メタミステリ

 そう、アリスはミステリ作家なのだ。しかも業界では”叙述トリックのアリス”なんて呼ばれるくらい、叙述トリックを使用した作品が多い。


「これを読んでる人たちの世界がうらやましいよ」

「ん、いきなり何を言い出すんだ?」

「いやだから、この物語を読んでる人たちの世界ではそんな訴訟は起こってないんだろうなって話さ」

「え、メタなの?」



 メタとは、主にミステリ小説で使われる技法の1つだ。


 例えば、”私はアリスを殺した”なんて文章がミステリ小説に出てきたら誰でも作中の主観視点の登場人物が殺人を犯したものだと思いこむけれど、”私”が作中の登場人物なんて書かれてないから、その著者が犯人でその自白を書き込んでいても通じるわけだ。このように、より上位の存在の視点を持ち出したりするのがメタで、それがミステリで使われると”メタミステリ”というわけだ。



「しかし、僕らが小説の世界に居るとは驚いたな。これ小説のネタにならないか?」

「ならない」

「え、これってかなり意外性があると思うんだけど」

「それは過去の話さ」


 そう、メタミステリにしろ叙述トリックにしろ、通常のトリックにしろ、基本的にそのアイディアは一度しか使えない。そのため世にミステリ小説が増えるにつれて、どんどんアイディアは減っていく。もし、考えうるトリックが有限であるならばいつかはアイディアがぶつかり、それが故意にせよ偶然にせよ”パクリ”呼ばわりされる。

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