第9話「パパとお祖父ちゃんは私が護る… ③家族三人命がけの共闘、そして結末は…?」
『ママ、パパがGOサインを送ってきたわ…
『分かったわ。頑張るのよ、ニケ!』
母娘の短いやり取りの後、ニケは左翼の後ろに位置を取った。ニケの焼き切ったエンジンの付いていた基部が見えている。ニケはその基部に両手をかけて、ジェット機にぶら下がるような態勢で取りついた。そのまま、ジェット機の左翼を押す態勢でニケ自身が飛行する推進力を調節し、右のエンジンの飛ぶ推力とパワーを合わせるようにした。
これが竜太郎がアテナを通じてニケに命じた作戦だった。つまり、失った左翼エンジンの代わりをニケにさせるのである。ニケがジェット機の左翼の推進力となった。これで、バランスの崩れによって生じた機の傾きを修正し、着陸予定だった成田空港に向かわせようというのだ。竜太郎の自分の娘を使った無茶苦茶な作戦だった。だが、この方法しか乗員乗客全てが助かる道は無かった。
操縦席では副操縦士の
「機長! 一体どうなってるんでしょう! 左翼の推力が戻りました! それどころか、機長が
まさしく、
「機長が何かされたんですか⁉」
「
「そうでした… 私は機長に命を預けたんでした。もう何も聞きません… でも… いつか、きっと聞かせてくれますよね?」
「ああ、もちろんだとも。その時のために君も私も必ず生き延びるんだ!」
「
竜太郎は
『いい部下を持ったわね… あなた…』
遠い地でこの感動的な男達の姿を念で見ていたアテナの目に涙が光った。
一方、ニケはジェット機の左翼を失ったエンジンの代わりに押しながら飛び続けていた。
「ああ… お
驚いたことにニケは疲れも見せずに、ただ空腹を感じているだけのようだった。なんという少女だろうか。
「機長、成田空港が見えてきました。なんとか燃料もギリギリですが持ちましたね!」
「ああ… そうだな。とにかく、成田の管制塔へ当機の状況と緊急着陸への要請を連絡しよう。」
「わかりました!」
ニケは自分が
ニケからの念波を受けたアテナは、竜太郎に思念を送り状況を伝えた。これを受けた竜太郎は驚き、
「
命じられた
「機長、大変です! 左の
「何だって! もう一度やって見るんだ!」
「ダメです… 何度やっても開きません… どうやらエンジンの脱落時の影響でトラブルが生じたようです。」
「何てことだ… 空港が目の前だと言うのに着陸出来ないのか…」
竜太郎が、この男にしては珍しく弱音を上げた。今までの緊張の糸が切れてしまったかのようだ。だが、絶望の眼差しを自分に向けている副操縦士の
『ここで俺が絶望してどうするんだ… 俺はこの機を、乗員乗客全員を生きたまま成田空港に下ろすんだ。』
竜太郎はアテナに対して強く思念を送った。
『アテナ… よく聞いてくれ。ニケの報告のあった箇所にはこの機の
『そんな… ここまで来たのに… どうすればいいの、あなた…?』
『ニケに頼んでみてくれ、あの娘なら
『分かったわ… ニケに伝える。』
アテナはニケに心に精神の集中を合わせた。
『ニケ…よく聞いて。あなたが見つけた機体の黒ずみね、あれはジェット機の左後方
アテナの思念を受け取ったニケは一人頷きながら答えた。
『分かったわ、ママ。何とかやってみる。』
ニケは
『やったわ、ママ。扉を壊して開けた。』
『よくやったわね、ニケ。お父さんに伝えるから待ってて。』
アテナは竜太郎に思念波で状況を伝える。アテナからの報告を感じ取った竜太郎が
「
「分かりました。無駄だとは思いますが…」
作業を行った
「やりました、機長。開閉扉は『閉』の表示が点灯したままですが
竜太郎の顔も喜びで輝く。だが…
「機長! やはりダメです。左の
『アテナに
再び目を閉じた竜太郎は妻アテナに対して思念を送った。
『アテナ…
『えっ… 何を言ってるの、あなた… ニケに…くみに左の
アテナは竜太郎の提案に耳を疑い、思念波で悲鳴を上げた。
『無茶を承知で言ってるんだ… 私もくみの父親なんだぞ、誰がこんな無茶苦茶な事を可愛い我が娘に頼めるものか… だが… 他に方法が無いんだ…』
『でも… それじゃあ… くみが…』
泣き
『すまん… アテナ… こうするしか乗員乗客全員の命を救う事が…』
竜太郎は歯を食いしばりながらアテナに思念を送っていた。彼の口からは血が
