アリスとボブ

戸画美角

叙述トリック

「ボブ、このニュースを見たかい」


 スマホを見ながらアリスが話しかけてきた。


「いや、このニュースってどのニュースだよ」


 ボブはアリスのスマホを覗きこんだ。


「なになに、叙述トリックが詐欺として訴訟?」

「そうなんだ」

「そうなんだ。と言われても……なにこれフェイクニュース?」

「いや、どうやら実際に起こったことらしいんだ」



 叙述トリックとは、主にミステリ小説で使われる技法の1つだ。


 例えば、”ボブの腹部にはナイフが刺さっていた”なんて文章がミステリ小説で出てきたら誰でも殺人事件が起こったものだと思いこむけれど、”ボブ”が人間であるなんて書かれてないから飼い犬だっていいし、腹部にナイフが刺せる構造のロボットだって通じるわけだ。こうやって人間の想像力を逆手に取って、真実を文章の中に巧みに隠して、いわば”読者を騙す”テクニックのことを叙述トリックと呼ぶ。



「いやでも、叙述トリックは騙されるから面白いんだろ?」

「でも読者を騙していることには違いない」

「しかし、読者はそれを望んで買うわけだろ」

「買う前に叙述トリックだと分かる作品は稀だよ」


 なるほど、そう言われると一時的にしろ読者を騙しているには違いないような気がしてくるから不思議だ。


「しかし、この訴訟が認められたらマズイんじゃないか?」

「そうだね」

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