ブラック企業のギルドを追放された僕はホワイト企業の魔王軍に拾われ、勝ち組人生を歩むことになりました! 〜楽しい仲間がいる職場です。転職するなら魔王軍へ!〜
うんこ
第1話 さよなら。僕の居場所だったギルド。
人間と魔王との戦いは熾烈を極めていた。
人間である僕は『スピードメタル』というギルドに属し、日夜、魔王軍と戦っていた。
そんなある日のこと。
僕はスピードメタルのギルドホールに呼び出された。
「コウイチロウ、お前はクビだ」
「え……?」
僕の名はコウイチロウ。
しがない一介の戦士だ。
「そんな一方的にクビだなんて? 僕が何か悪いことでも?」
「お前の働きが悪すぎる」
僕は身を粉にしてギルドのために働いて来た。
低賃金で休日出勤当たり前。
ノルマはきつく、手に入れたアイテムは搾取される。
それでも頑張って来た。
身寄りのない僕を拾ってくれたギルドのため。
ふんと鼻を鳴らすギルドマスター。
その名は、アキラ。
彼の職業は勇者だ。
先代のギルマスである彼の父親が死に、彼が一年前からギルドを継いだ。
「もっと効率良く働け」
「なっ……」
なんてこった。
「僕はギルドのために働いているつもりです」
「ならば、もっとモンスターを効率良く狩れ!」
他のメンバーが頷く。
確かに。
僕は他のメンバーに比べて、仕事が遅い。
仕事とは戦士である僕にとってモンスターを狩ることだ。
「だけど、僕は誰よりも残業して頑張っています!」
「その残業が無駄なのだ。お前がスライムを一匹狩る間に、他のメンバーは5匹は狩っているぞ。お前の無駄な作業時間に払う残業代は無い!」
うう……。
自分でも分かっている。
僕は戦士のくせして強くない。
それは僕がまだ成長途上だからだ。
だが、それは格好悪い言い訳に過ぎない。
「コウイチロウ。ギルマスはちゃんと仕事をすれば残業代を払うと言っているのよ」
女で妖術師のジュアンがそう言った。
このギルドに属する冒険者は50人。
中小ギルドに分類される。
だから更に上を目指すために、キャパシティオーバーのクエストを引き受けたり、荒しと他のギルドから揶揄されるほど狩り場を占有している。
まさに野心溢れるギルドだった。
そのため人使いが荒い面を持つ。
冒険者の離職率が高く、自分から辞めて行く者も多い。
残った者はギルドの方針に従える……つまりブラックな体質に付き合える者だけだ。
「お前の効率悪い狩りが、サービス残業だと認めるなら、好きなだけ効率悪くモンスターと戦えばいい」
「サービス残業ということは……」
「お前の残業に払う金は無い」
僕はふらついた。
アキラはダメ押しにこう言って来た。
「他のメンバーもお前は役に立たないと言っている」
「そんなことはありません! 誰がそんなことを言ったんですか!?」
「それは言えないな」
「は……?」
僕はホールにいるメンバーを見渡した。
ざっと30人はいる。
皆、武器や防具の手入れをしながら僕のことを横目に見ている。
何だか馬鹿にした様な目つきだ。
ここにいない20人は狩にでも行っているのだろう。
「コウイチロウ。お前は先日の『悪魔の塔』の10階でのボス討伐戦。そこでも壁役をまともに出来ず、パーティを危機に追いやったではないか」
「あれはっ……探索隊の報告と異なる場所からボスが突然現れて……それで慌ててしまって」
「黙れ、言い訳は聞きたくない!」
アキラは凄んだ。
さすが、ギルドを束ねるギルマスはここぞという時、怖い。
「兎に角、お前はクビだ」
「……そんなぁ」
確かにブラックなギルドだ。
だけど、僕なりにここが僕の居場所だと思っている。
拾ってくれた恩もある。
思い出だってあるし、仲間だと思うメンバーだっている。
何より、また一人に戻るなんて嫌だ。
「おっと。退職金は出ないからな。うちにそんな余裕が無いことは分かっているだろう」
もう駄目だ。
この人には付いて行けない。
僕はギルドホールを後にした。
つづく
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