第5話 新しい仲間達

 マリーが指を鳴らした後、先ほど事務所で騒いでいた、赤髪の青年が会議室に入ってきた。


「マリー! なんだよ! こっちは忙しいんだよ!」

「あんたね、私は一応社長なの! 口の利き方がなってないね!」

「うっせーな! 俺はそれくらいフレンドリーな社風がいいんだよ!」


 赤髪の青年は会議室に入ってくるなり、マリーと言い合いを始めた。ヒカリは魔女玉を首に掛けながら席から立ち上がり、二人の様子を黙って見ていた。


「まぁ、いいわ。しっかりこの子の世話しなさいよ」


 マリーがヒカリを指差しながら言う。


「はっ? なんで俺が?」


 赤髪の青年は世話役の話が初耳だったのか、驚いた表情を見せた。


「この前の仕事の赤字分、あんたの給料で払ってもらっても構わないんだけど? どうする?」


 マリーは赤髪の青年に対して少し脅すように言った。


「ぐっ……。……わかったよ。やればいいんだろ」


 赤髪の青年は痛いところを突かれたのか一瞬で冷や汗を流し、顔を下げながら悩んでいるような表情を見せた後、マリーの要求に応じた。おそらく、赤髪の青年は仕事で大きな赤字を出してしまったのだろう。


「ふふ。決まりね。お互い挨拶しなさい」


 マリーはそう言って赤髪の青年とヒカリの間に立った。


「……はじめまして! 私は『ヒカリ』って言います! まだまだわからないことばっかりですが、よろしくお願いします!」


 ヒカリは赤髪の青年に挨拶をして深々と頭を下げた。少ししてからヒカリが頭を上げると、赤髪の青年と目が合う。すると、赤髪の青年は一瞬固まった後、すぐに目をそらした。


「……お、俺は、『エド』っていう……よ、よ、よろしく……」


 エドはなぜか言葉が詰まり気味だった。


「あれー? エド、どうしたのー? そんなに顔を赤くして」


 マリーはエドに対して、からかっているような口調で言った。


「な、なってねぇよ! バーカ!」


 エドはからかわれたことに怒ったのだろうか、マリーに言い返していた。言われたマリーは笑っていた。


「今日のところは、皆にヒカリを紹介してあげてちょうだい。ばら園の方はシホが引率するように言ってあるから」


 マリーはエドにそう言うと、ニヤッと笑みを浮かべていた。


「シホに頼んだのは、とってもとっても忙しいエド君を気遣ってあげたからですよー」


 またマリーはエドをからかっているような言い方をした。


「あ・り・が・と・う・ご・ざ・い・ま・す!」


 エドは歯を食いしばった感じでマリーにお礼を言う。その後、マリーは会議室を出ていった。


「えっと、マリーさんとエドさんは、いつもこんな感じなんですか?」


 ヒカリはエドに尋ねた。


「まぁ、そうだな」


 エドは少し疲れているような様子で答えた。


「……それと、『エド』でいいし。ため口で話してくれな。その方が気が楽だからさ」


 エドは少し落ち着いた口調でそう言った。ヒカリはエドがさっき言っていた『フレンドリーな社風がいい』という言葉を思い出し、エドは誰とでも垣根なく接していきたい人なのだろうと察した。なぜだか嬉しい気持ちが湧き上がってきているのは、エドがなんとなく怖い人じゃないとわかり少し安心したことと、自分を仲間扱いしてくれたことが原因なのかもしれない。


「わかった! よろしくね! エド!」


 ヒカリは笑顔で言った。


「おう!」


 エドも笑顔で返してくれた。


「じゃ、ROSEの社員を紹介していくか」


 エドはそう言いながら会議室の扉を開けた。ヒカリとエドが会議室を出ると、ドタバタと社員が集まってきた。


「へぇー、新入社員だったんだね! どちらから来たんですか? エドの彼女か? 彼女じゃねえよ! なんで顔赤くなってんだよ! うっせーな! お茶飲みます? 風になりたくないか? 俺はリン、顔良し、強さ良し、性格良しの最強イケメン魔法使いだ!」


