2.灰色の感情
「おはよー」
「あ、未結! おはよう、ねえ聞いてよ」
「なに、どうしたの?」
「アリサがさ」
「ちょっと、サラが笑かすからでしょー?」
キャッキャと話す友人たちの輪に混ざる。
他愛のない会話が連想ゲームのように、そういえば、の言葉でどんどんつながって広がっていく。
ぽんぽんと跳ねるボールのようなそれが、楽しくないはずがない。
そのはず、なのに。
楽しい感情とは相容れないはずの灰色の感情が、カサカサと乾ききった音を立てて、心の奥底からじっとこちらを見上げている。
同じ言葉を吐き出し続けるそれに、ある程度は慣れてしまった。
だけどその感情を抱いていること自体に、罪悪感が静かに募っていく。
それを意識の外に追いやりながら、私は会話のラリーを続けた。
この時間が、この会話が、終わりませんように。
そう祈っても不可能な話で。
SHR前のチャイムの音に強制終了させられてしまう。
あーあ、残念。
そんな言葉を漏らしながらも、笑顔で手を振りあって各々の席に戻る。
席についてふっと視界に入ったのは、前のほうにいる柳生くんの姿だった。
机に突っ伏しているその背中からは、話しかけるのを躊躇するような、そんな圧があった。
誰かとの関わりを拒絶するようなそれは、私の知る限りだと始業式の日からそうだった。
あの人が、昨日、一クラスメイトが落ちるかもしれないからとわざわざ全速力で駆けてきた人だとは、誰も思うまい。
私だって、きっと信じない。
柳生くんはいつも一人でいる。
誰かに話しかけられてもいつも面倒くさそうにしているから、おそらく一人でいるのが楽な人なんだろう。
だとしたら、申し訳ないことをした。
大して親しくもないクラスメイトを、助けさせてしまったのだから。
ガラッと音を立ててドアが開く。
先生が入ってくると、柳生くんはかなりダルそうに起き上がった。
そのうしろ姿に、律儀だな、なんて心の中で呟いて小さく笑ってしまう。
起立、という号令に立ち上がりながら、きっともう二度と話すことはないんだろうな、とぼんやり考えていた。
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