第20話 魔女見習いは上の空 ―後編―
ヒカリはエドに何を質問するかを考え始めたが、パッと思い浮かぶものが無く黙ってしまった。
「めちゃくちゃ質問攻めじゃねえか!」
エドは戸惑ったような口調でそう言った。
「あれ!」
ヒカリはたこ焼き屋を指差す。
「たこ焼きを食べよう!」
ヒカリはエドへの質問ではなく、たこ焼きを食べることを提案した。
「……おう!」
エドはまた質問が来ると思っていたのか、少し安心した様子を見せた後、元気よくそう言った。
ヒカリとエドは浜田海水浴場の傍にあるたこ焼き屋に到着した。たこ焼き屋に近づくと、男性店員が元気よく声をかけてきた。店員はこの男性一人のようだ。
「たこ焼き二つください!」
ヒカリは元気よく注文をした。
「あいよ!」
たこ焼き屋の店員は元気よく返事をした。
「私、ここのたこ焼き大好きなの!」
ヒカリは笑顔でエドに向かって話す。
「うまいよな! 俺もたまに買いに来る!」
エドもここのたこ焼きが好きなようだ。
「そうだ! 今度寮でたこ焼きパーティーしようよ!」
ヒカリは少し興奮しながらエドに話す。
「それいいな! 魔女試験が終わったらやろう!」
エドがそう言うと、二人とも固まってしまった。なんとなくだが、『魔女試験』という言葉が禁句のような扱いになっているのだろう。
「はい、お待ち! つまようじは一本でいいかい?」
たこ焼き屋の店員は元気に笑顔でそう言った。
「二本で!」
ヒカリとエドは同時に言った。ヒカリはカップル扱いされたのがわかったので、お互い気まずくなるのを避けるために、つまようじの本数を人数分にした方がいいと瞬時に思ったからだ。きっとエドも同じ考えなのだろう。
「…………あいよ」
たこ焼き屋の店員は少しだけ悲しそうな表情でそう言いながら、注文したたこ焼き二つをエドに渡した。
たこ焼きを受け取った後、ヒカリとエドは浜田海水浴場の海が見えるベンチに座った。ヒカリは自分の分のたこ焼き一パックをエドから受け取り、膝の上に置いて蓋を開ける。すると、たこ焼きの美味しそうな香りが漂ってきて、すぐさま、つまようじの刺さっていたたこ焼きを口の中に放り込んだ。
「おいしい!」
ヒカリは久しぶりに食べるたこ焼きの味に感動した。
「うんまい!」
エドも感動しているようだ。お互いたこ焼きにすごく感動したからか、次の瞬間にはハイタッチをしていた。
「やっぱり、ここのたこ焼きは最高だわー!」
ヒカリはもう一つたこ焼きを口に放り込みながらそう言った。
「わかる! わかる!」
エドもたこ焼きを食べながら興奮した様子で言う。ヒカリはたこ焼きを食べている自分と、隣にいてくれるエドについて改めて考えた。本当は仕事をしていたはずなのに違うことをしている。なんとなくだけど、ズルをしているような気もしてしまう。ただ、少しの時間でも魔女試験以外のことを考えるというのは、今の自分にとってすごく大事なことだと思う。たこ焼きもおいしいし、エドと話しながら散歩するのも楽しかった。ずっと長い間たくさん我慢してきたのだろう。
「…………エド。……ありがとう」
ヒカリはエドに伝わって欲しい気持ちが込み上げてきた。
「ん?」
エドはたこ焼きを食べながらヒカリの方を向いてそう言う。
「エドのおかげで、魔女試験でいっぱいになってた頭の中が落ち着いたみたい。……だから、本当にありがとう」
ヒカリは少しだけ頭を下げてそう言った。
「本当か! それならよかった! ……ヒカリならきっと魔女になれるよ。俺はそう信じてるからさ」
エドは笑顔を見せた後、優しい表情を浮かべながらそう言った。
「エド……。……ありがとう」
