24.保健室

 途中でこの間のようにアリサや、サラと遭遇するのではないかとヒヤヒヤしたけれども、今回は運良くそんなことはなく。

 無事に保健室に辿り着いた。

 そのことにちょっとだけ、安心した。


「あら」


 柳生くんがドアをノックしようと手を上げたタイミングで、ガラッと音を立てて保健室の先生が出てきた。

 先生は大きな丸眼鏡に手を当てた後、にこりと微笑んだ。


「足、どうかしたのかしら?」

「えっと」

「捻ったみたいで」


 私の言葉を遮るように、柳生くんが答えてくれる。

 誰かと積極的に会話をする印象がなかったから驚いたけれども、おとなしく口を閉じることにした。

 あらまぁ、なんておっとりとした声とともに、中に入るよう手で促される。


「そこの椅子座って、机の上にある紙に、名前とクラスと要件を書いてちょうだい」

「あ、はい。えっと……」


 柳生くんに導かれるまま、椅子に座る。

 記入を終わらせた頃には、目の前にあるもう一つの椅子に先生が腰かけていた。

 先生は病院に行くようにという話と、注意事項とを話しつつてきぱきと治療すると、またニコリと私に微笑んでくれる。


「柳生くんと仲いいの?」

「え?」

「クラスメイトです」


 頭上から降ってきた言葉に、あらあらと先生が笑う。


「先生これから会議だからここ出ちゃうけど」

「俺、戸締りしときましょうか」

「じゃあ、お願いしようかしら。戸締りが終わったら職員室に持ってきてね」


 先生を見送る。

 ドアが閉まって、足音が遠ざかっていくのを聞きながら、私は口を開いた。


「柳生くんって、先生と仲いいんだ?」

「数秒前に聞いた単語だな」

「……確かに」


 小さく笑ってしまう。


「俺、去年も今年も保健委員だから」

「あれ、そうだっけ」

「そうだよ。一緒に組んでるやつが、大体俺と関わりたくないから目立った仕事やってくれるから忘れられがちだけどな」


 言いながら、柳生くんが向かいの椅子に座る。

 うつむいた表情が静かなもので、ああ、話してくれるのだと理解した。


「……小学生のころはまだ、俺は視えることを主張していたんだ」

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