7.夢

 目を、覚ます。


 自分が使うにはあまりにも小さな机。

 下がった視線。

 私服姿のクラスメイト。

 机の横には少しくたびれ始めたランドセル。


 私は今、小学生の頃の夢を見ているのだと、すぐに理解した。

 黒板に視線を移して、ひゅっと息を飲んだ。


 道徳の時間だった。

 いじめがテーマの授業。

 見ているだけの人も加害者です、いじめは絶対ダメです。

 そんな文字の中に紛れている、自殺の文字。

 緑色の黒板に、白いその二文字が浮いて見えた。


 先生が振り向く。


 教卓に手を添えて、責任感の強そうな視線で、教室中を見回す。


「もしも、死にたくなったら、助けを求めてください。先生でも、お母さんやお父さん、お友達でも構いません」


 しっかりとした声に、当時の幼かった私は、期待したのだ。

 そうだ、誰かに言えば、もしかしたら、ずっと心の中に居座っているこの灰色の感情を、どこかにやる方法がわかるのかもしれない、と。

 自分よりも長く生きている先生なら、きっとその方法を知っているだろうし、教えてくれるかもしれない、と。


 チャイムが鳴る。

 号令に合わせて挨拶。

 教室を出た先生を、私は追いかける。


 ああ、同じだ。

 同じことが、夢の中で繰り返されている。


 心臓がバクバクと勢いよく脈打つ。

 キリキリと痛む胃がやめておけと叫ぶのに、幼い私はそんなことを知らずに先生を呼び止める。

 先生が振り返る。

 表情がぼやけて見えて、次いでまわりの境界線がおぼろげになっていく。

 だんだんと意識が遠のいていく中で、高い声が響く。


「先生、私、私ね――」


 勢いよくまぶたを開く。

 暗い天井が視界に飛び込んでホッと息を吐き出した。

 そっと手を上げてその大きさが今の私と同じことを確認する。


 嫌な夢を、見た。

 追想のような、夢を。

 ざわざわと胸の底で灰色の感情がうごめき始める。

 まるで呼ばれたと勘違いしているかのように。


「誰も呼んでないよ、馬鹿」

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