ヒカリはエドの温かい気持ちがとても嬉しかった。それから、しばらくしてヒカリとエドは寮に戻っていった。
ヒカリとエドが寮に戻ると空からリンとシホが降りてきた。
「お! そっちも帰ってきたか!」
エドはリンとシホを見ながら言う。
「ヒカリちゃん、少しは落ち着いた?」
シホは落ち着いた様子でそう言った。
「はい! シホさんはどうですか?」
ヒカリは元気よく返事した後、シホを心配しながら質問した。
「私もだいぶ落ち着いたよ!」
シホは笑顔でそう言った。
「さてと、それじゃいきますか!」
エドとリンが口を揃えてそう言った瞬間、四人の中央から光が放たれたので、ヒカリはとっさに目を閉じた。
ヒカリがゆっくりと目を開けると、目の前には美味しそうな料理が並んでいるテーブルがあって、ROSEの社員が着席していた。よく見るとここは寮の食堂のようだ。
「ようやく、主賓登場ね! さぁ、始めるよ! シホとヒカリの壮行会を!」
マリーがそう言うと他の社員は盛り上がっていた。
「え。なにこれ」
ヒカリはまだよくわかっていなかった。
「ふふ。ヒカリちゃん、皆が私たちのために壮行会を開いてくれたんだよ!」
シホはヒカリの顔を見ながら笑顔でそう言った。ヒカリはやっと理解できて嬉しい気持ちが溢れてくる。
「せーの……皆さん! ありがとうございます!」
シホはヒカリに合図を出しながら、シホとヒカリの二人でROSEの皆に向かって、大きな声で感謝の気持ちを伝えた。
「当たり前だろ! 壮行会くらいさせてくれよ! 輝いてるぞ二人とも! 頑張れよー! ずっと皆で応援してるからなー!」
ROSEの皆がヒカリとシホに応援の言葉を投げかける。止まない応援の言葉にだんだんと胸が熱くなってくる。こんなにも応援してもらえることが嬉しくて、涙が出てくる。
「んぐっ。ん。ん」
ヒカリはぐっと涙をこらえた。それは、皆の応援に対して、笑顔で元気よく応えた方がいいのかもしれないと、隣で涙をこらえているシホの様子を見て思ったからだ。
やはり、シホは強い人だ。体が震えるほど涙をこらえているのが見ていてわかる。先輩だから泣きじゃくっている姿を見せたくないのか、人前で涙を流さないかっこいい自分でいたいからなのか、本当の理由はわからない。だけど、きっとROSEの皆が安心できるような、強い人間であることを見せたいのだろう。だからこそ、こんなにも我慢しているはずだ。魔女見習いの先輩を見習って、自分もここは笑顔で応えよう。そんなことを考えていると、シホが一歩前に進んだ。
「うわぁーーん! みんなありがどおおおおーーーーー!」
シホが号泣しながら大声で言った。ヒカリはシホに対して、思わず心の中でツッコミを入れてしまった。でも、嬉しい感情を素直にさらけ出す人を見ていて、こんなにも気持ちがいいものだとは思わなかった。感動の涙はたとえ人前であろうと恥じるものではないと思った。だから、自分もシホと同じように素直になろう。ヒカリも一歩前に進みシホの横に並んだ。
「……ありがとう! 頑張るー!」
ヒカリも泣きながらそう言った。すると、目の前にベルが歩いてきた。
「お二方は未成年ですので、こちらをどうぞ」
ベルはそう言ってオレンジジュースを渡してきたので受け取る。
「それじゃ、皆グラス持ってるか? いくぞ! ……ROSE株式会社、魔女見習いシホとヒカリの二名が、魔女試験に合格することを祈念して、カンパーイ!」
マリーが大きな声でそう言うと、社員一同も大きな声で『カンパーイ!』と言った。それから、ヒカリとシホのための壮行会が盛大に行われた。
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