヒカリは風の声を信じて勢いよくほうきを飛ばす。


 崖のギリギリを風の道に沿って飛ぶと、崖下の森に着いた。新たに風が教えてくれた方に進路を変え、木々が生い茂る森の中に突っ込む。木々がほうきで飛ぶための風の道を許してくれたので、さらに加速して森を駆け抜けた。


 すると、木々がまた新たな情報を教えてくれた。近くに迷子がいるということだった。そして、その場所も教えてもらえたので、とにかく急いだ。


 ヒカリは自然が教えてくれた場所に到着すると、岩陰に倒れている迷子を発見した。迷子は、短めの黒髪に髪留めを一つ付けていて、水色のパーカーに青色のショートパンツを着ていた。マリーから送られてきた写真と同じ女の子だとわかり、すぐさま駆け寄った。


「大丈夫?」


 ヒカリは迷子の女の子に声をかけた。


「…………う。……うわー! 来ないで! 来ないで!」


 迷子は目を覚ましたが慌てておびえだした。


「えっ。大丈夫だよ。助けに来たんだよ」


 ヒカリは優しく話しかけた。


「……本当に?」


 迷子はまだ少し疑った様子だった。


「そうだよ。お姉ちゃんが来たからもう安心だよ」


 ヒカリは優しい笑顔を見せて言う。


「……でも、足をくじいちゃって。歩けないの」


 迷子はどうやら右足をくじいてしまったようだ。ヒカリは迷子が安心した様子だったので近寄った。


「それなら大丈夫。お姉ちゃんが連れてってあげるから」


 ヒカリはそう言ってほうきを迷子に見せつけた。


「……もしかして、お姉ちゃん、魔法使いなの?」


 迷子はほうきを見せただけなのに、魔法使いであることを見抜いた。おそらく、魔法使いが好きなのだろう。


「まだ、見習いだけどね!」


 ヒカリは笑顔で言った。


「う、うわー! 来ないで!」


 迷子はヒカリの後ろを見て、再びおびえだした。


「えっ! なに?」


 ヒカリは慌てて後ろを振り返った。すると、そこには思わぬ人物が立っていた。






 一方その頃、エドはある人物と対峙していた。


「まさか、魔女見習いに置いていかれるとは思わなかったけど、それ以上に驚いたのは、お前がまた立ちはだかってきたことだ。……アレン。」


 エドはヒカリがあまりにも速く飛んでいたので、なかなか追いつけなかった。そして、だんだん離されていた時に、突然アレンが目の前に立ちはだかってきたのだ。


「前回は負けてしまったが、今回は負けない!」


 アレンは言い終わると、すぐに攻撃を仕掛けてきた。アレンの体術による攻撃を、エドは必死にかわす。


「ふざけんな! こっちは今忙しいんだよ!」


 エドは怒りながら言う。


「言い訳は聞かん!」


 アレンは攻め立てながら言った。


「くそ!」


 エドは攻撃してくるアレンのおかげで、身動きが取れなくなってしまった。






 ベルと一緒に空から迷子を捜していたマリーは、迷子の写真を見てあることに気づいた。


「あー! 今、気づいたよ! この迷子の髪留めに付いている玉、魔女玉じゃない!」


 マリーは驚きながら言った。


「えっ! 魔女玉がなんでこんな子供に?」


 ベルは驚いた。


「わかんないけど。……まぁ、たまにいるんだよね。魔女玉を処分しないで死んでしまう魔女が」


 マリーは不機嫌そうに言った。


「なるほど。そうすると、知らずに受け継がれているのかもしれませんね」


 ベルは冷静な口調で言った。


「たぶんな。たしかに、見た目はキレイだからね……。……だから急ぐよ! 魔女玉を狙う輩がいるかもしれない!」


 マリーはそう言うと、少し加速して空からの迷子探索を再開した。






 迷子を見つけ出したヒカリは、自分の後ろに異変を感じ振り返った。


「誰!」


 ヒカリは焦りながら言った。


「久しぶりだな」


 ヒカリは驚いた。なんと後ろにいた人物はグリードだったのだ。


「なんであんたがこんなところに!」


 ヒカリは立ち上がり構える。


「それは、こちらのセリフだ。俺はお前じゃなく、その娘に用があるんだ」


 グリードは迷子を指差した。


「なんで?」


 ヒカリは問いかけた。


「なんでって。それはもちろん、魔女玉を持っているからに決まっているだろう」


 グリードは不気味な笑みを浮かべながら言った。


「えっ! 魔女玉?」


 ヒカリは迷子をよく見た。すると、迷子の髪留めに魔女玉が付いていることに気づいた。


「そっか。だからこの子、私が見えていたのね」


 ヒカリは迷子を見ながらつぶやいた。


「怖いよー!」


 迷子は泣きだした。


「私がこの子を守らなきゃ……」


 ヒカリは、相手がとてつもなく強いグリードだとわかってはいたが、迷子を助けるためには自分がやらなければならないと思い、身を挺して守り抜く覚悟を決めた。


「さぁ、渡してもらおうか!」


 グリードはそう言うと、ヒカリに襲い掛かってきた。ヒカリはすぐに迷子を抱えて、ほうきで飛び出した。しかし、ヒカリは子供とはいえ、人を抱えてほうきで飛ぶことが初めてだったからか、思ったように速く飛ぶことができなかった。そして、最終的にグリードに追いつかれてしまった。


 グリードはヒカリのすぐそばまで迫った時、魔法をかけようとしてきた。その瞬間、ヒカリは迷子を救いたい一心で、あることを願った。グリードを退けられる力が欲しいと。


 そして、ヒカリは突然目を大きく開き、グリードに向けて堂々と片手をかざした。


「はぁっ!」


 ヒカリは全力で魔力を込めた。すると、目の前に目が眩むほどの金色の光が放たれ、とてつもなく強い突風が発生した。


「な、金色の目……」


 グリードの驚いたような声が聞こえた後、グリードを突風で吹き飛ばし、ヒカリは迷子を抱えたまま深い崖の下に落下していった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る