第3話

 新しい家は、とても普通だった。

二階建てで、広さはやや狭く、家庭としては中の下といったところだろう。


 空は、少し落胆していた。

前に住んでいた所の方が何倍も大きかったからだ。

 相手側の意向もあるのだろうと思い、諦める。


 母は、インターホンを鳴らしてカメラの前に立った。


「はい」


 インターホンからは、嬉しそうな声が出てきた。

廊下を走っているのか足音が何度も鳴り響いてから、扉が開く。


「いらっしゃい。じゃないね。お帰りなさい」


 背丈は空より若干低く、少しキリッとした目つき。猫を連想させるが、どこか大人びていてとても美しいその顔を嬉しそうに歪ませている《女の子》がいた。


「おいババア、何か俺に言い忘れてる事はないか?」


「空に母親をババアって言わない様に育ててなかった事を相手側に伝え忘れたことかな」


 母は理不尽にも空の首を絞める。

完璧な首締めで空に呼吸を許さない。

 空は暴れながらも悪かったと母に謝り、離してもらった。


「仲良いんだね。お母さんと弟君は」


「眼科行った方がいいよ?」


「こらっ」


 頭をぶん殴られ、山の如くたんこぶが出来た。

姉?は、笑って空達を出迎え上がらせる。


 廊下の内装は、明るい雰囲気を醸し出していて空は《温かい家族》という言葉を頭によぎらせて首を振る。


 "絆されるな。俺は出ていくって決めているんだから関係ない"


 リビングの扉を開くと空の義父らしき人物がいた

姉?はキッチンへと消えていき、義父は立ち上がる。


「ようこそ、我が家族へ。空君だよね、麻里さんから聞いてるよ。よろしくね」

「・・・・・はい。よろしくお願いします」


 空は母への断糾を飲み込んで笑顔を作り義父に挨拶した。


「敬語はやめてくれ。家族なんだから」

「すみません。再婚の話は今日初めて聞きまして少々混乱しておりまして。慣れるまで待って欲しく・・・・・・頂きたい所存です」

「どんどん敬う方向へと進んでいる気もするが。慣れてくれるまで待つとするよ。どうぞ座って」


 空は三人用くらいのソファに座る。

ソファは二つ向き合って配置されていて、左奥にはテレビがあるという構成だった。


 母は空の隣に座るかと思いきや、義父と大変仲がよろしい様でちゃっかり義父の隣に座っている。


 知らん場所で息子を1人にすんなクソババアという言葉を飲み込んだ。


 甘えずにイヤホンをして遊園地にカップルと三人で行った様な気分を紛らわせようとすると、キッチンから姉?が帰ってくる。


 お茶を持ってきてくれた姉?は、俺らにお茶を差し出してペコリとお辞儀して、


「瑠璃。よろしく」


「空です。よろしくお願いします」


 すると、妙な間が生まれる。


 空と瑠璃は 

 "はい会いました。仲良くしましょう"というわけにはいかず面会のような雰囲気になっていた。


「空君はやんちゃだと聞いていたがいい子そうだね」

「やだ。この子たらね、今もだけど昔は・・・・・」


 そんな空と瑠璃の仲を取り持とうとしているのか、話しかけてくれるが、それを母が遮断する。


 瑠璃も新しい弟ということもあったのか、母の偏見クリームが大量に塗りたくられた話を聞きに行ってしまった。


 空はクソババアと心の中で悪態をつきつつも、肩身の狭い想いをしていた。


 空は自分を誤魔化す為にお茶を啜る。


「あ、おいしい」


 コクが効いていてされども苦すぎず、お茶の歴史を感じさせてくれる匂いが鼻に通った。


「よかった」


 瑠璃はその反応が嬉しかったのか、空の顔をじっと眺める。


「どうしたんすか?」

「いや? 初めての弟だから、嬉しくって。結構やんちゃなんだね」

「まぁ、そうですね」


 サバついた雰囲気で姉?と受け答えするが、虚しさでいっぱいだった為、非常にありがたかった。


「あっそうだ。お父さん、空に部屋案内してくるね」

「おっ、わかった。空君、困ったことがあればいつでも言いなさい」

「はは。ありがとうございます」


 非常にいい人そうだ。

もうすでに、異分子2人を受け入れて家族の大黒柱となっている。


 イチャイチャする2人に吐き気が催・・・・・邪魔をしては悪い為、2人はリビングを出た。


「空は再婚ってビックリした?」

「あんまり」


 瑠璃は、空の冷たい空気に少し困りながら階段を登る。


「私は驚きすぎてここの階段、転げ落ちちゃった」

「そうですか」

「は、ははは」

 

 瑠璃もあまり交友関係は広いわけではないので、空のようなタイプは慣れていなくて少し困ってしまう。


「いないものとして見てくれていいですよ」

「えぇ。」


 瑠璃は餅でできていそうなほおをぽりぽりとかきながら、2階に上がり廊下を進む。


「ここが空の部屋。自由に使って」


「ありがとうございます」


 そう言って空は、バタンと音を立てて拒絶し引きこもってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る