第34話 クリスは部下の悲惨な様子に記憶を取り戻して攻撃に転じました
応接室に場所を移して、クリスとモニカはこれまでのことを説明した。
逆にオーウェンらはクリスが誰かということについて説明した。
「しかし、私がミハイル侯爵家の令嬢だなんてとても信じられません。ミハイル侯爵家はそもそも、シャラザール帝国の唯一残った侯爵家ではないですか」
「えっ、そうなの。そんなにすごいの?」
その侯爵家の次の跡取りのウィルが聞いた。
「はい。基本的に、シャラザール様が特別扱いされた家だと言われております。初代当主の夫人がシャラザール様の隠し子だという説もあるくらいです」
クリスは自分の記憶を参照した。そう言う余計なところは全てクリスの頭に入っていた。
「えっ、初代の夫人ってあの二階の廊下に飾られているあの絵だよね」
「すいません。そこは私は覚えていないんですが」
「えっ、そう言うところは覚えていないの?家の情報とかめちゃくちゃ詳しいのに。ほかの侯爵家はどうなったのさ」
「独立してシャラザール3国の国王になられたと」
ウィルの質問にクリスは応える。
「えっ、という事は下手したら私とオーウェンとかと同格ということ」
ウィルが聞く。
「まあ、元を正せばそうなりますね。だから私がその娘などということはありえないですから」
クリスは到底自分がそんな身分が高いものだとは思ってもいなかった。
「何を言うんだ。クリス。そこまで高貴な身分だから君は私の婚約者なんだろう」
「ちょっと待て。オーウェン。勝手に作るな」
「そうですよ」
「どさくさに紛れて既成事実を変えるなんて最低です」
オーウェンの言葉は周りから総スカンを食う。
「えっ、後はクリスさえ頷いてくれたらそれで決まりじゃんか。そもそも、家格が釣り合うならば問題ないよね」
「家格的にはおそらく釣り合うとは思いますが。そもそも、ミハイル家はマーマレード王家とは婚姻を繰り返していますし、テレーゼ王家ともドラフォード王家とも遡れば婚姻しています」
「だろ、だからクリス、問題なく、私と婚約して欲しい」
クリスの言葉に覆いかぶせるようにオーウェンが言う。
「オーウェン様。問題を複雑にしないで下さい。今はいかに早く、クリス様に記憶を取り戻してもらうかです」
「そうだよ。余計なことを言うな」
「本当にどうしようもないんだから」
周りから叩かれてオーウェンは少し凹むが、家格的に問題ないなら、後は押しの一手だと今後のことに思いを寄せた。
「でも、記憶はお戻りになられないんですよね。私が誰かも判りませんよね」
メイが聞く。
「そうなんです。どこかでお会いしたことはあるような気がするんですけど………」
「じゃあ俺は」
「あなたはドラフォード王国皇太子殿下であるということはお伺いしました」
「えっ、婚約者なのに」
「だから言っているだろう。オーウェン勝手に姉さまと婚約するな」
ウィルが言う。
「事実なのに」
「事実ではない」
その言い合う二人の前に、いきなりアメリアのアップ画面が映る。
「おっ、つながったか」
その横には下卑た顔の魔導師がいた。
上から吊り下げられたアメリアは体中ボロボロだった。
拷問にでもかけられたかのようだった。
「ごめんクリス。助けて。このままだとヘルマンが死んでしまうの」
アメリアが必死に叫んでいた。アメリアも傷だらけだったが、そのアメリアの足元には血だらけのヘルマンが倒れていた。
「あはははは。貴様がシャラザールなどという物の怪の化身のクリスか。私はホワイテア アッチラ侵攻軍の司令官クスミン様だ。貴様らのネズミを捕まえた。こやつらの命が惜しければ一人でここまできてみろ」
アメリアの前に意地の悪そうな軍人が言った。
「へ、ヘルマン様」
クリスの目は血だらけで倒れているヘルマンを捉えた。
頭がくらっとする。
「クリス」
倒れそうになったクリスをオーウエンが支える。
「あっはっはっはっ。どうした怖気づいたか。最もこの男はそれまでもたないかもしれんがな」
クスミンがヘルマンを蹴り上げた。
しかし、ヘルマンはもう反応もしなかった。
「止めなさい。やるなら私にやりなさいよ」
アメリアが叫ぶ。
「ふん、なら、今から貴様を犯してやるよ」
下卑た笑いでクスミンはアメリアの衣装に手をかけようとした。
クリスの脳裏に今までの記憶がフラッシュバックして戻ってきた。
今までなくしていた記憶の全てが。
「おのれ、下郎。良くも我が国の人間を傷つけたな。許せん」
クリスはきっとして空を見た。
やばい。いつもの手が出る。
オーウェンを除いて皆一斉に伏せた。
しかし、クリスは攻撃すること無く一瞬で転移した。
「えっ、クリス」
オーウェンは呆然とした。
「うそ、姉さま」
ウィルらも立ち尽くしていた。
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