第16話 大賢者は暴風王女と赤い死神、嫌がる女王国の皇太子を新大陸に送りました
テレーゼ王宮では残されたアメリアらが呆然としていた。
「行っちまったな」
ジャンヌも呆れて言った。
「言ってしまったって、ドグリブ王国までか。確か、新大陸の島国だろう」
アレクが呆れて言う。
「アッチラ島にある国よ」
「大海超えているんだけど」
「下手したら1万キロくらい離れていないか」
「男2人連れていたよな」
「そんなのできるのか」
「クリスなら出来るんじゃない」
アメリアの言葉に3人は顔を見合わせた。
ジャンヌは1人で500キロの転移が限界だった。アレクも600キロ位が限度だ。
海を超えるなんてあり得なかった。それも2人も連れて。
「1国のトップがやることじゃないわよ」
怒ってアメリアが言った。
「あまりにも軽々しすぎない」
アメリアにとっては信じられなかった。本来国のトップは一番が安全に行動することだった。先陣きって一人で転移していくなど信じられないことだった。
「まあ、クリスだからな」
ジャンヌが言う。
「クリスだからなって。あなたでもやらないことやっているのよ。ありえないわよ。本来あなたの所の教育が悪かったんじゃない」
「アメリア。それは母に言ってくれ。クリスは私が耐えられなかった王妃教育を優秀な成績で突破しているのだから」
「えっ、そんなのおばさまに言えるわけないじゃない。あなた私を殺す気」
ジャンヌの言葉にアメリアも嫌そうに言った。
「あまりに厳しすぎたので、今反動が来ているとか」
アレクが言った。
「確かに」
二人は頷く。
「それより、お三方とも、これからどうするんですか」
唖然と見ていたイザベラが聞いてきた。
「ほっておくわけにいかないだろう」
ジャンヌが言う。
「えっ、でも、野蛮な新大陸よ。どうするのよ」
アメリアが嫌そうに言った。アメリアには到底新大陸で自分が生きていけるとは思いもしなかった。
「そんなのほっておいたなんてシャラザールに知られたら殺されるぞ」
ジャンヌが言った。
「本当だ。すぐに向かおう」
ジャンヌの声に慌ててアレクが答えた。
「でも、どうやって行かれますか。スカイバードでも3000キロくらいしか一度に飛べませんよね」
イザベラの疑問はもっともだった。
途中で1回は経由地を作って行く必要があった。
「うーん、ジャルカに送らせよう」
「えっ、ジャルカ様にですか」
「あいつは確かクリスについで魔力量が多いと自慢していたし、この前ザール教国まで200人も転移させた。確か、今は第二陣でスカイバードの整備計画のために来ているはず」
「呼ばれましたか。姫様」
そこへ丁度ジャルカが入ってきた。
「ジャルカ良いところに。私達を直ちに新大陸に送ってくれ」
「クリス様が行かれましたか」
巨大な魔力の発動を感じてジャルカは来たのだった。
「途中でオロン島に寄られておりますな」
「さすがジャルカだ。すごいな」
ジャルカの声にジャンヌが感心して言った。
「しかし、即座にアツチラ島に転移されておりますな」
「オーウェンらも一緒か」
「いや、お一人で行かれたのかと。おそらくシャラザール様が行かれたのではないですか。その後巨大爆発がアッチラ島で観測さております」
「さすが、戦神シャラザール。やることが違う」
「じゃあ、もう現地はやることがないのですね。良かった行く必要はないですよね」
ジャンヌの言葉にアメリアが言う。
「何を言う。アメリア。ここは絶対に行く必要があるだろう」
「ジャンヌ、お前のは単に遊びに行きたいだけだろう」
ジャンヌがワクワクして言うのに、アレクが呆れていった。
「で、姫様は行かれたいと」
「当然だ。こんな機会でもないと新大陸なんて行けない」
「ジャンヌ遊びじゃないぞ」
ジャンヌにアレクが注意するが、
「別にお前は来なくていいが」
「はあああ、そんなわけに行かないだろう」
「では、お二人共宜しいですか」
二人にジャルカが聞く。
「えっ、もう行くのか」
「ちょっとジャルカ爺。準備というものが」
「では」
ジャンヌは杖を一閃した。
慌てた二人は一瞬で消えた。
「行ってらっしゃい」
二人を笑顔でアメリアは見送った。
「これはこれはアメリア様も何を他人事のように」
ジャルカが人の悪そうな笑顔で言った。
「えっ、だってあの二人が行けば問題はないでしょう」
アメリアは当然のように言った。
「まだまだお甘いですな。私テレーゼ姫様からは子共達の教育をしっかりとお願いされております」
いきなりジャルカが言い出したことがよく判らなくてアメリアはジャルカを見詰めた。
「テレーゼ姫様って、まさか、初代女王陛下・・・・」
「そう、余の子供たちが考え違いをしている時にはその考えを身を以て思い知らせて欲しいと」
ジャルカはニヤリと笑った。
「テレーゼ姫様もシャラザール様に似て、困っている者共がいれば身を挺してその者達のお役に立とうと率先されて行動されておりました。新大陸での蛮行を知れば何をおいてもそれを止めるべく先陣を切って行かれたかと」
「えっ、ジャルカ何を言っているの」
アメリアはよく判っていなかった。
「ヘルマン様」
ジャルカはアメリアの後ろについていたヘルマンを見た。
「はい」
ヘルマンが立ち上がった。
「王配になりたければその身を呈して皇太子殿下をお守りせよ」
「えっ、意味がよくわかんないんですど」
ヘルマンが言った。
「ふんっ、往生際が悪い。シャラザー様が一番嫌われる事ですぞ」
ジャルカは白い目でヘルマンを見た。
「えっ、いや、それは確かにアメリアの身は守りますけど」
「えっ、私にはレオがいるから十分よ」
「いや、そんな」
アメリアの声にヘルマンはショックを受ける。
「ヘルマン。男であろう。しゃきっとせい」
「はいっ」
ヘルマンは直立不動の姿勢を取った。
「えっ、ちょっとジャルカ様、よくわかんないんですけど」
アメリアは慌てて立ち上がった。
「アメリア様。未来の女王となるために現地の状況を身をもって体験なされませ」
ジャルカは杖を一閃させた。
「ちょっとジャルカ」
「えっ、いきなり」
慌てふためく二人の声を残して二人は一瞬にして消えた。
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