第18話 クリスは記憶を失っていました

少女ははっと目を覚ました。

目の前にはベッドの天蓋が見えた。


「気がついた?」

側に座っていた少女が聞いてきた。


「助けてくれてありがとう。あなたのお名前は」

そう傍らの少女から言われて少女は名前を覚えていないことに気付いた。


「えっと」


「あっ、ごめんね。私はこのドグリブ王国の王女モニカよ」

「あっ王女様なのですね」

少女は驚いて言った。


「モニカって呼んで」

「モニカ様」

「様はつけなくても良いわ」

「そんな滅相もない」

少女は慌てた。


「で、あなたのお名前は」

「ごめんなさい。その記憶が定かでなくて」

少女は困ったように言った。


「えっ、記憶が定かでないって?」

「よく判らないの」

モニカの問に少女は困ったように言った。


「どこまで覚えているの?」

「それが、何も思い出せなくて」

「えっ、どうしてここにいるかも?」

モニカの声に少女は頷いた。


「そうなの。私はホワイテア帝国軍に捕まって、殺されそうになった時に、戦神シャラザールが現れて救ってくれたの」

「戦神シャラザール様が」

少女は驚いて言った。

「シャラザールの名前は判るんだ」

「だってシャラザール帝国を作られた戦神でしょう」

「そうよ。それにこのドグリブ王国の始祖の母上であられるの」

モニカは誇ろしそうに言った。


「えっ、そうなんですか」

「そうなの。それで戦神シャラザール様がホワイテアの大軍を爆裂魔法でやっつけてくれて終わった跡にあなたが残って倒れていたって訳。だからあなたがシャラザール様ではないかって話なんだけど」

モニカは聞いてきた。


「まさかそのような。恐れ多いことですわ」

少女が否定した。


「えっ、でも、シャラザール様が敵をやっつけてくれた後にあなたが残っていたのよ。どう考えてもシャラザール様はあなただと思うんだけど」

「でも、それはありえませんわ」

「でも、じゃああなたはだあれ?」

そう言われると少女は答えようもなかった。


「殿下。こちらの方も気付かれて、混乱していらっしゃるのでしょう。取り敢えず、お休み頂いたほうが宜しいのでは」

横にいた白衣の老人が言った。


「そ、そうね。ごめんなさいね。取り敢えず、ゆっくりと休んでちょうだい。侍女が控えているから何かあれば何でも頼んで。何しろあなたは救国の英雄なのだから」

「まあ、取り敢えず、ゆつくりとお休み下さい」

王女と医者らしき者は出て行った。


少女は自分の事を思い出そうとしたが、よく判らなかった。

自分が戦神シャラザールなんてあり得なかった。というか、伝説の戦神が今の世の中に現れて助けてくれるなんてあり得るんだろうか。少女にはその事自体信じられなかった。

そうこう考えているうちに、少女は疲れていたのか眠ってしまった。


「どう思う。ホルヘ」

モニカは一緒に出て来た医者に聞いた。

「どうと言われても。少なくとも、かの方はご自身をシャラザールだとは全く思っていられないように思いましたが」

「でも、爆炎が収まった跡には私の横に彼女が横たわっていたのよね。私が見る限りはホワイテア軍には彼女のような金髪青眼の少女はいなかったわ。そもそもそこはシャラザールと同じよ」

「私は遠くからしか見ておりませんが、戦神シャラザール様とは雰囲気が全然違われるように思ったのですが」

「それはそうだけど、じゃあ彼女は何なの。全く関係のない少女が現れるのはどう考えてもおかしいでしょう」

「それは確かにそうですが」

「彼女は絶対にシャラザールの関係者には違いないのよね」

モニカは確信を持って言った。

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