 社員達がヒカリに勢いよく詰め寄りながら、一斉に話しかけた。ヒカリは急すぎて戸惑ってしまう。


「ちょっと待て待て! 俺が紹介する役目なんだよ!」


 エドはヒカリと集まってきた社員との間に割り込み言い聞かせる。


「後輩ができて調子に乗ってるな」


 集まってきた社員全員が口を揃えてエドに言った。


「なんでそこは息ピッタリなんだよ!」


 エドは怒りをこらえているような仕草で言う。


「じゃ、一人ずつ簡単に紹介していくか。まずは……一番人数の多い任務実行員から」


 エドがヒカリに社員紹介を始めた。


「任務実行員?」


 ヒカリは任務実行員という言葉を初めて聞いたので、気になりエドに問いかけた。


「あぁ、そっか。そこから話をしていかなきゃな。……まず、この会社には職種が三つある。一つ目は『受付員』で、相談所に来たお客から依頼内容を確認したりする仕事。二つ目は『事務員』で、依頼内容を詳しく確認したり費用を算出したりする仕事で、電話の窓口にもなっている。三つ目は『任務実行員』で、実際に依頼を遂行する仕事。そして、マリーが任務実行員への仕事の割り振りを決めている。そんなとこだ」


 ヒカリはうなずきながらエドの話を聞いた。


「それじゃ、任務実行員を紹介していく。……まずはケンタ! 見た目どおり食欲バカだ!」

「バカは余計だ!」


 ケンタはオレンジの髪をさっぱりと持ち上げたスタイルで、お世辞にも痩せているとは言えないくらい太っている、三十歳手前くらいの男の人だ。体つきからしても、たくさん食べる人なのだろう。


「次はライアン! ケンタと同い年でバイクバカだ!」

「バイクは好きか?」


 ライアンは少し青みがかった黒髪を、オールバックにしている男の人だ。室内にも関わらず、サングラスをしているのは、きっとポリシーなのだろうか。


「次にリン! せっかくの容姿がもったいないナルシスト野郎だ!」

「俺はリン、顔良し、強さ良し、性格良しの最強イケメン魔法使いだ!」


 リンは深緑色のイケメン風な髪型の二十歳くらいの男の人だ。たしかにナルシストな発言とポーズをしているので、そうなのかもしれない。


「そして最後に……俺も任務実行員だ」


 エドも自分を指差しそう述べた。


「次に受付員のシホ。去年入社したばかりだけど、めちゃくちゃ仕事ができる期待の社員。今のところ受付員は、シホ一人でこなしている」

「よろしくね!」


 シホはニッコリ笑いながらそう言った。


「次は事務員を紹介していく。……まずはマツダ。すっごく几帳面でめっちゃ仕事ができる。それとパソコンとか詳しいから、すごく頼りになるおっさんだ」

「困ったらいつでも声をかけてくださいね」


 マツダは黒縁メガネをしていて、灰色の髪と口髭が特徴的なおじさんだ。男性社員で唯一ループタイを首まで締めていて、アームカバーも装着しているところを見ると、きっと真面目な性格なのだろう。


「あと一人の事務員はベル。まだ十四歳くらいの子供だ」

「はぁー? 何言ってるんですか? 今年で十七歳になるんですよ! 学校には通っていませんが、高校生の年齢なので、もう大人みたいなもんです!」


 最初に事務所でエドと騒いでいた女の子は、ベルという名前らしい。身長がだいたい百四十センチメートルくらいの細身で小柄な可愛らしい女の子だ。


「これで社員は全員だ」


 エドがそう言うと、ヒカリは集まってきた社員に一歩近づく。


「あの……。私の名前は『ヒカリ』と言います! 魔女見習いとして今日からお世話になります! えっと……どうか、よろしくお願いします!」


 ヒカリは深々と頭を下げて挨拶をした。頭を上げると集まってきた社員達が、ヒカリに『よろしく』と返事をして自席に戻っていく。


「こんな奴らだけど悪いやつはいない。とりあえず、仕事しながら仲良くなっていけばいい」


 エドは落ち着いた表情でそう言うと、事務所の奥に座っているマリーの方を向いた。


「マリー! そういや、ヒカリは何の仕事をするんだ?」


 エドはマリーに問いかける。


「シホと一緒に受付の仕事かな……」


 その言葉を聞いたシホとヒカリは、お互い目を合わせる。


「よろしくね」


 シホは優しい笑顔を浮かべながらヒカリに言った。


「よろしくお願いします!」


 ヒカリはまた深々と頭を下げてシホに挨拶をする。


「じゃ、シホ! ばら園の方にヒカリの紹介よろしくな!」


 エドがシホに向かってそう言うと、シホはうなずいていた。

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