第29話 水晶玉チャレンジ ―前編―
仕事について深く考えた日の数日後、ヒカリはエドと一緒に、霧島ヶ丘公園付近の山の中の河原にいた。
「さて、今日から魔女修行を本格的に再開する! 前回の魔女試験では、いろいろあったそうだけど、とにかく、魔法の力と技術がまだまだ未熟だから、格段に成長しなければならない! 次の魔女試験で泣いても笑っても最後だ! 一切手を抜かずにいくぞ!」
エドは腕を組みながら言った。
「うん!」
ヒカリは真剣な表情でうなずく。
「俺なりにいろいろ考えて、マリーとも相談した結果、物体移動系の魔法のみに絞って修行していく。はじめに、その辺の話をしていくと、そもそも魔法には、物体移動系・物質変化系・特殊系の三種類がある。物体移動系は、魔力で物を動かす魔法で、ほうきに乗って空を飛んだり、近くの物を触れずに動かしたりするもの。物質変化系は、魔力を使って、炎や水を出すなどそこに無かったものを生み出す魔法のことをいう。そして、最後に特殊系だが、これは幻をつくったりバリアをつくったりと様々なものがあって、身につけようと思っても身につけられるものではなく、本人の潜在的な能力の場合が多い。その中で物体移動系は、魔法の基礎とも言われるほど魔法使いにとって大切なものだから、マリーいわく魔女試験ではここができていれば合格できる可能性が高いらしい。だから、この物体移動系を確実に使いこなし、自信を持って最後の魔女試験に挑もう!」
エドはヒカリに説明した。
「うん! わかった!」
ヒカリは少し長いエドの説明だったが、しっかりと内容を理解できた。
「それじゃ、さっそく余裕で空を飛ぶ修行を始める!」
エドはそう言うと、サッカーボールほどの綺麗な青い水晶玉を取り出した。
「水晶玉?」
ヒカリは疑問に思いつぶやく。
「この辺一帯に、これと同じ水晶玉を十個設置してある。一番遠いところで、だいたい十キロメートル先だな。ほうきに乗って移動しながら、全ての水晶玉に触れてここに戻ってくること。ちなみに、十個の水晶玉は触れると、赤から青に変わるようになっている。そして、このスタート地点に置く水晶玉に触れれば、全部がまた赤に戻るから、何度でも挑戦できるわけだ」
エドはヒカリに説明した。
「なるほど。こんな森の中でも、スムーズに飛べるようにならないと駄目だってことだね」
ヒカリは水晶玉が置かれている森を見ながら言う。
「そう。……ただし! 制限時間は五分だ!」
エドは手で『五分』を表現するように開いて見せた。
「えっ! 五分以内? …………。十キロメートル先まで行って戻るだけでも、五分って……」
ヒカリは修行の難易度の高さに驚いた。
「そして、この修行のタイムリミットとしては、四ヶ月後と考えている。次の修行もあるし、それまでにクリアできないなら……。魔女試験を受けさせない」
エドは少し睨みつけるような様子で言った。ヒカリはこの修行の難易度の高さに驚いていたが、エドが用意する全ての修行を終わらせると決めていたので、改めて気持ちが高ぶってきた。
「……そのくらい、本気で――」
「――やるよ!」
エドの言葉に食い気味でヒカリは力強く答えた。
「この修行を乗り越えないと魔女になれないなら、絶対にクリアしてみせる!」
ヒカリは真剣な表情でそう言った。
「おう! 頑張れ! ほら!」
エドはヒカリにストップウォッチを渡した。ヒカリは受け取ったストップウォッチを見つめた。
「五分ってどんな世界なんだろう」
ヒカリはぼやいた。すると、エドはほうきを取り出した。
「まずは、俺がやってみせる。本当にできるのか見てみたいだろ? 時間計ってな」
エドはほうきにまたがる。
「用意…………ドン!」
エドはその合図とともに、猛スピードで森に向かって飛び出した。ヒカリは慌ててストップウォッチを開始する。すでにエドの姿は見えなくなっていた。