『ママ… パパ…』
ニケの…いや、二人の愛する娘くみの思念が割り込んできたのだ。
『二人の思念会話聞こえたわ… 私やる… 私なら大丈夫よ… だってニケは勝利の女神なのよ。それに、私に考えがあるの… それを試してみる。』
『くみ… いくらお前がニケでも死ぬかもしれないんだぞ…』
『分かってるよ…パパ… でも私しか…私にしか出来ない… そうでしょ…? パパもママも私を信じて! 私がみんなを
『ああ… くみ…』
『お願い、ママ…』
『アテナ… くみを…私達の娘を信じよう…』
『………』
『ねっ、ママ! お願い!』
『わかったわ… くみ… 私のくみ…』
『ありがとう、ママ…』
『パパ、どうすればいいの?』
『すまん… くみ。お前には機体左側の
『だから、私に考えがあるって言ったでしょ。
『ええ… それは、もちろん構わないけど…』
『じゃあ、私の合図で転送して、お願いよ!』
『分かったわ。』
『じゃあ、パパ。始めましょう!』
『ああ、分かった… くみ、頼む!』
こうして家族三人の思念による会話が終わった。これが三人での最後の会話となるかもしれなかった。三人は互いを信じて命がけの危険な賭けに
もう、西日に照らされた成田空港が目視で確認出来る距離まで来ていた。
思念会話を終えた竜太郎は、覚悟を固めて副操縦士の
「
竜太郎に向かって
「言ったでしょう、
「ありがとう、
二人はしっかりと互いの手を握った。
「機長、管制塔からの指示で本機の緊急着陸は成田空港B滑走路に行います。他機の離着陸は現在停止されています。空港側も万全の緊急体制で受け入れてくれるとの事です。」
「了解だ。では、始めよう! 着陸態勢を取る! 全て手動で行うぞ、
「ラジャー!
竜太郎はアテナに思念を送った。
『アテナ、始める! ニケに指示を!』
『ニケ、開始よ!』
『分かった、パパ、ママ!』
ニケは左翼を離れ、瞬時に左
ジェット機は着陸角度に機体を保った。このまま滑走路に突っ込んでいく。前部
『今よ、ママ! お願い!』
アテナは自分の武器であるイージスの
転送は一瞬で終わり、ニケの左の手にアテナの
「いっけええーっ!」
ニケは口にアイギスの
「ガガガガガガーッ!」
すさまじい衝撃がニケの脚を襲う。全身を衝撃が駆け巡り、機体を支える右腕に
「ぐわあああー! 負けるかあああああ!」
ニケの口から絶叫がほとばしった!
ニケはブレーキの代わりに口に咥えていたアイギスの
「ギギギギー! ガリガリガリーッ!」
すさまじい音と火花を散らして、地上で最強無敵の
滑走路上を何km走ったのだろう? やがてジェット機は停止した…
ニケは…? 乗員乗客全員の安否は…?
待機していた空港用化学消防車等の緊急車両が駆けつけてきた。ジェット機は左の
消化と共に乗員乗客の救助も開始されていた。機長である竜太郎と副操縦士の
後の報告によると全ての乗員乗客の中に怪我人は多数出たものの、死者は無く死につながるような重体の者もいなかった。稀代の大陰陽師である
しかし、この事件のヒロインであるニケこと
この時、夕暮れの空を見上げると成田空港上空を一つの銀色の物体が浮遊していたが、大混乱の滑走路上で気付いた者は誰もいなかった。
その物体とは、背中の銀色の翼をゆっくりと羽ばたかせ、空中で静止したまま自分の真下の空港を見下ろすニケの姿だった。
「ああ…どうしよう… セーラー服も靴もぼろぼろになっちゃった… ママ、怒らないかな…? 無傷なのは私自身の身体とママに借りた二つの武器だけね… それより、もうダメ… お腹ペコペコ… 今日の晩御飯何だろう…? パパ達より先に帰ろうっと!」
くみは銀色の翼を羽ばたかせて、自宅を目指して母アテナの元へ一気に飛んだ。まるで一本の銀色の矢が放たれたように、一直線に
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『次回予告』
父と祖父の乗るジェット旅客機を救出したニケ。
しかし、救出劇におけるニケの姿が撮影されてしまう。
再び姿を現した
次回ニケ 第10話「ニケ… 姿を撮影される」
にご期待下さい。
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