「うそ。こんなに速いの?」
ヒカリはあまりにもエドが速かったので驚いた。それから数分経った時、エドが猛スピードで戻ってきたので、ヒカリは慌ててストップウォッチを止めた。
「……四分二十二秒」
ヒカリはストップウォッチを見て驚いた。本当に五分以内にクリアできるものだと思い知らされる。
「結構、時間かかったな」
エドはさほど疲れた様子でもなかった。
「すごい。ほうきで飛ぶのに、こんなスピードがでるんだ」
ヒカリはストップウォッチを片手に持ちながらつぶやく。
「できることは証明した! あとは頑張れ!」
エドは笑顔でそう言った。
「うん!」
ヒカリも笑顔で返す。
そして、ヒカリは余裕で空を飛ぶ修行を開始した。ヒカリはさっそくほうきで森の中に飛び込んだ。
「うわぁー!」
ヒカリは木にぶつかり地面に落ちてしまう。
「いててて。……少し擦りむいちゃった」
ヒカリは膝を少し擦りむいたが、すぐに立ち上がった。
「だめだ。そもそも、こんな狭い森の中で練習するのも私には早い。もっと広いところで余裕で飛べるようになってからにしよう」
ヒカリはそう言って森の中での練習をやめ、広い河原に戻った。
ヒカリは気を取り直して、ほうきにまたがる。
「はっ!」
ヒカリは魔法を発動させると、ほうきにしがみついた状態で宙にフラフラと浮いた。だが、どう見ても不格好なこの状態は、まだまだ修行が必要だと嫌でも感じさせられる。
「あら。そんなに力まなくてもいいのよ」
少し離れたところからマリーがヒカリに声をかけた。
「マリーさん! うわぁ!」
ヒカリは集中が途切れて魔法が解け、地面に落ちてしまった。
「いってー」
ヒカリが痛がっていると、マリーは傍まで歩いてきた。
「あなた、自転車乗ったことないの?」
マリーはヒカリに問いかける。
「えっ? 自転車? そりゃ、自転車に乗ったことなんて、腐るほどありますけど」
ヒカリは急に自転車の話をされたので、質問の意味が分からなかった。
「自転車乗ってる時に、そんなカチコチに力んでないでしょう? ほうきで飛ぶのも自転車に乗るのと同じよ。魔法使いはね、人間が自転車に乗るのを覚えるように、ほうきに乗ることを覚えていくの」
マリーは落ち着いた口調でそう言った。
「そうなんですね。…………やってみます!」
ヒカリは立ち上がりほうきにまたがる。
「自転車に乗るような感覚で……」
すると、ヒカリはほうきにまたがった状態のまま、宙に浮かび上がった。
「でき……うわぁ!」
できたと思ったのも束の間、すぐにバランスを崩し地面に落ちてしまう。
「痛い」
ヒカリは何度も地面に落ちてしまうので、いろいろなところが痛くなっていた。
「そうやって痛い思いもしながらできるようになっていくから、諦めないで頑張りなさい」
マリーはそう言うと去っていった。
「自転車か。たしかに、今まではほうき乗る時に、空中で安定させるだけの魔力コントロールばかり気にしてた」
ヒカリは立ち上がりほうきにまたがった。
「自転車なら、左右にしか倒れないから左右のバランス。ほうきでも、しっかりほうきを安定させれば、左右にしか倒れないから左右のバランス。……自転車なら、前に進むためにペダルに力を入れる。ほうきでも、前に進むためにほうきに魔力を与える。……ただ、ほうきの場合は、上下の移動もあるから、全方向への魔力コントロールが必要だ。……でも、自転車に乗るのと似てるかもな! ……よーし!」
ヒカリは頭の中を整理してから修行を再開した。
「うわぁー! いってー!」
それから、ヒカリは何度も失敗しながらも繰り返し修行を続けた。
そして、一か月後、ヒカリは人が走るのと同じくらいの速度で、自由自在に空を飛び回ることができるようになった。
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